|
サードインパクト。
その過程の中で、あらゆる負の感情も含め全ての感情をぶつけ合った二人。
お互いを求め、お互いを憎み。そしてお互いを傷つけあった。
あれからいくばくかの時がすぎ、二人はそれでも一緒に暮す事を選択していた。
時間が解決する、という言葉は誰が考えついた言葉なのだろう?
誰が言ったのかは解らない。しかし、それが真理と思える事もある。
あれほど自分達の醜い心をお互いへさらけ出し、憎しみあっているとさえ思っていた二人。しかし、ようやく落ち着いた世界の中で時間はやさしく彼らを導き、ゆっくりと元の家族へと、そしてそれ以上の関係へと進んで行こうとしていた。
もちろん今も諍いは日常茶飯事。しかし二人は、その度に絆を深めていくような、そんな諍いのできる関係になっていた。
心の傷から相手に対して誰よりも鈍感だった二人。しかし今では、初めて同居して家族としてすごしたあの頃よりも、相手に心を開き通わせようとしていた。
友達以上、恋人未満。周りから見ればそんな風に見えるのかもしれない。
いままで人間関係で辛い事の多かった二人は、ようやく踏み出せたそんな関係に幸せを感じていた。
しかし、彼らはどうしても踏み出さなければならない一歩を踏み出せないでいた。
二人には未だ乗り越えてはいない一つのしこりが燻っていた。
そんな二人が迎える彼女の誕生日。
これまで燻らせていた気持ち。その日が近づくのに合わせるように、その火種が隠せない程大きくなっているのに二人は気が付いていた。
彼女は僕を許してくれたのだろうか?
彼はアタシを許してくれたのだろうか?
彼女を知りたい。
彼を知りたい。
「あしたはアタシの誕生日か・・・」
アスカはベッドの上に身体を投げ出し一人つぶやいた。
最近のアタシ達は、はたから見てても仲が良いと思う。
あんなにアイツの事が嫌いだったのに、今の自分の感情が信じられない気もする。
いや、確かに嫌いだったかもしれないが、それと同じくらいアイツの存在が気になっていた。
今なら素直にそう認められる。
今は・・・
シンジといるとドキドキする。
シンジとお喋りすると楽しい。
シンジと喧嘩したって楽しい。
シンジが側にいてくれて幸せだと感じる・・・
「でも・・・」
手を繋いでみたい。きっともっとドキドキする。
ちゃんとキスしてみたい。きっともっと嬉しい。
アタシを抱きしめてほしい。きっともっと幸せを感じられる・・・
シンジはアタシといるとドキドキする?
シンジはアタシとお喋りすると楽しい?
シンジはアタシが側にいて幸せだと感じてくれる?
「シンジはアタシの事どう思ってるのかしら・・・」
シンジはアタシとキスしたい?
シンジは・・・・・・アタシを抱きしめたい?
歓喜・不安・幸福・恐怖。アスカはありとあらゆる感情を心に浮かべながら天井を見つめていた。
今の関係はとても心地よい。こんな素敵な関係はいままで経験したことも無かった。
自分にとって何よりも大切な関係。
しかし、アスカには解っていた。
彼とこれからも一緒にいるには、どうしても解決しなければいけないものがある事を。
シンジはアタシを許してくれたのだろうか?
シンジが自分のそばから居なくなったらどうすればいいのだろう?
一緒にいて楽しいのはずなのに、嬉しいはずなのに、不安に押しつぶされそうになることがある。
幸福と恐怖。相反する感情にアスカはとまどっていた。
「アタシの誕生日・・・・」
明日の記念日は彼の気持ちをハッキリと知る良いチャンスだと思う。
二人がここまで燻らせてきた気持ちが、我慢の限界に達していることを感じていた。
彼が自分の事を想っていてくれるなら、必ず自分の気持ちを何かの形で伝えてくるだろう。
プレゼントを渡された時。その時が全ての決着点だ。そんな予感がアスカにはしていた。
アスカは待ち遠しくて来て欲しくない、そんな複雑な感情に心をかき乱されながら明日のその時を待つのだった。
運命の記念日当日。
例年と同じように、学校が終わった後にいつものメンバーが開いてくれた誕生日会。
それぞれに誕生の祝いをアスカに伝え、楽しかった誕生日会も滞り無く終了していた。
今年は気を利かせてくれたのだろうか、それとも雰囲気を察してくれたのか、いつもは夜中まで騒ぎ立つ彼らもみな早めに引き上げて二人きりにしてくれていた。
シンジからのプレゼントはまだ貰っていない。
プレゼントは二人きりの時に渡す。それが今の彼らのルールだった。
「アスカ。」
二人きりの楽しい会話も一区切りしたシンジは、部屋へ戻って大事そうに何かを抱えて戻ってきた。
ついに、その時が来たのね。
シンジはアタシをどう思っているの?
シンジ・・・・
アスカは祈るような気持ちでシンジのプレゼントを待っていた。
「アスカ、誕生日おめでとう」
シンジはゆっくりとプレゼントを手渡した。
アスカの手元には中くらいの箱。指輪やアクセサリーでは無いように見える。
一体何が入ってるんだろう?
シンジのどんな気持ちが入ってるんだろう?
気のせいかシンジも緊張しているようにもみえる。
期待で胸がドキドキする。不安で胸が張り裂けそう。
「アスカ、部屋で開けてみてくれないかな。」
シンジは真剣な目で彼女にそう告げた。
・・・中を見れば・・・全てが解るのね。
「うん。ありがと。」
アスカはそう言い残すと顔を伏せるように足早に自室へ駆け込んだ。
自室に駆け込んだアスカは、大事そうに抱えた箱を期待と不安で胸が張り裂けそうな視線でじっと見つめていた。
可愛い黄色のラッピングに大きな赤のリボン。
まるで、私のイメージカラーね。シンジらしい・・・
「よしっ」
いくばくかの葛藤の後、意を決したように一言つぶやくと、恐る恐るプレゼントを開け始めた。
リボンを解き、丁寧にラッピングを外していく。
残るは箱を開けるだけだ。
「アスカ、行くわよ!」
気合いの一言を入れると一気に箱のフタを取り去った。
・・・・・・・・・・・・・・
なにかしら、コレ?
上から見ると、まるで青いマリモのようなフォルム。
その中心からアンテナのようなものが伸びている。
つんつん
つついてみる。
・・・・布のような手触りだ。
??
アスカは思い切って箱から引き抜いた。
「何よ、コレ?」
アスカは眼前にあるものを未だに把握出来ないでいた。
青い。ひたすら青い。
丸がふたつ重なったゆきだるまのようなフォルム。
頭(?)からはアンテナのようなものが伸びている。プロペラ?
アスカはプロペラらしきものを片手でつかみ、本体をくるっと回してみた。
・・・・・・・・
そこにいたのは、前世紀から現代にいたるまで全世界の子供に人気を博したキャラクター。
人なつこそうな笑みでいて小馬鹿にしたような表情でアスカを見つめていた。
「人形?
・・・・コレ、だけ?」
アスカはプロペラを持った手を震わせながら、つぶやいた。
これが、シンジのプレゼント?
これが、シンジの気持ち?
アイツは何もわかっちゃいなかったの?それとも・・・
「嫌、イヤ、イヤ!!!」
アスカは一瞬にして感情を沸騰させると人形を壁に叩きつけた。
これがシンジのアタシに対する気持ちなの?
シンジはアタシの事なんて友達としか思っていないの?
シンジはアタシを許してくれないの?
アスカの海のような青い瞳からは、いつのまにか哀しみの色に染まった涙がこぼれ落ちていた。
どのくらい泣きながら人形を見つめていただろうか。
アスカはふらふらと立ち上がると人形の前にしゃがみこむ。
そして、ゆっくりと拾い上げると胸に掻き抱いた。
それでも、シンジのプレゼントだもんね。
シンジがアタシをどう思っているかは判った。でも、アタシの気持ちは変わらない。
哀しいけど、大事にしたい・・・
アスカは泣き疲れた顔で人形を抱いたまま、ベッドにふらふらと近づきそのまま倒れるように横になった。
まるでシンジの替わり、とでも言いたげな表情で抱きしめている人形を見つめていると、アスカはその人形にふと違和感を感じた。
プロペラの部分。たしかこのキャラクターの出ていたアニメでは空を飛ぶ道具だったか。
その部分が妙な方向へ曲がっている。
「ん、さっきので壊しちゃったのかしら・・・」
アスカは起きあがると、愛しそうに抱いていた人形の、頭のプロペラを直そうと手を触れた。
「あれ?何かこれ抜けそうだわ。」
アスカは恐る恐るプロペラを引き抜いた。
すぽっ
小気味よい音がして案外と簡単に抜け落ちたプロペラ。
アスカは恐る恐る人形の頭をのぞき込んだ。
そこはくり抜かれた空洞。
アスカは呆然としながら中を探ると、その中には小さな赤色のケースとそして畳まれた一通の手紙が収まっていた。
「これ・・・」
アスカは赤いケースを握りしめながら、一通の手紙をゆっくりと読んでいった。
『惣流・アスカ・ラングレー様。
お誕生日おめでとうございます。
急にこんな手紙を出して驚いたかもしれませんね。
迷惑かもしれないけど、どうしても君に伝えたいことがあって筆を取りました。
どうかほんの少しだけ君の時間をください。
僕たち、喧嘩どころか憎しみあった事もありましたね。
でも、あの浜辺で君と二人きりだった世界。あの世界で僕ははっきりと気が付きました。
君を殺したい程憎くて、君だけが世界に存在して欲しいくらい好きで、あの世界に僕と一緒に閉じこめてしまいたい程に君を求めていた自分に。
君は、あんな事をしてしまった僕を許してくれたんだろうか?
あれからみんなが戻ってきて、また当たり前のように二人で一緒に暮らしはじめて、初めはぎこちなかったけど時間が経つにつれて昔と同じように、それ以上に心が通じあえた。君に近づく事ができたと感じているのは僕の自惚れでしょうか?
許される事をしたとは思っていません。
これからも僕は君を傷つけてしまうかもしれません。
僕も君に傷つけられてしまうかもしれません。
それでも、一緒に居たい。一緒に居させてくれませんか?
心から君の事を想っています。
碇シンジ』
アスカは涙を堪えながら、手に持っていた小箱のふたをゆっくりと開けていく。
そこには、まばゆい光を内に秘めた美しい宝石のついたリングが佇んでいた。
「バカシンジ・・・・・カッコつけちゃって。」
こんな時でも憎まれ口を叩く彼女。しかしその蒼い瞳からは、彼女の素直な気持ちを乗せたほんのひとときだけ輝く、なによりも綺麗な宝石が流れ落ちていた。
しんじ
シンジ
シンジィ
うれしい
ウレシイ
嬉しい
シンジもアタシと同じ気持ちだったんだ。アタシを想っていてくれたんだ。そしてシンジもアタシと同じくらい怖かったんだ。アタシが許してくれるかずっと気にしてたんだ。だから、怖くて、こんな回りくどい事をしないと手渡せなかったのね・・・
でも、シンジは恐怖に堪えながら手をさしのべてくれた・・・
ちょっと男らしくないかもしれないけど・・・
シンジに言わなきゃ。アタシも同じ気持ちだって。何があっても、アンタとずっと一緒に居たいって。アタシも、アイツに手をさしのべるんだ・・・
ふとアスカが時計を見ると、あれからもう二時間も過ぎていた。
何も言ってなかったけど、シンジきっと待ってるわよね。
アスカは浮き立つ心を抑えきれないままシンジの部屋へ向かって歩き出した。
早くシンジに会いたい。早くシンジに伝えたい。
その心が伝わっているのか、すべるような足取りでシンジの部屋へたどり着く。
そしてドアの前で一呼吸。
「シンジ、居る?入っても良いかな?」
普段は有無を言わさず入るアスカだが、今日に限ってはそんな事はしたくない。今のこの気持ちを大事にしたいから。
しかしノックをしてみても返事は無い。
そのとき、風呂場のほうから物音がした。
「お風呂、かな?プレゼントの事、気付くまでずいぶん待たせちゃったもんね・・・」
アスカが苦笑しながら風呂場のドアを開けるとくもりガラスの向こう側にシンジのシルエットが見えた。
身体を洗っているのだろうか。シンジの背中のぼやけた姿が見える。
アスカは愛しさのあふれる表情ででしばらくその姿を眺めていた。
そして、ふと真剣な顔で何かを考えると、アスカは赤い顔に決意を込める。
ガチャッ
「ん?」
シンジは頭からシャワーを浴びていたら、後ろで物音がしたような気がした。
かぶったお湯を髪の毛ごと掻き上げて、後ろを振り向いた。
そこにはなにか赤いモノがみえる。
赤いモノから白いものが生えてるみたいだ。
何だろう、コレ?
シンジは下からゆっくりと視線を上げていく。
白くて綺麗な足。くすみの欠片もない、透明な指先。綺麗だ・・・
ほっそりとした足首。それに連なるなめらかなラインを描くふくらはぎと太もも。綺麗だ・・・
赤いタオルに包まれたやわらかなラインを描くウエスト。そしてタオルを巻いてもふくよかで形を失わない柔らかそうなバスト。綺麗だ・・・
信じられないくらい細い首と桜色の愛らしい唇。決して高くは無いが、ツンと上を向いた可愛らしい鼻。綺麗だ・・・
そしてなによりも彼女の美しさを決定づける意志の籠もった透明なブルーの瞳。僕の大好きな瞳。綺麗だ・・・
ぼんやりと彼女を見ていたシンジの意識は、じっと自分を見つめる彼女の深い瞳を見て弾けた。
「あ、ア、アスカぁ!?」
正気に戻り激しく動揺したシンジは、ガタガタとバスチェアーを軋ませながら後ずさった。
「な、何でアスカがこんな所に!?それに、その、格好は・・・?」
慌てるシンジに可愛さを感じたアスカは、そんな彼を愛しさの溢れる瞳で見やる。
「背中流したげるから、後ろ向きなさい。」
「せ、背中って。」
その間もシンジの目線はアスカの全てに集中して離れない。
決意を込めてここまで来たアスカだが、シンジの熱い視線を全身に感じて気恥ずかしさが増してきた。
全身が赤く火照るのが自分でも判る。
「良いから、早く後ろ向きなさい!」
恥ずかしさからつい声が大きくなってしまった。
「ご、ゴメン。」
シンジは全身を赤く染めながら、慌てて前を向く。
アスカはタオルを受け取ると、もくもくとシンジの背中を洗っていく。
そして丁寧にお湯をかけ終わり、すこしの間を空けて口を開いた。
「返事待ってたんでしょ?・・・・ごめんね、遅くなって。」
「うん・・・」
シンジのいつのまにか広くなった背中をみつめていると、長い間我慢していた抑えきれない気持ちがこみ上げてくる。
「アタシの気持ちを教えてあげる・・・」
彼女はそう呟くと、彼との間を隔てていた赤いバスタオルを落として、目の前の背中に抱きついた。
「これが・・・アタシの気持ち。」
背中に押しつけれた柔らかな双丘の感触にシンジの意識はスパーク寸前だった。
彼女の身体のやわらかさ。彼女の臭い。肩にかかる蜂蜜色の柔らかい髪。全てが愛おしい。
かろうじて意識を保ったシンジは、自分の胸の前で組まれたアスカの左手の薬指に、彼の贈った指輪が煌めいているのに気が付いた。
「これ・・・してくれたんだ。」
彼の表情が喜びの色に染まっていく。
そんな彼の表情を後ろから見ながら、アスカは大事そうに言葉を紡いでいく。
「手紙、アリガト。アンタの気持ちが良く解った。ちょっと、回りくどかったけどね・・・」
アスカは一瞬苦笑してから言葉を続ける。
「アタシ、嬉しかった。シンジが同じ気持ちを感じてたんだって・・・」
アスカは彼の濡れた髪に頬を擦りつけてつぶやく。
「アタシもアンタの事が憎かった。殺したいって思う事さえあった。
でも、それと同じくらい一緒にいたかったの。
きっと、あの世界を望んだのはアンタだけじゃない。
あの時に、自分の気持ちに気付いたのはアンタだけじゃない。
アタシもアンタと一緒に居たい。例えどんなに傷つけ合ったとしても・・・
それがアタシの選ぶ幸せのカタチだから。」
「アスカ・・・」
シンジはそういうと彼女の腕に手を触れてゆっくりと目を瞑る。
アスカは彼を抱きしめた腕にほんの少し力を込めてゆっくりと目を瞑る。
一緒にいようね。ずっとこのまま。
ずっとずっと手を繋いで行こう。
彼らは自ら手を差し出し、その手を繋いで大きな一歩を踏み出した。一人では超えることの出来ない壁。お互いの差し出した手で、それをついに乗り越えることが出来た。
二人が還ってきた世界は、彼らにとって楽しいだけの場所では無いだろう。
でも、二人で手を繋げばきっと世界は・・・・
(おわり)
あとがき
こんばんは、僕ドラえぽんです。
本作は5年ぶりのSSで、ドラえぽん自身初のEOEアフターものとなります。
あの時の二人を見てドラえぽんが感じた二人の感情。それを題材にしました。
愛情と憎しみ。二つは相反する感情のように思えます。しかしその根源は同じ所から出ていると思います。それはお互いへの執着心。ほんのちょっとしたきっかけで愛情は憎しみへと変わり、憎しみは愛情へと変わります。
EOEを見て特に強く感じたのは、二人のお互いへの信じられない程の執着心でした。すべての感情をぶつける相手として、お互いしか存在を許さない程の。あの時のそれが愛情だったのか、憎悪だったのかはドラえぽんにも解りません。お互いがお互いを求めた姿。それが、あの赤い海辺の二人の姿だったとドラえぽんは思います。
本作についてですが、「時間が解決する」なんて都合が良いと思われるかもしれません。しかし、みなさんも感じたことがあるかもしれませんが時間はあらゆる感情を癒してくれることがあります。
あの頃の彼らには心を癒す時間すらありませんでした。
異常な環境でお互いへの異常な執着だけが育ってしまった二人には、時間を掛けて普通の生活をして心を癒し、お互いの側で相手をじっくりと知ることが必要だったのではないでしょうか。そして、心の壁を乗り越えて相手へ自分から手を伸ばす事が必要だったのでは無いでしょうか。
支離滅裂で解釈も間違っているかもしれませんが、これがドラえぽんの感じた二人の可能性の一つでした。今回それをうまく表現できたか自信はありません。ここまで長い駄文をお読み下さりありがとうございました。 |