きっかけは、フ○テレビ、だった。
「ちょっとアスカ!!あなた、何やってるのよ!!」
「は?何よ、どうかしたの、ヒカリ」
「テレビで見たわよっ!!アスカがあんなことする人だったなんて……不潔よっ!!」
|
僕、碇シンジは、教室の中で大声でアスカを責める委員長を、呆然として見ていた。
アスカが?テレビで?
何をしたって言うんだろう……
「ちょっと、落ち着いてよ、ヒカリ。何のこと言ってるのか、さっぱりわからないわよ」
「しらばっくれないで!!テレビにしっかり、映ってたんだからねっ!!」
委員長は、聞く耳持たない、って感じだった。珍しく、アスカは困ってるみたい。
ふと、僕は周りの雰囲気がおかしいのに気付いた。
これだけ委員長が叫んでいるのに、静かなんだ。
見ると、皆、ひそひそと小声で話してて、その目は、アスカに向いている。
普段とは全然違う、好意的でない視線に、アスカは気付いてないみたい。
それだけ委員長の突然の行動に、驚いてるのかな。知ってたら、怒り出してるだろうし。
それにしても……
いったい、何があったんだろう?
「はぁっ!?アタシが、んなことするはずないじゃないっ!!」
どうにかこうにか、委員長をなだめすかし、落ち着かせたアスカ。僕は、自分の机に座って、成り行きを見守っていた。
やっと口を割った……もとい、口を開いた委員長の話を聞いたアスカの反応が、さっきの大声。
僕はと言うと、声も出せない、ってところかな。
それだけ、委員長が話した内容はショッキングなものだったんだ。
要約すると、こういうこと。
テレビの番組で、第三新東京市のことをやっていたんだって。
タイトルは、『暴走する十代 乱れきった少年少女の生態』。
ありきたりのタイトルだよね。内容は、まあいわゆる、僕と同年代の子供達が、どんな生活をしてるのか、ってことを大げさに取り上げては、批評家達が困った顔をする、ってやつ。
そこまで面白いものなのかな?経験者は語る、じゃないけれど、家出したことがある僕としては、何が楽しいのか、僕には全然わからないや。
正直、僕には理解できないけれど、でも、そういう風にしたくなることだって、あるんだろうな。皆、楽しい思いはしたいだろうし、辛いことから逃げたくもなる時だってあるだろうし。
まあそんなことはともかく。
委員長も昨日、何気なく、そんな番組を見てたんだって。
最初はぼーっと見てたらしいんだけど、ある少女の話になって、とっても驚いたらしい。
だってそこにいたのは、アスカだったんだもの。
顔にはもちろん、モザイクがかかってたし、声も変わってたんだけど、髪の色と話し方から、一発でわかったらしい。
まあ確かに、アスカは何もしてなくても目立つんだもの。ちょっとモザイクかけられたぐらいじゃ、わかって当然だよね。
で、その中身なんだけど。
『ほらほら、金出しなさいよっ?まだ持ってんでしょ?』
『うう……もうないです……』
『チッ、しけてるわね。たったの二万円しか持ってないなんて』
『何で……』
『はっ!アタシに声かけて、ホテルに連れ込もうとしたのアンタでしょうがっ!汚いもん見せようとして、罰金よ、罰金』
『うう……誘うような仕草をしてたのは、そっちじゃないか……』
『あ〜ら、勘違いしたのはそっちじゃない。アタシは別に、普通にしてただけよ?』
『……だまされた……』
『あら、アンタ、妻子持ちなんだ〜?ふーん。このこと、アンタの家族に教えたら、どうなるかな?』
『!!そ、それだけはやめてくれっ!!』
『じゃあ口止め料、払ってもらおうかしら。明日もしっかり来んのよ?わかったわね!!』
『うう……わかった……』
『じゃ、免許証とこの手帳、預かっておくから。しっかりたんまり持ってくんのよ?いいわねっ!!』
『………………』
……っていう内容だったらしい。
隠しカメラで撮影したらしいんだけど、そんなシーン、撮れるのかな?
「あれはどこからどう見ても、アスカに間違いなかったわよっ!!」
……問題はそこじゃなかったよね。
それを見た委員長が、アスカのことだと信じ込んじゃったことが問題なんだ。
……そっか。皆がおかしいのは、委員長と同じテレビを見たせいなのか。
「だから、アタシじゃないわよ、ヒカリ」
「本当に?」
「本当よ……」
「……嘘っ!!アタシにだけは本当のことを言って!!何でも力になるからっ!!」
おんなじ会話をもう、十回は繰り返してるんじゃないかな。アスカもさすがに疲れてるみたい。
でも、友達を大事にする委員長が、あんなに頑固に拘るんだから、よっぽど似てたんだろうな。
「センセ、えらい落ち着いてるなぁ」
トウジが声をかけてくる。やっぱり、その番組、見たんだろうか。アスカを見る目が、いつもより冷たい。
「トウジも疑ってるの?」
「そういうわけやないが……」
口ごもってちゃ、認めたようなもんだよ、トウジ。
「そうは言ってもなぁ……」
「シンジは、見てないから、そう言えるんだよ」
ケンスケまで、トウジに加担して。
「俺も見たんだけれど、あれは間違いなく、惣流だよ。絶対に」
珍しく真剣な顔で、断言するケンスケ。
「俺はずっと、惣流の写真やらビデオやらを撮ってきたんだ。見間違えるはずない」
変なところ自慢するなぁ。
ともかく、ざっと見るだけで、教室の半分ぐらいの人間が、番組を見ていたらしい。
で、残りの半分も、話を聞いて、疑いの目を向けている。
そんな冷たい視線を送っていないのは、僕と綾波、それにカヲル君ぐらい。
もっとも、綾波は、味方というより無関心って感じだし。カヲル君はいつも通り、微笑んでるだけで、どう思ってるかなんてわからない。
「アタシじゃないって言ってんでしょうがっ!!」
さすがに皆の見る目に気付いたんだろう。
怒鳴って机を蹴り上げるアスカ。
教室中に響いたその音は、だけど、何だか虚ろな響きだった。だって、皆の目が、余計に冷たくなったんだもの。
「何よ、何でそんな目で、アタシを見んのよっ!!」
アスカは険悪な視線を周囲に向ける。目を合わせないようにそらせるクラスメイト達。真正面からじゃなく、横目でチラチラ見てる。
頬が、怒りに染まり始めてるアスカ。キレかけてる、ってことが、僕にはわかった。
まずい、止めなきゃ。
そう思い、立ち上がろうとした時、校内放送が流れた。
『2−Aの惣流=アスカ=ラングレーさん、教官室に来なさい。繰り返します……』
その声を聞いて、アスカは肩を震わせながら教室を出ていく。
最後に、チラリと振り返り、クラスメイト達を睨んだアスカの瞳には、抑えきれない怒りが溢れていた。
だけど、僕と目が合って。
そんなこと信じてないよ、って、ニッコリと笑ってあげると。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。
アスカは、頬を緩めたんだ。
その日、アスカは、教室に帰ってこなかった。
アスカの鞄を持って帰った僕だったけれど、その夜、顔を合わせることは出来なかった。
ずっと、部屋にこもってたんだ。
僕じゃなくて、アスカが。
教官室に呼び出されたアスカが、何を言われたか、僕は少しだけ、聞いていた。
先生達の中にも、あの番組を見た人がいて、やっぱりアスカのことだと思ったらしい。
それで呼び出されて、問い詰められたんだ。
何であんなことしたのか、って。
おかしいよ。アスカはそんなことする子じゃないのに。
だけど先生達は、決め付けてたみたい。
頭ごなしに言われて、怒ったアスカは、学校を飛び出したらしい。
多分、そのまま家に帰ってきたんだろうな。
「アスカ……鞄、ここに置いておくから」
声をかけても、返事はなかった。
ただ。
多分、アスカは。
泣いてたんだと思う。
微かに聞こえる嗚咽に、僕は何も言うことができず、立ち尽くした。
その晩、ミサトさんは家に帰ってくることはなく。
僕は一人で寂しく、晩御飯を食べた。
いつもの騒がしさがない食卓。
快心の出来のはずの豚キムチも。
全然、おいしく感じられなかった。
「アスカッ!!あんた、なんてことしたのっ!!」
何だか色んな事があったせいか、ベッドに入った途端、泥のように眠っていた僕だったけれど、唐突に家中に響いた大声に、目を覚まさせられた。
驚いて飛び起きた僕は、その声が、ミサトさんのものだということに気付いた。時計を見ると、朝の六時をさしている。
「知らないっ!!アタシじゃないわよっ!!」
「言い訳なんて聞きたくないわよっ!!」
「違うって、言ってんでしょうがっ!!」
ただごとではない雰囲気に、僕は部屋を出る。
二人はリビングにいた。
顔を真っ赤にしたミサトさんと、逆に青ざめさせてるアスカ。あんまり怒りすぎて、血の気が引いちゃってるんだと思う。
二人ともにらみ合い、お互いに向ける視線は、激しい怒りに彩られていた。
「どうしたんですか、ミサトさん」
出来るだけ冷静な声を出そうとしたけれど、成功したかどうか。それほど、二人の雰囲気は険悪なものだった。
見ると、ペンペンが部屋の隅で、怯えて震えている。
「シンちゃん?」
僕に目を向けて、一瞬、戸惑うミサトさん。アスカは、その横顔を睨みつけている。
「朝っぱらから、近所迷惑ですよ。ともかく、落ち着いてください」
「……そうね。わかったわ」
とりあえず、といった感じだけど、ミサトさんは矛先をおさめる。
「何があったんですか?」
「シンジ、聞くことなんてないわよっ!!酔っ払いのたわごとなんだから!!」
「何ですって!?」
また始まりそうになる言い争いに、僕は慌てて間に入った。珍しく、気のきいた行動がとれた……なんて言ってる場合じゃないよね。
「ミサトさんも、アスカも、止めてくださいっ!」
多分、僕は必死な顔をしてたんだと思う。不承不承といった感じで、顔を背けるアスカとミサトさん。
そのままアスカは、僕を見ようともせず、自分の部屋へと戻っていった。ドスドスと、足音荒く。
その後姿を見ていたミサトさんは、やがて大きくため息を吐いた。
「ごめんね、シンちゃん」
「いえ……でも、本当に、どうしたんです?何があったんですか?」
「…………」
ミサトさんは口ごもってしまった。迷うように、あちこちに視線を飛ばしてる。
「……いいわ。どうせ、黙っていても、わかることだし。シンちゃんにも、聞かなきゃいけないことがあるから」
そうやってミサトさんは話し出す。
僕はまた、愕然としてしまった。
あのテレビ番組のことかと思ってたんだけど、違ったんだ。
それは昨日の夜のこと。
NERVの職員の一人が、帰り道に襲われ、現金やら何やらを全部、奪われちゃったんだって。
気を失ったまま発見されたその人は、病院に運び込まれた。
敵対組織の襲撃かもしれない、ということで、警戒態勢がとられ、ミサトさんもそれで、昨日は家に帰れなかったらしい。
幸い、怪我は大したことなく、今朝早くに目を覚ましたんだけれど、そこでまた問題が起こった。
その人が、自分はアスカに襲われた、って言ったらしい。
最初は相手にされなかったけれど、絶対に間違いない、そう言い張るので、少し調査されることになった。
そして、確かにその人が言うとおり、その時刻、近くの場所で、アスカらしき少女を見た、という人がいたらしい。
そんなこんなで、疑惑の目がアスカに向けられ、ミサトさんがとって返したというわけ。
「それでね、シンちゃん。昨日の晩、アスカ、どうしてた?」
探るような目で、僕を見てくるミサトさん。
「どうって……アスカなら、ずっと家にいましたよ」
「本当に?シンちゃんが寝てる間に、出てったりしてない?」
そう言われると、自信はない。実際、昨日の朝から、僕は一度も、アスカの顔を見てなかったんだから。
「寝てても、出て行ったりしたら気付きますよ」
だけどそんなことを、言うわけにはいかない。
だから、僕は嘘を付いた。
「ふぅん。そう」
それだけでミサトさんは、僕への質問を終わらせたんだけど。
最後に見せた、猜疑の視線が、嫌に僕の心をざわつかせた。
僕の嘘は、結局、何の役にも立たなかった。
ミサトさんの家は、IDカードが鍵代わりになってる。そして、いつ、扉が開いたか、なんて記録まで、しっかり残るようになってるんだ。
その記録によると、深夜遅くに、扉が開いたらしい。
それだけじゃない。
忘れていたけれど、チルドレンには、それぞれ影からの護衛がついていたんだ。
そして彼らは確かに、アスカがコンフォート17を出るところを目撃していた。
追求されたアスカは、コンビニに行っただけ、と主張した。
「そんなこと、護衛が見てたんでしょう」
護衛は、見ていなかった。何故なら、誰かに昏倒させられたから。
それでよく護衛なんて勤まるよね。
しかもアスカを一瞬、見失ったと思ったら、気を失ったっていうんだから、出来すぎだよ。
けれど、そう思ったのは僕だけで、皆、アスカがやったと思ったらしい。
らしい、というのは、確証がないから。
結局、アスカは、しばらくNERVで生活することになり、身の回りのもの一式をもって、家を出て行った。
「アスカ……」
声をかけた僕を、一瞬、ちらっと見たアスカ。その顔はひどくやつれていて、一瞬、アスカじゃないように見えた。
「……バカシンジ……」
僕の心配そうな顔に気付いたアスカは、ちょっと怒ったような顔で、でも笑ったんだけれど。
とても無理して、作った笑顔ということが、僕にはわかった。
あれから、一週間。
アスカはずっとNERVに軟禁されていて、学校にも顔を見せない。
僕は何度か、訓練の合間を縫って、会いたいと思ったんだけど、ミサトさんに却下されてしまった。
「まだ、罪は晴れたわけじゃないの。シンジ君に会わせることはできないわ」
そう言った時のミサトさんは、僕達の保護者としてではなく、NERVの作戦本部長の顔をしていた。
「……心配しないで。もう少しの辛抱だから」
何もいえず、うつむいた僕の、苦しそうな顔を見て、ミサトさんはちょっと顔を緩める。
「……それじゃ……」
「でも、今はダメよ」
微かな希望も、空しく潰えた。
「お願い、わかってちょうだい……あたしだって、辛いんだから」
そう言った時のミサトさんの顔は、本当に心を痛めてるように見えたから、僕は何もいうことが出来なかった。
「暇だなぁ……」
思わず口をついて出た言葉に、改めて僕は、自分が暇を持て余していることに気付かされる。
今日は、日曜日。お昼過ぎ。
掃除も洗濯も、もう済ましてしまった。
いつもなら、アスカが、やれどこかに連れていけだの、やれお菓子を食わせろだのとうるさいんだけれど。
まだ、アスカは帰ってきていない。
もうこれで、十日目になる。
何をしてるんだろう……
ぼんやりと考えていると、ペンペンが僕を心配そうに覗き込んできた。
「ありがとう、ペンペン」
クゥ〜
哀しそうに鳴き声をあげるペンペン。
そうだよね。
ペンペンにとっても、アスカは大事な家族なんだから。
「早く、アスカが帰ってくるといいね」
頭を撫でてやると、僕の言葉がわかったのか、軽く頷くペンペン。
そして、翼をパタパタと動かした。
「何?僕に、元気出せ、って言ってるの?」
今度は大きく頷く。
その目を見てると、本当に、元気付けられた気分になる。
「そうだよね……僕が、ちゃんとしないといけないんだ」
自分に言い聞かせる。
一番、辛いのはアスカなんだから。僕が落ち込んでたって、仕方ない。
ともかく、気分転換をしなきゃ。
「……買い物にでも行こうかな」
何を買うかは、すぐに決まった。
ハンバーグを、いつでも作れるように、材料をそろえておこう。
帰ってきた時、アスカの大好物で、迎えてあげるんだ。
だけど、外に出て、しばらく歩いたところで、携帯のベルが鳴った。
画面に浮かぶのは、ミサトさんの電話番号。
すぐにとる。警戒警報が出ていないから、使徒ではないんだろうけれど……
「もしもし?」
「あ、シンちゃん?アスカ、そっちにいる?」
聞こえてくるのは、慌てふためくミサトさんの声。後ろで誰かが駆け回っているのか、バタバタとうるさい音がしていた。
「アスカですか?帰ってきてませんよ。NERVにいるんじゃないんですか?」
「抜け出したみたいなのよ!!とにかく、見かけたら、連絡をちょうだい。それじゃ」
プツッ ツーツーツー
一方的に切られてしまった。
それにしても、抜け出したって?アスカが?
何があったんだろう……
僕は携帯を手に持ったまま、途方にくれてしまった。
スーパーに向かって歩きながら、僕の頭の中は、アスカのことでいっぱいだった。
どうして、アスカは抜け出したりなんかしたんだろう?
退屈、だったんだろうか。ずっと外に出られないのが。
それとも、何か他の理由が……
じっくり考えて、僕は思い至る。
アスカは、自分で犯人を捕まえるつもりなんだ。
もうずっと、軟禁されてるけれど、新しい犯行は起こっていない。
きっと、アスカを見る皆の目には、一層、深い猜疑が含まれているんだろう。
そのことに、耐えられなかったんだ、アスカは。
だから、抜け出して、一人で捕まえようと……
「止めなきゃ……」
はっと気付いて、僕は思わず、考えを口にする。
油断していたんだろうけれど、犯人は、大の大人、それも訓練された男を、簡単にのしちゃってる。
アスカは弱いわけじゃない。むしろ僕なんかより、よっぽど強いけれど、万一、ということも考えられる……
僕はいきなり、走り出した。
アスカの姿を探し求めて。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
探し始めたのはいいけれど、僕にはあてなどなかった。
考えてみれば、本職の人達が探し回ってるのに、見つからないんだから、僕みたいな素人が走り回ったところで、見つかりっこないのかも……
頭に浮かんだ弱気な考えを、僕は振り払う。
何を言ってるんだ。もしかしたら、アスカが危険な目にあってるかもしれないんだぞ。悠長に構えてちゃいけないんだ。
でも……
僕の思いつく限りの場所はあたったけれど、見つからない。
あんなことがあった後だから、委員長の家にも行ってないだろうし……
後は……
!!
再び、僕は走り出した。
息が上がる。足ももう、棒みたいだ。
フラフラになりながら、僕がたどりついたのは、高台の公園だった。
そう。ユニゾンの訓練の時、僕とアスカが話した場所。
「いた……」
やっぱり、アスカは、そこにいた。
「アスカ……」
近づく僕の影に気付いたのか、顔を上げるアスカ。
「シンジ……」
ブランコから立ち上がり、アスカは僕に近づいてきた。
目の前で立ち止まる。その顔は、少しだけ濡れていた。
頬を伝う、涙で。
「アスカ……その……大丈夫?」
もっと気のきいたセリフが出ればいいんだけれど、僕はそうとしか言えなかった。
アスカは、ゆっくりと笑う。
「ま、大丈夫、っていやあ、大丈夫ね」
作り笑いだってことは、すぐにわかった。
痛々しい……僕はそんなことを感じていた。
「その……ミサトさんも、皆も、心配してるよ……」
「フン……何が心配してる、よ」
アスカの目に一瞬、激しい光が宿る。
憎悪の炎が、蒼く揺れている。
「アタシのこと、信じようともしないで!!」
吐き捨てるような言葉に、僕はたじろいでしまう。
でも……確かに、アスカの言うことにも一理、あるかもしれない。
ミサトさんも、委員長も、トウジも、ケンスケも。
アスカがしたと思って、疑ってないみたいだった。
自分の覚えのないことで責められるなんて……辛すぎるよね。
「アスカ……」
もしも、僕がそうだったら……
そう考えたら、何も言えなくなった。
「でも……」
しばらく続いた沈黙を破ったのは、アスカだった。
ゆっくりと僕の目を見る。
「アンタは、信じてくれるわよね……?」
初めて見る、こんなアスカは。
口調は強がっているけれど、でも。
とても、弱々しくて。
すがるような視線だった。
「もちろんだよ」
他に、何を言えと言うのだろう。
「アスカは、そんなことをする子じゃない。僕は、そう思ってるし、信じてるよ」
だって、本当にそうだもの。
アスカが、誰かを襲って、金を巻き上げるようなことをするなんて、僕には考えられない。
そんなことしなくたって、アスカはいつだって、自信満々で。
お金がないからって、そんな下劣なことをするぐらいなら、耐える方を選ぶだろう。
それぐらいのことは、出来るはずだもの。
何てったって、エヴァンゲリオン弐号機のパイロットで、天才なんだから。
それに僕は、日本に来てから、一番近くで、アスカを見てきたという自負がある。
だから、わかる。
あれは、アスカじゃない、って。
「……サンキュ、シンジ……」
微笑むアスカ。だけど、さっきのような、作り笑いという感じじゃない。
自然と浮かんだものなんだろう。
不謹慎かもしれないけれど、なんだか、嬉しかった。
僕に、アスカを笑わせるなんてことが、出来ると思っていなかったから。
「……アスカ……」
これからどうしようか。
そう声をかけようとした瞬間だった。
「シンジ?」
背中からかけられた声に、僕は思わず振り返った。
その声に、聞き覚えがあったから。
そこにいたのは……
「アスカ!?」
アスカ、だった。
慌ててもう一度、振り返る。
そこにいるのも。
アスカ……
僕は何度も、二人の姿を見比べた。
同じ服。同じ髪の色。同じ瞳。
まったく、違うところのない二人のアスカ。
「アンタ……誰よ?」
「アンタこそ、誰よ?」
戸惑いしかない二人の声を聞きながら、僕は。
ただただ、呆然とするしかなかった。
アスカが……二人……
<後書き>
どうも、ガラガラ猿です。『君が、二人』前編をお送り致します。
さて、シリアスなこの話ですが……次回どうなるか、私にもわかりません(苦笑)。おかしいなぁ、ギャグっぽい作品にするつもりだったのに、何故かこうなってしまった……
現在の予定では、ギャグになると思われますが、実際どうなるかは、書いてみないとわかりません。
ま、お楽しみ、ということで。ってそれでいいのか、私が。
後編へ続く
| ぬおっ、アスカ様が二人?何ヤツ!? と言うわけで、ガラガラ猿さん投稿ありがとうございます〜(^ ^ それにしても、もう一人のアスカ様は一体何者なんでしょうか。 もしや影武者?・・・影武者アスカ様次郎三郎が犯人か!w 誰も信じてくれない中でたった一人アスカ様を信じるシンジ君。 うおおっ、こんな二人は燃える!燃えるシチュエーションだヽ(。>∀<)ノうひょう!←アホ アスカ様が安堵して笑うシーンがまた良いッスね! さあこの後二人にどんな展開が待って居るんでしょうか。そして二人目のアスカ様は一体!? 次回、後編が楽しみですね〜(^ ^ さあ、ドラえぽんと同じで次回が待ちきれない!という方はガラガラ猿さんに是非ともご感想を! ガラガラ猿さんへのご感想はこちらへお願いします。 または感想掲示板へもお気軽にどうぞ。 ガラガラ猿さんにはまだまだ投稿掲示板へも作品を頂いております。こちらも要チェックです。 |
|
| トップページへ | 頂き物のお部屋へ |