髪を拭きながら、お風呂場から上がると、シンジは視線を時計に向けた。
 十時二五分、今から出れば、十一時半にはつくな。と、シンジは思いながら、自分の部
屋に向かう。
 藍色のジーンズと、白い半袖のワイシャツを素肌に通し、シンジは玄関口まで歩いた。
「シンにぃ!」
 不意に、シンジの後からレイの声が聞こえる。「なに?レイちゃん」と、シンジは呟きな
がら後ろを振り返った。
「私もつれてって!」

 

ff(フォルティッシモ)

第六楽章

〜休日:1〜

 

 

 さすが休日もなると、駅のホームは人でごった返す。肩が触れるのはほとんど当たり前
で、何時ものラッシュアワーよりも窮屈さを感じる。
 シンジは、レイを見失なうことのないよう、レイの後ろを歩く。彼は、「友達と会いに行
く」と、レイを連れて行くことを拒否していたが、「絶対に行く!」と、駄々をこね、終い
には泣きそうな顔で、上目使いでシンジの顔を見つめるものだから、シンジの方がおれて
しまった。

(はぁ、アメリカに行っていた友人に、久しぶりにあえるのに)
 ちょっと嫌そうな顔をしていたが、レイは対照的に、嬉しそうな顔をして、シンジの前
を歩いていた。






 鈴が鳴り響く。
 その鈴に向かって、ベッドの上の毛布から、白い腕が、ニョキっと現れた。
 それは、となりの机の上にある時計を鷲づかみにして、鈴を止めた。
 毛布の上から見える、金色の長い髪が、揺れ動きながら、ベッドからアスカが、まだ眠
たそうに這い出てきた。
 彼女は、ゆっくりと伸びをし、まだ眠そうな目をこする。髪は、少しの寝癖があったが、
それでも、毛並みはとてもよかった。
 アスカは、ゆっくりとベッドから出ると、窓際の方により、カーテンと窓を開ける。そ
れと共に、涼しい風が入りこむ。気持ちよさそうな顔でそれを感じる。そして、ゆっくり
と、太陽に目を向ける。それは、輝き、とても気持ちのよい光だった。ポカポカと、あっ
たまっていくのを、アスカは感じていた。
 時計の針は、十一時半を少し過ぎていた。







 笑顔を見せながら、二人はシンジの前を歩いていた。一人は、綾波レイという、シンジ
の同居人。そしてもう一人は、渚カヲルという、シンジの友人だった。
 カヲルは、隣にいるレイに、色々と話している。彼の一言一言に、レイは驚きの顔を見
せていた。
 シンジは、そんな二人を見て、嬉しそうに微笑む。そして、久しぶりに再会した友人の
顔を見つめた。
 渚カヲル。レイと同じアルビノで、男性にしては白すぎる肌と、レイと同じ赤い瞳、そ
して、脱色した銀色の髪がとても印象的な男性だった。シンジとは差ほど歳は離れておら
ず、彼はシンジよりも三つほど年上だった。そのためだろうか、シンジよりも大人びてい
るように見える。が、顔はシンジと同じくらい若く見えた。

「どうしたんだい、シンジ君?」
 カヲルは、涼しげな顔をシンジに見せて、そう呟く。

「いや、なんでもないよ、カヲル君」
 普通、年上ならさんづけで呼ぶべきだが、カヲル自身、敬語で離されるのを嫌い、シン
ジやシンジの友人たちに、君づけで読んでくれるよう、頼んだのだ。そのため、シンジは、
カヲルの事を、君づけで呼んでいる。

「そうよ、シンにぃ! せっかく渚兄さんが、アメリカから帰ってきたんだから、一緒に
お喋りしようよ!」
 いつも通りの元気な声で、レイはそうシンジに言う。
 シンジは、苦笑を漏らしながら、彼らの輪の中に入っていった。

「アメリカはどうだった、カヲル君?」

「いや、特にこれといった事はないけど、日本にいるよりも、だんぜん勉強のやりがいが
あるよ」
 カヲルは、笑顔でそう答える。女性ならずとも男性でも、この笑顔で一ころだろうと思
えるほどの、綺麗な笑顔だった。
 そのため、何故かシンジも少し頬を染め、その笑顔を見つめていた。

「なに照れてんのよ、シンにぃ」
 悪戯っぽい顔を見せ、レイはそうシンジに問いかける。

「な、なんでもないよ!」
 少し狼狽しながらシンジが答えると、レイは明るく笑い出した。






 ふと、時計を見ると、もう十二時を過ぎていた。
 アスカは、そのため急いで身支度をはじめた。
 ファンデーションを塗り終わると、アスカは、お気に入りの、薄いルージュの口紅を取
り出し、それを唇に塗り始める。
 それを塗り終わり、アスカははみ出ている部分を、ティッシュでふき取り、鏡に映って
いる自分の顔を見て、『よし!』とガッツポーズをし、もう一度、時計に目をやった。
 時計は、先ほどよりも進み、十二時半を刺している。
 アスカは、お気に入りの淡い黄色のポシェットを抱え、台所の方に書置きを残して、家
を出た。

(…ちょっと遅れちゃうかな?)
 アスカは、駅のプラットホームで電車を待ちながそう思う。地下鉄のためか、少し
の息苦しさと、閉鎖されている感覚に襲われる。

 …この感じがあるから、あんまり地下鉄って好きじゃないのよね、と思いながら、腕時
計の方に目をやる。
 時間は十二時四三分。

(…遅刻だな、やっぱり)
 けたたましい音を上げ、窓ガラスが光を反射させながら、電車がプラットホームに入っ
た。






 流行の曲が、設置されているスピーカーから漏れる。だが、その曲をかき消す様に、そ
のファーストフードは人々の話し声で、ひしめき合っていた。
 それほどお腹が空いていないので、シンジとレイとカヲルは、丁度近くにあった、その
お店で、おそめの昼食を取っていた。

「にぎやかだね」
 カヲルは、コーラでハンバーグを胃に落として、そう言う。

「確かにそうだね」
 シンジはそう返答すると、自分たちの周りを見た。
 全ての席は人で埋まっており、何人かのグループで話が盛り上がっている。窓際のカウ
ンターに座っている人は、窓から入る日光のため、薄っすらと汗を掻いている人もいれば、。
白いYシャツが汗ばんで、背中に張り付いている人もいた。そのカウンターの奥には、カ
ップルだろうか? 何か喜そうにおしゃべりしながら、ポテトを口に放り込んでいた。不
意に、そのカップルの女性が、ポテトを右手に持って、彼氏の口の中に入れる。
 彼氏は、そのポテトを美味しそうに頬張ると、今度は彼氏の方が、彼女に同じ事をした。

「羨ましいの? シンにぃ」
 隣から聞こえる声に、シンジはびくつきながら振向く。そこには、悪戯っぽい笑みを浮
かべながら、レイが右手にポテトを持っていた。

「やってあげようか?」

「か、からかうなよ、レイちゃん」
 シンジは顔を赤くしながら、そう答える。その二人の姿を見て、カヲルは笑いをこらえ
て肩を揺らした。










 噴水の前で、アスカはお目当ての男性を見つけた。
 そして、嬉しそうに駆け寄ってゆく。噴水にいるその男性も、アスカの姿を見つけたら
しく、手を振っていた。
 アスカは、息を切らして、その男性の前に着くと、手に持っている紙を、男性に手渡し
た。
 彼は、それを受け取ると、笑みを漏らしながら、「自分も今来た所だ」と呟く。アスカは、
それを聞いて、安心したような顔を見せると、もう一枚の紙を手渡した。
”…ミサトは? 加持さん”
 加持と名乗る男性はそれを見ると、苦笑を浮かべ、木陰のほうに指を刺した。アスカは、
その刺された所を振向くと、木陰の下で横になり、麦わら帽子を顔にかぶせている女性を
見つけた。
 アスカは、それを見ると、笑みを漏らす。

「じゃあ、起こしてこようか」
 加持はそう言うと、木陰の方に歩き出す。アスカも、彼の後に続いて歩き出した。

「…ミサト、アスカちゃんが来たぞ」
 加持はそう言うと、ミサトの体をゆすった。「う〜ん?」ちょっと寝ぼけた声を上げ、ゆ
っくりと起きだす。アスカは、ミサトが起き上がるのを見ると、頭を下げる。

「あら、お久しぶり、アスカちゃん!」
 先ほどまで寝ていたのが嘘のような声で、ミサトはアスカに言う。

「じゃあ、遅くなったけど、昼御飯でも食べに行くか」
 加持は、二人の挨拶がすんだのを確認すると、そう言った。

 昼食もすんで、お店からでたシンジたちは、レイの「広場に行こう!」と言う発言のた
め、広場に歩いていた。
 舗装道路の周りに、木々が植えられている。その木々に囲まれるている芝生の中には、
家族連れの人々が遊んでいた。一組の親子は、ビニールシートを敷き、お弁当を広げてい
る。それを囲み、子供たちがお弁当のおかずを美味しそうに頬張っている。もう一組の親
子は、キャッチボールをしている。子供は、とても面白そうに笑っている。父親と思われ
る男性も、子供の一球一球に、喜びの顔を見せていた。

 幸せそうだ、とシンジは思った。

 不意に、彼は昔のことを思い出した。彼は、親と遊んだ記憶が、あまりなかった。いつ
も、演奏で忙しい忙しいと、口癖のように呟く父の姿が浮ぶ。病に倒れている母の看病に
も来なかった。
 そのため、シンジは父が嫌いだった。その父も、海外演奏のため飛んだ飛行機の事故の
ため他界した。そして、シンジは今はその父と同じ道を歩もうとしていた。

「シンジ君、どうしたんだ?」
 少し心配そうな顔をして、カヲルはそう言う。「…大丈夫だよ、カヲル君」シンジは静か
に呟いて、笑顔を見せた。

「ねぇ、シンにぃ。あそこにいるの、加持夫婦じゃない?」
 不意に、レイがシンジの裾を引っ張って言う。シンジは、レイの指した場所見ると、そ
こには、シンジと同じ白いYシャツと、黒のズボンを着た男性。隣には、芝生に腰を下ろ
している、白いタイトなキャミソールと、黒いブーツカットのナイロンパンツ、麦わら帽
をかぶった女性。その横には、金色の長い髪、淡い黄色のタイトなワンピースに、つばの
周りが花柄の麦わら帽をかぶった女性がいた。

「ミサトさーん」
 レイは、大きな声を上げて、手を振った。その声に気がついたのか、腰を下ろしている
女性が、大きく手を振った。

続く

 


後書き

 …長いな…
 電話の主は、トウジかカヲルにしようと思っていたのですが、カヲルにしてしまいまし た。さて、トウジの登場は何時になるかな?
 ではでは

5月23日

 日曜ロード・ショーのザ・フライ2〜二世誕生〜を見ている途中

(第七楽章へ)

(第五楽章へ)



おお、シンジ君の電話の相手はカヲル君でしたか。(@_@)

というわけで、TODOさん6曲目ありがとうございますー。\( > 0 < )/うほう

ほほう、相手はカヲル君と来ましたか。あー、やばい相手じゃなくて良かった。
いや、でもある意味やばいか。(爆)

レイちゃんはカヲル君を気に入ったようですねえ。この二人がどう動くか今後の展開楽しみなとこですね。
.....しかし渚にいさんって、芸人かレイ?(笑)

そしてキーマンとなるのでしょうか、加持夫妻。この夫婦とそれぞれのつながりはどうなっているんでしょう。
次回も楽しみですねー。さあ、早速TODOさんに感想&応援を書いて続きをかいてもらおー。\( ^ 0 ^ )うおりゃ

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