公園の芝生は、草の熱気でむせ返っていた。が、そこに吹きぬける風のお陰で、それほど暑苦しく感じなかった。
そこには、木々が立ち並び、一つ一つ、それぞれの影を作っている。その中の一つに、ミサトは腰を下ろして、シンジたちの方を見て、手を振っていた。
シンジたちは、彼女が休んでいる場所まで、ゆっくりと歩いていく。
彼女の隣には、男と思われる人影、シンジたちは、あの影は加持だと分かっていた。だが、もう一つの女性の影は、誰なのか見当がつかなかった。
「こんにちは! ミサトさん、加持さん!」
レイは、そう元気よく挨拶をする。カヲルはそれに合わせるよう、軽く会釈をした。シ
ンジも、それに続こうとした。が、彼は頷けずに、一人の女性を見て、驚いた顔を見せた。
彼女も、同じように驚いた顔を見せると、それを笑顔に変えた。
「……知り合いなの? 二人とも」
ミサトは、そんな彼らを見て疑問を口に出した。
アスカは、それにゆっくりと頷く。シンジは、少し照れのはいった表情で、頷いた。
「そうなの。偶然ね!」
ミサトは、そう元気よく声を上げると、微笑んだ。
「……どこで知り合ったんだ、シンジ君」
加持も同じように微笑みながら、シンジに質問をする。
「大学の方で」
シンジは加持の方を見ながらそう答え、アスカの方を見た。彼女も、同じように加持の
方を見つめて、ゆっくりと頷いた。その顔には、笑みがあった。
そして、アスカはゆっくりとシンジの方に近づき、昨日と同じように、晴天で乾いた土
のような茶色のメモ帳を取りだした。それを広げると、アスカは一枚の紙切れを渡した。
”どこで調べたのよ!”
そう書かれた紙切れだった。シンジは、それを見つめて、アスカの方を見ると、悪戯な
笑みを漏らしていた。シンジはそれを見て、笑みを漏らす。
「偶然だよ」
と、頬を満開の桜のように染め、笑顔を見せた。アスカも、彼の顔を見て、また笑った。
「手が早いね、シンジ君」
カヲルは、そんな二人のやり取りを見て、静かにそう呟く。
「な、な、な、なに言うんだよ、カヲル君!」
シンジはその言葉を、真っ赤な顔で否定した。その狼狽振りを見て、レイを除いた他の皆
は、笑い声をかみ締めた顔をした。
ff(フォルティッシモ)
第七楽章
〜休日:2〜
レイは、少し面白くなかった。そのわけは、シンジが、自分以外の女性と、仲良さそう
にしているからだった。それに、その女性と嬉しそうに話しているシンジを見て、少し苛
立っていた。
――やきもち……かな?
そんな時、アスカがレイの方を見た。彼女は、ゆっくりとレイの方に近づいて行く。そ
して、先ほどと同じように、紙切れを渡した。
それには、アスカの自己紹介があった。
レイは、その紹介文を見て、アスカの方を見た。
彼女ほど肌は白くないが、綺麗な肌だった。瞳は、海の底を思わせる青色で、少し切れ
上がった目をしていた。髪は金色で、周りの光を反射させていた。
「私の名前は、綾波レイ。レイでいいよアスカ!」
レイは、笑顔でそう言ったが、目は笑っていなかった。
アスカは、それを聞くと、右手を前に出した。レイも右手を前に出し、握手を交わした。
「僕の名前は、渚カヲル。カヲルでいいよ、アスカ君」
カヲルはそう笑顔で言い、軽く会釈をする。アスカも同じように軽い会釈をすると、先
ほどと同じように、右手を前に出した。
「ところで。これから俺たち、昼食をとるんだが、一緒にどうだ?」
加持はそう言って、シンジたちの方を見る。ミサトとアスカは、”一緒に行きましょう!”
と、皆を見つめていた。
「すいません、先ほど皆と食べてきたので」
シンジは、すまなさそうな顔で、加持の申し入れを断った。
加持は、「そうか」と、少し呟く。ミサトは、「残念ね」と答えた。
アスカは、あからさまに残念そうな顔を見せ、シンジの方を見た。
「ごめんなさい、皆さん」
シンジは、頭を下げて、そう謝った。そんな時、レイがシンジの腕を強く引っ張った。
「な、なんだよ、レイ」
シンジは少し驚いて、レイの方を見る。彼女は、ちょっと頬を膨らませており、雪と見
まがう白い頬が、熟れ始めたリンゴのように、赤くなり始めていた。
「……どこか行きたい場所があるんだけど? シンにぃ」
言いにくそうに、口をもごもごとさせながら、レイは言った。が、その声には、甘える
ようなものが、少し含まれていた。
シンジは、苦笑を漏らし、レイの方を見る。
「もう少し、待ってくれ、レイ」
シンジは、静かにそう呟く。レイは、それを聞くと、ゆっくりとシンジの手から離れた。
そして、不意に彼女はアスカの方を見つめる。
彼女は少し驚いた顔で、レイの方を見つめていた。それが、レイと目を合わしたことに
より、少し引きつった笑顔になった。
――な、な、な、なんなの、この子!
――シンにぃ……シンジは渡さないからね!
レイは、笑顔を見せる。だが、先ほどと同じ、目は笑っていなかった。
「ならしかたがないな。……そうだ、昼食後にまたここに集まろう。その後で、皆で遊び
に行くのはどうだ?」
加持は、笑顔でそう言う。アスカは、笑顔で手を叩き、加持を指差す。彼は、それに答
えるよう、アスカに親指を見せた。
「いい考えじゃない、加持!」
「だろ」と、得意満面の表情で、加持は言った。
「――僕もそれでいいですけど、カヲル君やレイはどう?」
「僕も、大勢の人たちで盛り上がるのがいいから、その意見に賛成。レイちゃんは?」
カヲルは、覗き込むように、レイの顔を見つめる。
彼女は、少し考え込んでいたが、目を細めて、口元を上にあげると、ゆっくりと頷いた。
「よし! 決まったな。シンジ君、俺の携帯の番号、分かるよな」
加持は、笑顔でシンジの方を見る。彼は、「ええ」と、静かに答える。
「じゃあ、また後でね、シンジ君、レイ、カヲル君」
ミサトは、そう言いながら、ゆっくりと腰を上げる。
アスカは、少し寂しそうな表情になるが、すぐに笑顔になった。
「じゃあな」
加持がそう言うと、三人は、街のほうへといった。そんな中、アスカは少し前の方を歩
き、急いでる様子があった。時折、彼女は後ろを振り向いて、手を振る。シンジとカヲル
も、同じように手を振る。だがレイだけ、シンジの左手を握って、手を振らなかった。
公園の中にあった静けさが、まるで嘘のように、街はとても慌ただしかった。
高層ビルが立ち並び、その影が、人々に降り下りる。そのため、日の光はあまりなく、
少し暗く見えた。
だが公園のように涼しいわけではなく、むわっとした、人々の熱気に包まれ、汗が一滴
流れ落ちる。
だが、アスカはそんな中を、平気な顔出歩いていた。顔は少しほころんでいた。そのま
まで、アスカは後ろを振り向く。彼女の目に、へきへきしたミサトの顔と、ハンカチで汗
を拭く加持がいた。
ミサトは、少しばて気味で、加持の腕につかまってる、というよりも持たれこみ、引き
ずられているようだった。
「おい、ミサト! もう少ししゃんとしろよ」
加持はそう言って、ミサトの腕を持ち上げる。「だって」と、彼女はだらけた表情で加持
にねだり始める。
それを見ていたアスカは、ジト目で加持とミサトを見つめていた。そして、呆れた表情
になると、前を向いて、”ふぅー”と、一息つくと、肩を上げた。
「な、なにバカにしてるの、アスカちゃん?」
引きつった声がアスカの後から聞こえる。アスカは、前を向きなおして、冗談、冗談、
といった顔と、手の仕草をすると、いきなる駆け出した。
「こらぁー! 待ちなさい! アスカ!」
もすぐ三十路になるミサトは、大きな声を上げて、アスカを追いかけた。
「おい、二人とも!」
恥ずかしいそうに、加持がそう叫んだ。
アスカは、後ろを振り向く。そして、笑いながらまた走り出した。
何分ぐらい走っただろう。
アスカたち三人は、額から汗を流して、歩道の脇にある、緑色のベンチに座っていた。
ミサトは、はぁはぁと息をしながら、空を見つめていた。加持も同じように、空を見て
いた。
アスカは、笑顔のまま、二人を見つめている。
そんな時、涼しい風が、三人に拭きぬけ、通り過ぎて行く。
「……はぁはぁ、お腹が空いてるときに、走るもんじゃないな」
加持はそう言いながら、ゆっくりと状態を起こす。「そうね」と、ミサトは状態をそらし
たまま、呟いた。
不意に、アスカの目に一軒のレストランが目に入った。
全体が、雨に濡れた土の色をしたレンガで出来ており、入り口部分に、黒塗りされた、
木造のドアがあった。そして、その前の方に、『今日のランチ』と書かれた、日に照らされ
た草原の緑より濃い色のメニュー板があった。
アスカは、その建物から出てくる、温かみに引かれ、加持とミサトの肩を叩く。
「どうしたんだ?」
加持はそう呟くと、アスカが一軒の店を指差し、”あそこに行こう”と、哀願していた。
「結構いいお店じゃないの」
ミサトは、アスカが指を差してる方に目を向け、そう呟く。「そうだな」と、加持は頷き
ながら言った。
「じゃあ、決まりね!」
ミサトはそう言って、アスカと並びながらその店へと歩き出した。
店内は、照明が暗めに保たれ、静かな雰囲気が漂っている。そのため、レンガが、土壌
のよい大地のように見えた。そのためか、そこはかなりの涼しさだった。
天井は、レモンの切り口の色で、少し黄色くなっており、飾り付けのない、丸いシャン
デリアが、三つ垂れ下がっている。
その下には、レンガと同じように黒いテーブルと椅子が並べられていた。
アスカたちは、その店の中央に案内され、腰を下ろした。
「何にするかな?」
加持は、渡されてメニューに目を通して、そう呟く。ミサトは、去っていこうとするウ
ェイターに、「さっぱり目の白ワイン一つ!」と、言った。
「アスカは何か飲む?」
ミサトは、そう言い、アスカの方を見る。彼女は、ウェイターに紙切れを渡す。彼はそ
れを見て、「紅茶でございますね。食膳にもって来ても、よろしいでしょうか?」と確認を
取ると、アスカは静かに頷いた。
「あ、あと、俺も、さっぱり目の白ワイン一つと、鴨の胸肉のソテー」
加持は、そう言い、メニューをミサトに渡そうとしたが、「私も同じやつ一つね」と言う、
ミサとの言葉に遮られた。
「――分かりました。ワインの方は、食前でよろしいで用か?」
「ああ。いいだろ、ミサト?」
「あら、私はそのつもりだけど?」
二人のそんな会話に、ウェイターは笑みを漏らす。
そんな時、アスカがもう一枚の紙切れを渡した。
「――ランチは、海鮮サラダと、ミラノチキン、それとデザートでシャーベットと紅茶が
つきますが、よろしいですか?」
彼女は、先ほどと同じように、ゆっくりとお辞儀をする。
「了解しました。ご注文は、以上で?」
「ああ、これ以上注文されたら、金がいくらあっても足りないからな」
加持は、笑いながら言うと、ウェイターも、笑顔でその場を去っていった。
公園のベンチで、シンジたちは座っていた。
そこは、丁度木陰にあたり、心地よい風が、時折シンジたちの間を通りすぎ、そのたび
に後にそびえたつ木の葉が、音をたてた。
目の前には、舗装された道路があり、鳩が、シンジたちから餌をねだろうと、首を動か
しながら見ていた。
「……なあ、レイ。そろそろ、手を離してくれないかな?」
シンジは、隣でアイスクリームを食べているレイを見て、そう言った。だが、彼女はシ
ンジの言う事を聞かず、握っている左手に力をこめた。
「――いやだよ」
レイは、静かにそう呟き、アイスクリームを舐める。その言葉に、シンジは困りながら
カヲルの方を見た。
「モテモテだね、シンジ君」
カヲルは、意地悪な笑みを漏らして、そう言う。「そんな」と、シンジは答えた。カヲル
は、その返答が面白くて、口を手で隠しながら笑い出した。
「――ところで、学校はどうだい、シンジ君?」
カヲルは、一通り笑い終えると、かすかな笑みを浮かべながら、シンジに質問した。
「今のところは大丈夫だよ。たいした問題もないしさ」
シンジは笑顔で答える。カヲルも、それを微笑みで返した。
「私も問題ないよ、渚兄さん!」
口元についているアイスクリームを舐め、レイはそう言った。彼女の手にあったアイス
は、いつのまにか、彼女の胃袋の中に消えていた。
「そうか、それはよかったね、レイちゃん!」
カヲルは、笑顔でそう言う。
「――カヲル君は、あっちの大学院に行くのかな?」
「ああ、そのつもりだよ。――まだまだやりたいことがあるからね」
カヲルは笑顔で言うと、胸ポケットから、煙草を取り出した。
「一本すっていいかな?」
カヲルはレイを見てそう言う。彼女は、静かに頷くのを見ると、携帯灰皿と、ライター
を取り出した。
「シンジ君もどう?」
「じゃあ、貰うよ」
シンジはそう言うと、差し出された煙草に手をやった。
――さすがにお腹一杯だ。
アスカは、目の前にある、レモンシャーベットと紅茶を、困った顔で見つめながら、そ
う思った。
加持とミサトは、新しく注いでもらったワインを飲んでいた。そのため、二人も少し顔
が赤くなっている
そんな時だった。
「――シンジ君。例の件、了解してくれるかしら?」
と、ワイングラスを見つめながら、ミサトが不意に呟いた。
続く
後書き
……筋肉痛。久しぶりに体動かしたもので^^;
しかも、またこの引きか(爆)
6月6日
宮本 輝著の”花の降る午後”読みながら
ぐおお、レイこえー。( - _ -;)うひー というわけで、TODOさん7曲目ありがとうございますー。\( > 0 < )/はぐ 偶然の出会い。やはりこういうシチュエーションは燃えますなあ。(ニヤリ) アスカ様の元気な仕草が微笑ましいッスね。\(●> _ <●)くうーたまらん<ヲイ カヲル君も良いツッコミ入れたりとなかなか味だしてますね。 うーん、最後のヒキはなんなんだろう。(
^_^;)またもやヒキ上手(笑) |
TODOさんへの感想はここです。
または簡単感想用掲示板へどうぞ。
◎感想用フォームです。2,3行の感想でも作者さんは嬉しかったりするのだ。