男の後姿を見つめ、少年は叫ぶ。だが、男は振向こうとしない。静かに、前へ前へと歩
く。その速度は速く、男の体は光り輝く廊下から、暗い扉へと消えていった。
 少年は、その後姿を見つめながら、目を真っ赤に腫らして泣いていた。右手には、その
男の顔写真と、傍らで赤ん坊を抱きしめている女性の写真があった。少年は、その写真を
見つめ、もう一度前を向く。だが、そこには誰もいなかった。そして、少年は泣きじゃく
りながらその写真を自分のポケットにしまった。







 ff(フォルティッシモ)

第八楽章

〜過去:1〜





「シンにぃ!」
 レイが、シンジの体を揺さぶりながら、そう声を上げる。シンジは、ゆっくりとまぶた
を開け、横に目を向けると、レイの元気な笑顔が飛びこんできた。

「――あれ?」
 まだ寝ぼけている声を上げ、シンジの意識が少しづつはっきりとしてきた。

「……最近寝てないのかい、シンジ君」
 カヲルが、心配そうに聞いてきた。そのため、シンジは自分が寝ていたことに気がつい
た。

「――寝てたんだ、僕」
 シンジはそう言うと、ゆっくりと体を起こし、足元を見た。そこには、燃え尽きた煙草
の吸殻が転がっていた。

「まったく、家の中じゃなかったからよかったものの、寝煙草しないでよ、シンにぃ」
 はっきりとした意識に、レイの甲高い声が飛びこんできた。シンジは少し顔をしかめる と、「ごめん」と、一言呟いて欠伸と伸びを同時にした。そしてふと、夢の内容を思い出し、
顔をしかめた。
 ――何年ぶりだろう、あの夢を見るのは。
 シンジはそう思いながら、ベンチを立った。









 アスカは、ミサトの一言が引っかかり、教えて欲しいと目で訴えた。
 ミサトは、それを見て少し困った顔で加持の顔を見つめる。加持は、しょうがないな、
という顔をミサトに見せ、「……昔の話だ、シンジ君には内緒だぞ」と言う。
 アスカは、ゆっくりと頷いて、加持の方に目をやった。









 十五年前









「碇!」
 白髪交じりの初老の男性が、自分の前を歩いている男の名を呼んだ。
 男は足を止めると、ゆっくりと後ろを振り返った。そして、「冬月さん」と、静かに一言
呟いた。

「……シンジ君を私の養子にしろとは、どういうことだ?」
 冬月の声は少し感情的だった。そのためか、彼の顔は紅潮していた。
 碇は、まるで人形の様に表情を変えず、メガネをかけなおすと、冬月の方を見つめ、「私
の活動に邪魔になるので」と、一言呟いた。
 刹那、碇の顔に冬月の拳が飛んだ。
 鈍い音を上げ、碇は地面に倒れこむ。そして、肩肘を突いて体を起こすと、唇から流れ
る血をぬぐった。
 冬月は、そんな碇を見を下ろしていた

「……お願いしますよ、冬月先生」
 碇はそう言うと、立ち上がってほこりを払った。そして、怒りに震える冬月の顔を見た。
皺の刻まれた顔は赤く、鋭い眼光が碇を睨んでいた。

「……お前は、それでも父親か!」
 肩を震わせながら、冬月は叫んだ。だが、碇はその大声に臆することなく、静かに冬月
を見つめ、「……その資格なんて、ありませんよ」と、静かに呟く。

「……お前はそれでいいかもしれんが、ユイ君はどうする」





「あら、冬月先生、お久しぶりです」
 病室のベッドで上半身を起こしている女性が、やさしい声でそう呟いた。
 冬月は、上半身を起こしている女性、碇ユイの姿を見ていた。頬はこけ、肌の色は、じ
ょじょに血色を失って、今では雪と見間違えるほど、白くなっている。
 昔の彼女の見る影もなかった。そして今、彼女が死んでいく、ということが実感できる
ほど、彼女の体からは生気が失っていた。

「……久しぶりだな、ユイ君」
 冬月は、悲しみを押し殺しながらそう呟いた。


「……そうですか、夫が」
 ユイは、静かに呟く。

「ああ、君が死んだら、私の養子にしろとね……それと、すまない、とも言っていたよ」
 冬月は、吐き捨てるように言うと、夕焼けが刺しこむ窓に目をやった。

「……冬月先生」
 不意に、ユイが言葉を発した。「なんだね?」と、冬月は静かに聞き返し、ユイの方を見
つめた。彼女の顔は逆光のため、あまり見えなかった。しかし、彼女の口調から察しって、
冬月には重大なことだと言うことを言おうとしていると感じた。

「……私が死んだら、シンジとゲンドウのことを頼みます……冬月先生」
 静かな声が、無言の病室に響いた。









十年後









「アイツは、また仕事ですか?」
 位牌の前で手を合わせて、シンジは静かな口調で呟いた。そして、ゆっくりと目を開け、
目の前にある、微笑んでいる母親の写真を見つめた。今日は、丁度ユイの一周忌に当たってい
た。

「……そうだろうな」
 冬月は静かに呟く。
 シンジは、ゆっくりと冬月の方に向き直る。

「……僕は、アイツを父親なんて思ってません。アイツは、母さんや僕を捨てて、仕事に
逃げたんですから」
 静かだが、怒りがひしひしと伝わってくる口調だった。

「だが、今日は帰ってくるんだ、じっくりと話し合って見るのもいいだろ」

「いえ、あいつはもう僕の中では死んだ存在なんです。話したくもありません」
 決意の固い目で、シンジは冬月を見つめた。
 そんな時、一本の電話がかかってきた。









 シンジは腕時計を見ると、約束の時間まで後一時間になっていた。
 広場から街中に戻ると、むわっとした熱気のため、シンジたちは汗を掻いていた。シン
ジは額から流れる汗をぬぐい、レイとカヲルの後を突いて歩く。

「暑い」
 シンジはだらしない口調でそう呟くと、前を歩いている二人がシンジの方に向き、「「だ
らしないな、シンジ君(シンにぃ)」」と、からかう様に呟いた。









 アスカは、シンジがかの有名なマエストロ”碇ゲンドウ”の息子ということに驚いた。
 彼が作曲した曲は、世界各国で演奏され、知らない者は誰もいないほどだった。そして、
ゲンドウ未完の作品”死と再生”は、凄く有名であった。
 例の話とは、ゲンドウからの遺言”息子にこの曲の続きを作成させてくれ”と言うこと
だった。
 加持やミサト、二人の恩師であり、ゲンドウとその母ユイの恩師でもある冬月は、去年
からシンジを説得しようとしていた。だが、シンジは一向に首を縦に振ろうとしなかった。
 アスカが、”なぜ?”と紙に書くと、ミサトは「シンジ君……お父さんのこと憎んでるの
よ」と、静かに呟いた。
 その言葉が、その場の雰囲気を重くし、沈黙に持っていった。

「……そろそろ約束の時間だ。出ようか、ミサト、アスカちゃん」
 加持のその一言を待っていたかのように、席をすぐに立ち上がった。そして、ゆっくり
と店の出入り口へと歩き出した。

続く


後書き

 ……まあ、こう言うことなんですけど、……音楽関係うといのに、とうとう手を出して
しまった(爆)

6月16日

 SOPHIAのアルバム”ALIVE”から”ゴキゲン鳥”を聞きながら

(第九楽章へ)

(第七楽章へ)



なるほど、そういう事でしたか。(@_@;)うむう

というわけで、TODOさん8曲目ありがとうございますー。\( ^ 0 ^ )おぶりがーど

ついに話が動いてきましたね〜。このフォルテシモという題名の謎も解けたッス。

ユイさんまた死んじゃいましたね。やっぱり、エヴァの中では死にキャラなんだなあ。(笑)

ゲンドウはやはり外道役でしょうか。外道かそれともウラがあるキャラなのかはこれからのお楽しみッスね。

さあ、シンジ君の秘密を知ってしまったアスカ様はどう動くんでしょうか。次回こりゃ必見ですぜ。(● ̄ー ̄●)げへへ

早速、作者のTODOさんに感想&応援を書きまくって続きを催促催促〜。(爆)

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