時計塔の鐘が鳴り響く。それと同時に、ゆっくりと小人の人形が動き出す。人形は、二
人一組で静かに動く。それは、鐘がなり終わるまで静かに踊りつづける。
 鐘が鳴り止むと、その時計塔の下で待っていたシンジたちに、加持の声が聞こえた。
「お待たせ、シンジ君」
 その声に少し大げさな反応をシンジは見せ、加持のほうを振向いた。彼の視線の先には、
男くさい笑みを漏らした加持がたっていた。そしてその横には、柔らかい笑みを漏らすミ
サトとアスカの姿があった。そんな笑顔を見て、シンジも微笑み、「今来たところですよ」
と、静かに呟いた。
「そうか」と、加持は返事を返すと、また同じ笑顔を漏らす。
「これからどこに連れて行ってくれるのかな、加持さん?」
 レイは、微笑をもらしながら聞く。
 それに答えるかのように、ミサトが「先生のところよ!」と告げた。
 シンジはそれを聞くと、少し強張った表情に変わる。それにあわせて、レイとカヲルは、
それを少し心配そうに見つめた。アスカも同じような表情に変わる。
 シンジは、そんな二人の表情に気がついたらしく、強張った顔を崩した。そして、二人
に心配ないよ、と言ったゼスチャーを送って、ゆっくりと加持の方に顔を向けた。
 加持も、そのシンジの表情から例のことを読み取ったらしく、いつものたれ目に真剣な
眼差しに変わる。そして、静かに、
「あのことじゃないから、心配しなくていいよ、シンジ君」
 と、優しく呟いた。









 ff(フォルティッシモ)

第十楽章

〜喋れないことで感じるもの〜











 さすがに都市の中心部ともなると、人の波が一層激しくなる。それが六時近くともなる
と、より一層大きな波へと変わる。
 シンジたちは、それに少しもまれながらも、ゆっくりと前進していった。そんな彼らを
照らし出すよう、街の街頭は等間隔に設置され、明かりが点り始めている。そのお陰か、
街は昼間のように明るかった。そして、その代償として空にあるはずの満天の星空が見え
なかった。
 シンジは、そんな夜空を見つめながら歩いていた。
 ――まるで、母さんが死んだときのような空だ。
 感傷に浸るような顔で、星一つ無い、まるで墨汁をこぼしたような空を見つめる。
 そんなシンジの思考を現実に引き戻そうと、アスカは彼の肩を叩いた。
「なに、アスカ?」
 シンジは、ゆっくりとアスカの方に振向く。彼の瞳には、少し怪訝な面持のアスカの顔
がまじかに映った。
 アスカは、その表情を崩さずに、一枚の紙切れを渡す。そこには、”どうしたの?”と、
一言だけ書かれていた。
「……いや、ちょっと母さんのこと思い出してね」
 静かにシンジは呟くと、アスカに微笑を見せる。
 アスカもそれに釣られて微笑んだ。
 しかし、シンジの微笑はすぐに崩れた。
「いた!」と、短い声を上げて、シンジはゆっくりと右手を握り締めているレイのほうに
顔を向けた。
「何するんだよ、レイ!」
 少し声を荒げてレイにそう言う。だが、レイのほうはそれを無視して、
「ねぇ、ねぇ、シンにぃ! あれなにかな?」
 と、街頭でパントマイムをやっている男性たちに指をさした。
 ――絶対、アスカなんかにシンジを渡すもんですか!
 レイは、後ろを振り返ってアスカの方を見つめた。
 ――な、な、なによこの子!
 アスカは、こめかみをヒクヒクさせながら、笑顔でレイの方を見つめる。
 レイはそれを小ばかにするような笑みを見せて、パントマイムをしている人に目をやっ
た。
「ほらほら、わき目を振らないの!」
 パントマイムを見て立ち止まっているアスカとレイ、シンジを急かすようにミサトが言
う。
「はーい」
 レイは元気よく声をあげる。
 アスカは、少しぶすっとした表情のまま歩き出した。それを見ていたカヲルが、
「どうしたのかな、そんなぶすっとした表情して?」
 と、少し笑みを浮かべてアスカにそう聞いてきた。
 アスカは、うっとおしそうにカヲル見て、なんでもないわよ、と書いた紙を渡した。
 カヲルはその紙を見ると、また笑みを浮かべて、
「……シンジ君のことが気になるのかな?」
 と、静かに呟く。と、アスカは顔を赤くし、カヲルの方に目をうつす。そして、微笑を
見せて、親指と人差し指に小さな間を作ると、カヲルに見せた。
 ――ちょっとね。
 カヲルも同じように微笑むと、
「……なるほどね」
 と、静かに呟いた。





 薄暗く、少し小さな裏路地だったが、怪しい感じのする場所ではなかった。
 電車の音は絶えず、人々のささやき声が虫の音のように聞こえる。たまに、大きな笑い
声も聞こえた。それに合わせるよう、看板のネオンがうっすらと光る。
 少し都心から離れた場所。そこに、先生の店があった。
 レイやアスカは初めてで、カヲルとシンジは、加持たちの挙式の時に立ち寄ったことが
あった。
 その店は小さなレストランで、うっすらとロウソクの光が灯されていたことを、シンジ
は今でも覚えている。かなりいい感じのレストランであった。が、シンジは、そこに行く
のが少しいやだった。先ほど、加持から”あのこと”ではないと聞かされたが、どうも気
にかかっていた。その気持ちは、普通のお店ならいくぶんか紛れていただろう。だが、今
から行く店が先生の店だと、否応もなしに”あのこと”を意識してしまう。それを見透か
してるよう、加持は笑顔でシンジを見つめた。そして、
「あのことじゃないさ、シンジ君。安心しな」
 と、静かに呟いた。
 シンジは加持のその一言を聞き、静かに頷く。それにあわせて、加持も静かに頷いた。





 外には、緑色に塗られた看板と、淡い黄色の光を放つ外灯がある。明かりは、緑色の看
板とレンガ造りの階段を照らしていた。
「さあ、ついたぞ」
 加持はそう呟く。
 その声に反応して、アスカはゆっくりと看板に目をやった。そこにかかれている文字、”
a conecerato”が、明かりに照らされて黒く光りながら浮びあがる。
 ――なんだろう?
 アスカは、看板から視線を外し、その店へと入ろうとする加持たちの後を追った。そし
て、シンジの後ろにつくと、彼の肩をもう一度叩いた。
 シンジは後ろを振り向くと、不思議そうな顔をしているアスカを見つけ、
「僕の母さんの先生がやっているレストランだよ、アスカ」
 と、優しく呟いた。
 ふぅーんといった表情でそのレストランのドアを見た。
 木で作られており、どことなく昼間のレストランににている。が、ドアはウルシが塗ら
れ、どことなく光沢があった。そしてドアノブは、落ちついた雰囲気をかもし出すよう、
黒く塗られていた。
 そのドアノブに、加持が手をかける。そして、静かにまわすと、同じようにドアを引い
た。それとほぼ同時に、木の軋みと、ジャズの演奏が、心地よく静かに流れ出した。
「久しぶりだね、加持君、ミサト君」
 それに交じって、そとにいるアスカたちにも聞こえる声が聞こえた。
 アスカは、声からさっするに四十〜五十くらいの男の人だと思った。その声に、落ちつ
きと、少しのかすれがあったためだった。
「こちらこそ久しぶりです、冬月先生」
 体が半分ほど店の中に入っているため、加持がどんな顔をしているかは、アスカには分
からなかった。だが、声のトーンから察すると、加持は懐かしい思いと喜んでいるように、
アスカは感じた。それを決定づけるのが、後にいるミサトの笑顔だった。
「おいおい、もう先生じゃないんだから、先生はやめてくれないか」
 微笑をうかがうことが出きる声のトーンが、アスカたちの耳に入る。
 ――冬月先生ってどういう人なんだろう?
 アスカは好奇心が色を添えるダークブルーの瞳で、ミサトたちの方を見つめた。そして、
シンジに聞こうと思って、彼の肩に手を伸ばしたときだった。
「ねえ、シンにぃ。冬月先生って?」
 レイがアスカと同じ疑問を口から出した。それを聞くと、アスカは静かに頷く。
 シンジは、レイを見下ろして、
「僕の母さん、そして加持さんとミサトさんの恩師だよ。皆に凄い影響を与えた音楽の先
生なんだってさ。それに、優しいんだ」
 シンジは静かにそう呟くと、微笑を見せる。
 ――ふぅーん。
 アスカは納得のいった表情を見せた。そして、シンジの方を向こうとしたが、彼がこち
らに気がついてないことに気がつく。そのため、寂しげに顔をうなだらせて、レイを羨ま
しそうに見つめた。

続く


後書き

 ……待たせてできたのがこれだけか!
 すいません(__)

8月12日

 ”PIZZICATO FIVE JPN”のアルバムから”悲しい歌”を聞きながら

(第十一楽章へ)

(第九楽章へ)



おお、ついにでたな。冬月じーさん。(@_@;)

というわけで、TODOさん10曲目ありがとうございますー。\( ^ 0 ^ )/ありがとー

ふーむ、ブラコンレイががっちりガードしとりますな〜。
アスカ様前途多難なんでしょうか。( ^_^;)

そして、シンジ君とゲンドウとの確執。やはり、ユイがらみでしょうかね。
根が深そうですね〜。しかし、どんな展開になるか楽しみですね。<ヲイ

少々シンジ君の回りに振り回され気味なアスカ様。彼女の抱える問題もどんな展開になるんでしょうね〜。

次々と二人に苦難が襲いかかりそうな感じですが、二人はそれを乗り越える事ができるんでしょうか。

さあ、早速TODOさんに感想&応援を書いて続きを書いて貰おー。\( > 0 < )わー

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ここから是非感想を送るのだー。\(●> _ <●)おーっ

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