ぼうねんかい





−1−


時は2020年。
吹き荒む冬の北風の中、それに逆らうように歩く若い男は呟いた。

「絶対、怒るだろうなあ・・・」


一見ではなかなかの美少年顔の彼。そんな顔を情けなく崩した彼はトボトボと歩いていく。
まるでリストラにあった直後のサラリーマンのような今の姿を見ても、彼に憧れている女性達(本人は気付いていないが実は結構いるのだ)は全く彼とは気付かないであろう。

彼をそんな情けない顔にしている張本人、彼女の姿を彼は思い浮かべた。
思い浮かぶのは腰に手を当て、彼を罵倒する姿。そのオーラはあの伝説の覇王、ラオウもかくやというものだ。


「でも、そんな所も結構可愛いんだよなぁ・・・」

などと呟き、急にしまらないでれっとした顔をする男。
どちらにしても情けない顔である。

こんな彼の様子を彼の友人達に言わせれば、『病気だな。』の一言だそうだ。


だが、彼はそれでも良いと思っている。これで彼は幸せなのだ。
彼女とあの紅い海の世界から帰り、こうして彼女の側に居られるようになるまでの間に、決定的な破局を迎えようとした場面が一度だけあった。
その時彼は思い知らされた。彼女無しでは生きていけない、と。

彼にとって彼女と一緒にいるのは言わば必然。
誰が何と言おうと彼の幸せは彼女の隣にあった。

そして今、彼女も自分といて幸せだと思ってくれている。自分でもたまに夢ではないかと思ってしまうが。


そんなこんなで、18歳になった彼らは当然のように夫婦となった。
14歳の頃からずっと一緒に暮らしてきた二人なのにいまさら、と友人達の中には言うものもいた。
回りから見ればそうだったのかもしれない。しかし、彼らには重要な儀式だった。

お互いの絆をカタチとして確認したい。もちろん、他人にも知らしめたい。
彼女の全ては自分のものだ、と。
彼の全ては自分のものだ、と。


いつも自分を一喜一憂させる、そんな愛する妻の元へと彼は無意識のうちに足早に急ぐのであった。


「ただいま〜。」

彼の声が響くと同時に、リビングのほうからぱたぱたと小走りに走ってくる音が聞こえてくる。
勢いよく開け放たれたドアからこぼれる美しい金色の影。
次に現れるのはクジラの瞳のような深い深いマリンブルーの瞳。
そして満面に花咲くひまわりの様な笑顔。

そんな彼女の姿が視界一杯に広がる。


むちゅ〜っ


一度暗転した彼の目に次に飛び込んだのは、上気してつやつやした彼女のほっぺた。

「おかえり、シンジ。」

彼の大好きな小悪魔的な笑顔。思わず頬がだらしなく緩んだ。




つづく

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