ぼうねんかい





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「ぬあんですってぇ〜!?」

ほら、やっぱり怒った。
と蛇に睨まれた蛙どころか、蛇に飲まれかけた蛙のような情けない顔でうなだれるシンジ。



時は風吹き荒む12月中半。そう、その時期と言えば日本の風物詩、忘年会シーズンである。
考えてみれば日本には独特の酒宴シーズンが数多くあるもので、新年会から始まり、雛祭り、お花見、七夕、お盆、お月見、七五三。果ては他宗教のクリスマスまで利用して酒宴を起こす。日本人はかくも酒好きな人種のようである。

そんなシーズンに入り、就職したばかりの新人サラリーマンシンジも当然のように忘年会へ強制参加となった。


ちなみに、シンジはネルフから離れた訳では無い。あくまでもパイロットとして登録されてはいるが、使徒はもう居ない。遊んでいてもパイロットとしての給料は支払われる。しかし愛する妻の為に自分の力で働きたかった彼は、ネルフ関連の民間企業へと就職する事となったのだった。


そしてアスカはなんと専業主婦になっていた。もちろんシンジ同様パイロットとして登録はされてはいるが。
その事実は、彼女の性格からして家庭に入るとは露ほども思っていなかった周りの人間達を驚愕させる事となった。

彼女にしてみれば、彼と二人きりの時間を一秒でも長く作りたかった為、というごく単純な理由だったのだが。
彼と一緒に働くという選択肢もあったが、自分の為に働きたいという彼の想いを無駄にしたくは無かった。
それならば、自分を心から想ってくれる彼の為においしいご飯を作って笑顔で彼を出迎えよう。それが彼女の選択だった。



さて、冒頭の彼女の怒声。
彼女は、ただ忘年会へ行くくらいの事で怒っていたのではない。

温泉への泊まりの忘年会など本当は体を張ってでも行かせたくは無いが、さすがにいつも我が侭な彼女もそんなことで駄々をこねるような、そんな狭量な人間とは彼に思われたくは無かった。


問題は忘年会のその中身である。
彼の同僚にして親友。そして彼女の腐れ縁の知り合いでもある、相田ケンスケ幹事の忘年会。
それだけで嫌な予感を覚えたアスカだったが、案の定彼女の怒りを買うような内容であった。


帰宅してから、そわそわと落ち着きのないシンジを問いつめて出てきた忘年会の内容。

まず一次会は30人のコンパニオンを呼んでお座敷遊び。そして二次会はそのコンパニオン達を引き連れてそれぞれに飲めや歌えの大騒ぎな予定である。当然、何人かはお持ち帰りもあるのだろう。男所帯の企業にありがちな王道パターンである。

それを聞いたアスカは怒り心頭。最近はあまり殴られなくなったシンジだが、流石に身の危険を感じて思わず久しぶりに逃げ出しそうになるほどだった。そして冒頭の怒声へと続く。




「ぬあんですってぇ〜!?」

今なら視線で鳥も落とせる。それほど凄まじい怒りのオーラを纏うアスカに怯えるシンジは、なんとか声を絞り出して言葉を返した。

「いや、僕だって行きたくて行く訳じゃ無いんだよ・・・」

それは真実だった。同僚達と飲みにいくのは良い。だが、コンパニオンがいるとなると話しは違う。
シンジとて女性嫌いと言うわけでは無い。だが、自分の妻より魅力的で可愛い女性が世の中に存在するとはとても思えない。彼にとって女性とはアスカそのものなのだ。
そんな彼女の怒りを買ってまで、他の女性の居る所へなど飲みに行きたくはない。


そんな考えを知ってか知らずか、彼女は彼の首を絞めてガクガクと揺らしながら叫ぶ。

「じゃあなんで参加するのよー!!!」

彼は泡を吹きそうななさけない顔で泣きながら答える。

「行かないと職場のみんなにハブにされるんだよぅ〜。」

・・・なんとも情けない旦那ではある。しかし、大事な夫を職場で浮いた存在にはしたくない。

だが・・・・とても許せない!



ハアハアと肩で息を付く二人。

息をなんとか整えたシンジが彼女へ諭すように語りかける。

「アスカ、僕ぜったいに浮気なんかしないよ。コンパニオンなんか見たくもない。僕だってそんな事の為にアスカと一晩も離れたく無いもの。」

首を絞められたせいか、潤んだ瞳で見つめるシンジ。

アスカは彼のこの瞳に弱い。
昔はこの瞳で覗かれると、心を全て見透かされそうで怖くて仕方がなかった。
でも本当は、この瞳の中に自分だけを映していたかった。

そんな瞳で見つめられると、心を開いた今ならなんでも許してしまいそうになる。


「・・・・仕方ないわね。」

彼女はふうっとため息を付く。


「その変わり。忘年会に行くまでいつもの三倍よ!」

と、得意のにやり笑い。何が三倍かは二人の秘密である。




つづく

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