Rambler

第八話 失翼

Author  TAKA

 

 

 

 

 

“キュッ、キュキュッ”

 

 

ゴムの靴底と床の擦れ合う音が鳴る。

 

ヒカリは自身についているガードを、体を左右に振りながら躱そうとする。

 

目まぐるしく変わる周囲の風景に味方の姿を求めパス出しのできるコースを探す。

 

「アスカ、お願い!」

 

一瞬、ヒカリの目に映った赤みを帯びた栗色の髪。

 

左サイド寄りに位置してこちらに向かってくる事でガードを一瞬外したアスカにその隙をついてヒカリはボールを出した。

 

ヒカリの球出しは女子のそれにしては強いものであったが、アスカは何を惑う事もなく胸元でそれを受け取る。

 

僅かに逸れたパスコースにジャンプして自分を合わせヒカリからのパスを受けたアスカは両足を踏みしめてその場に踏みとどまった。

 

ガードがチェックにつく。

 

やや斜め後ろからアスカに体を被せるようにしてディフェンスに入ろうとする。

 

そのポジションに入る一瞬前、アスカの体が僅かに左に揺れた。

 

次の瞬間、アスカはその逆サイドを駆け抜けていた。

 

満足に目線で追う事さえもできなかったその動き、ディフェンスはとにもかくにも自陣のゴールに向き直る。

 

赤い流れがコートを走り抜けていく。

 

「誰か、止めて!」

 

置き去りにされたマーカーが必死になって追いかけながら声を挙げる。

 

しかし、追いつける訳もなくその背姿はますます遠のき加速していくばかり。

 

アタッキングゾーンに入るアスカの前に二枚のディフェンスが立ちふさがる。

 

45度から突入してくるアスカにフリースローサークル左寄りとゴール下にポジショニングしている。

 

一枚目のディフェンスが眼前に迫る。

 

間合いに入る直前、体を低くして中央に切れ込もうとするアスカ。

 

ディフェンスはそれに対応してゴールをケアしながら右に流れていこうとする。

 

 

“ギュッ!”

 

 

ゴムの削れるような凄まじい音がして次の一瞬にはアスカの体は一枚目のガードの左脇を駆け抜けていた。

 

更なる一瞬の加速、何が起こったのかも分からないようにしてガードはいともたやすくアスカに行く手を譲る形となっている。

 

アスカはトップスピードのままゴール下に突っ込む。

 

それを見た最後のディフェンスの出足が僅かに遅れた。

 

 

“タンッ”

 

 

軽くステップを踏む音。

 

その瞬間、翼あるものであるかのように、しなやかにアスカの体は宙を舞っていた。

 

全く無駄なく、全ての力と勢いをそのまま空へと向け、舞い上がる。

 

ディフェンスは慌ててブロックしようと自身も飛び上がるがそれを嘲笑うかのようにボールはその上で弧を描いていた。

 

打点もまるで比べ物にならなかった。アスカのそれは余裕で手のひら一つ分以上はブロッカーの高みをいっていた。

 

それまでの動きの全く逆をいくようにしてアスカの体は羽が舞い降りるように緩やかにフワリと着地する。

 

ボールは微かな音をたてる事もなくリングをくぐっていた。

 

 

 

 

 

「ナイスシュート、アスカ」

 

ヒカリが賞賛するような、感嘆するような笑顔を見せながらアスカに両手を挙げて駆け寄ってきた。

 

アスカは僅かに呼気を乱しているが、汗の一つもかかずに、自分に向けられてきている笑顔とは対照的につまらなさそうにしている感じでヒカリに振り返る。

 

一瞬視線を床に落とすが、気を取り直したようにして顔を上げて自分に近づいてくるヒカリに少し作ったような薄い笑みを浮かべた。

 

そして、そのままヒカリから向けられている両手に自身の両手の平を合わせる。

 

軽く指と指を握り合った後で二人は自陣へと下がっていく。

 

 

 

 

 

「ねえ、ちょっと。何とかしてよ」

 

それまでディフェンスに回っていたチームの一人が味方の一人に言いかける。

 

「そんな真面目にやる事なんてないのかもしれないけどさ、これじゃあ全然お話しにならないよ」

 

また一人が先程とは別のもう一人に自陣のポジションから責め寄る。

 

「バスケ部のレギュラーなんだからさ、いいところみせてよ」

 

それを言っていた三人は別の二人に対してそれを向けていた。

 

その二人は最前にアスカに対してゴール下でディフェンスに入っていた二人。

 

その二人は口惜しいような苛立っているような表情を浮かべながらボールを運ぼうとしていた。

 

「分かっているわよ!」

 

苛立ち紛れのその言葉は、誰に対してのものだろうか、多分に棘の含まれているものであった。

 

「惣流の奴、調子にのって…」

 

彼女らの目にアスカがどのように映っているのだろうか、少なくとも向けている視線に好意的なものは含まれていなかった。

 

「次に来たら二人でチェックにいくわよ、あなた達はゴール下を固めておいて」

 

彼女達から見て敵側、アスカ達のエリアへとドリブルしながらそれまで非難めいたものをチームメイトから受けていた二人の内の一人が自分の相方とその他のメンバーにそう指示を出した。

 

各々に返事をするもの、頷くものを見聞きしつつもその女子生徒は自分の出した指示が必ずしも的確ではないと思わずにはいられなかった。

 

自分ともう一人を除いた他の三人が自分達と同様にフォーメーションの何たるかを知っていればチームを二つに分割してもそれなりの機能を発揮して少なくとも今よりはマシな状況になる筈であったが、今はそうではない。自分達を除いた他の三人は素人なのである。

 

自分達がキープレイヤーを抑えて残りのメンバーが各々のエリアをゴール下で守る、その目論見がうまくいくかいかないかはなべて数的優位を相手側にもたらすゴール下を守れるかどうかにかかっている。

 

それを自分達以外の今のチームメイトに望むのは酷というものである事は彼女にも分かっていたが、少なくともこのままアスカを放っておけばいいようにされるのは目に見えていた。だからアスカだけに限ってのことでは数的優位を確保したかった。それで少なくとも向こうの得点源は抑えられる。そうすれば自分達の攻撃にもリズムが出る、そうその女子生徒は考えていた。

 

それに自分達とアスカを除けば後は似たり寄ったりの集まりにしかすぎない。向こうにしてもこちらからあえてそうしたゴール下での数的優位を生かしきる事ができないだろう、そういう見立てというか期待のようなものも彼女には働いていた。

 

いささかの不安を感じないでもなかったが、アスカを抑える事ができれば後は自分達がそれ以上に得点すれば勝てる筈、そうも思って彼女はアタッキングゾーンに近づきながら意識を自分達の攻撃に集中する。

 

「先ず一つ、入れていこう」

 

片手を挙げて周りに散ったチームメイト達に声をかけるようにしてゆっくりとドリブルをしていく。

 

その女子生徒は僅かに目線を巡らせて自軍のチームメイトがどこにポジショニングしているのかを確かめる。

 

自分と同じバスケ部の女子生徒はフリースローラインの辺りにいる、後はめいめいばらばらにアタッキングゾーンの中に群れていた。

 

そして、自分の目の前には…。

 

「(…きたわね、惣流)」

 

ドリブルをしているその女子生徒の前、僅かに手の届かない位置にアスカはポジショニングをしていた。

 

僅かに腰を落として、両手を広げて構えている。

 

冴えない、やる気のなさそうな表情をしていてプレッシャーも何も感じさせる事はないが、その構えからは一分の隙も見出す事はできない。

 

その女子生徒も腰を落として右手でドリブルをしながら機会を伺う。

 

アスカの表情にも視線にも何かを感じさせるものは無かったが、それでも僅かにも逸れる事もなく自身の目の前にいるドリブラーの全てをその視界の内に収めている。

 

その女子生徒は僅かにでも動く事はできなかった。今、少しでも挙動を見せれば、それが何であれ自分の方が追い詰められる事を感じずにはいられなかったからだ。

 

「(…だから気に入らないのよ、アンタは)」

 

全くやる気のない態度と表情、それでも個人能力を比較すると自分とはとても比べ物にならない。

 

その事実はその女子生徒にこれ以上はない憤慨を感じさせずにはいられなかった。自分がかけているものにおいてこんな何もしていない者、やる気も無さそうにしている者に劣っているというその事実に堪えきれない鬱屈を感じずにはいられなかった。その才能に嫉妬せずにはいられなかった。

 

それをその女子生徒が考えていたのは時間にしてほんの一瞬。

 

 

“キュッ”

 

 

アスカはその女子生徒にフェイストゥフェイスに入っていた。

 

「(んなっ!?)」

 

試合中に自分の考えに自分の全てを埋もれさせるような真似はその女子生徒もしてはいなかった。周りをちゃんと見ていたと自覚していたし、それは事実。しかし、気がついた時にはアスカに懐深くもぐり込まれていた。

 

「(ちょっ、ホントに何なのよ、コイツ!)」

 

全国屈指のガードと呼ばれている自分がまるで子供のように扱われている。それもこんな普段の生活からしてやる気も何も感じさせないようなヤツに。

 

その事実は激しくその女子生徒を狼狽させていた。半身になり必死になってアスカから見て自分のブラインド側にボールを隠す。

 

なんとかして突破するか、ボールを出す隙を捜そうとするが、まるで自分の前に壁でもできたかのようにしてアスカのディフェンスには隙がない。

 

アスカは淡々としたようにしてただその行く手を遮っていた。自分からボールを取りに行く事もなしに、ただボールもプレイヤーもその先には行かせないようにして。

 

それがオフェンス側にしては助かるところであったろうか、その女子生徒も自分が追い詰められている事は分かっていたが、プレッシャーを感じる事は今のこの状態になってもなかった。

 

「(んっとに腹立つ!!)」

 

一瞬、その女子生徒は顔を別方向に向けた。

 

その次の瞬間、ディフェンスについているアスカに強引に、まるでぶつかっていくようにして突っかかる。

 

それを読んでいたかのようにアスカは僅かに身体を後ろにそらしていた。実際、強引に過ぎるその突破は何の衝撃もなしにアスカに押し込められてしまう。

 

本当に身動きも取れなくなるその一瞬前に、その女子生徒はボールを放り投げた。

 

「ローよ、入って」

 

パスとは言えないような球出しであったが、ボールを手放しながらその女子生徒はもう一人のバスケ部員の女子生徒に言い放つようにして指示を出した。

 

「分かってる!」

 

そう言いながらフリースローラインの辺りでポジショニングも何もなく自軍敵軍関係なく他のプレイヤーと押し合い圧し合いをしていたその女子生徒はゴール下に入っていく。

 

追いすがるように何人かついてきたが、群がられる前に的確に落下点に入る。

 

「ナイス!」

 

そう言いながらジャプして高い位置でボールを受け取った。着いてきた何人かのマーカーがジャンプするが届かない。

 

「(もらった)」

 

両足で着地して一つフェイントを入れて周りを振りきるようにしてターン。

 

その時点で誰もついてきているものはいなかった。

 

自由なスペースを確保してそのままジャンプショット。

 

「(先ず一つ)」

 

確信をもってボールをリリースする。線を描いたようにボールは手を離れリングへと。

 

 

“ビシィッ!”

 

 

「なっ!?」

 

シュートをした女子生徒は思わず声を出していた。

 

間違いなくリングに入る筈のボールは叩き落とされていた。

 

朱みがかった午後の陽に満たされた体育館の中、目の前を残像のようにして光の粒子をまとった紅の輝きが流れていく。

 

 

“ダンッ!”

 

 

自分の着地と同時にその女子生徒は何かの踏み切り音を聞いた。

 

何があったのか分からないようにして、それでもボールがどこにいったのか探すようにしてとりあえず振りかえる。

 

「アスカっ!」

 

ヒカリの声がした。

 

その女子生徒が振りかえった時に目にしたのは紅茶色の髪をした背姿が駆け出したところとルーズボールを拾ったであろうヒカリがそこにパスを出そうとしているところ。

 

もの凄い速さの駆け出し、しかし、ヒカリのパスはアスカのいたその場所に送られた。

 

アスカは駆け出した足をそのまま踏みしめてその場に一瞬留まる。

 

「(惣流っ!)」

 

その女子生徒は自分のシュートをブロックしたのがアスカだと理解すると同時に意地になっているようにして自陣のゴールに向けて走り出した。

 

「みんなっ、ゴール下っ!、ボールには構わないで戻って!」

 

もう一人の女子生徒が自分も全速で走り出しながら自分達以外のチームメイトに指示を出す。そして、自分はアスカの行く手を遮るようにしてセンターサークル付近の自陣寄りに回り込んでいく。

 

その女子生徒の言葉に従って他の三人はゴール下にまっすぐに戻っていく。この辺りは指示通り。指示を出した女子生徒は少しの満足と共に自身に向かって来る脅威に意識を集中した。

 

もう一人のチームメイトも自分の方に向かってくる。感覚的に間に合うように感じられた。チームとしてディフェンスに入れる。しかも、アスカの出足はパスの為に遅い。

 

「(今度こそ、やってやる)」

 

自分ともう一人、全国レベルが組めば必ず止められる。自分に向かってくるチームメイトはアスカにプレッシャーをかけながら自分との間合いに入ってきた。この状況なら絶対に止められる。自分自身ともう一人に確かな信頼と自信をもってその女子生徒はツーワンのディフェンスに入った。

 

 

 

 

 

「ごめんっ、アスカっ」

 

パスを出してそれをアスカが受け取った直後にヒカリはアスカに声を上げて謝っていた。

 

速すぎるアスカの出足にヒカリのパスがついて行けなかったという感じであったが、アスカは表情一つ変える事なくその場に留まって自分が置き去りにしようとしていたそのパスを受け取った。

 

アスカ自身がブロックしたシューターがそのまま間合いを詰めてディフェンスに入る。

 

構わず、アスカは駆け出した。

 

ディフェンスに入ったその女子生徒もちょっと手を出しただけでそれ以上は止めようとする事はなく、中盤に張っているもう一人のチームメイトと連携を取れるポジションにアスカをケアしながら走っていく。

 

僅かにでもかけたプレッシャーが功を奏したのかアスカは駆けながらもトップスピードにはのる事はできなかった。早いテンポで攻め上がりながらも中盤の辺りでディフェンスの二人はチームで壁をつくる事ができていた。

 

「(行かせないよ、惣流)」

「(見てらっしゃい、こっちにだって意地があるんだから)」

 

間断なく足を動かし隙を無くしプレッシャーをかけ追い込んでいこうとする二人。

 

アスカは間合いの手前で遮られたようにして一瞬足を緩めた。

 

「(いけるっ)」

 

しかし、そのままディフェンスの間合いに無造作に入ってくる。

 

「(ばぁか)」

 

囲んでプレス、プレッシャーをかけてボールを…。

 

 

“ズダンッ!!”

 

 

アスカは二人の間を翔け抜けていた。

 

「…………」

「…………」

 

後には呆然としたディフェンスが二枚、取り残されていた。

 

「ちょっ、ちょっと」

 

もの凄いスピードで迫ってくるアスカにゴール下で張っていた三人の内の一人、先頭にいる女子生徒がどうしたのか分からない、どうしていいのか分からないといった感じで今のこの状況の中では意味の無い言葉をあげる。

 

そう言っている間にもアスカはアタッキングゾーンに突っ込んでくる。

 

とりあえず、という感じでゴール下の三人は腰を落として身構えた。

 

 

“ダダンッ!!”

 

 

慣性の法則を無視したようにアスカの身体は目まぐるしく左右に切れ込み、その三人の間を疾風のように駆け抜けた。

 

三枚のディフェンスは動く事でさえもできなかった。かろうじて、自分の傍を紅い流れが過ぎ去っていくのを視界の端に捉えただけであった。

 

右サイド寄りになっていたディフェンスの反対側に抜けたアスカはフリーになったゴール下のスペースで再び鮮やかに空に舞う。

 

邪魔するものなど何もいないその場所で、孤高に舞う鳥のように赤みかがった栗色の髪をなびかせた。

 

理想的なフォーム、全てが理に適っている全く無駄の無いその動き。一流のアスリートが見せる美しさを感じさせながら宙に舞い、そして降り立つ。

 

音のしない着地、そして、音のしないバスケットカウント、微かにネットの揺れる音だけがした。

 

その姿に、コート上の全ての者が一瞬我を忘れて見とれてしまう。

 

あるいは心を奪われ、そうでないものは自分達とは何かが違う、そんな感慨をそれぞれに抱きながら。

 

アスカは床に足をつけた後、一向に変わらない表情のまま、ボールの行方、自分が放ったシュートの結果がどうなったのか確かめるようにして一瞬ゴールリングを見上げるが、ボールがリングをくぐり床に落ちるとそれを追うようにして目線を落とすと、ふっと一つ吐息をついた。

 

全くの意気も意思も無いような感じで、見ようによっては本当につまらないという感じで。

 

周りは誰もが見とれたように、あるいは唖然としたようにしてアスカを見つめている。

 

誰もが粛として声を発する事もなく、その場を体育の授業時には似つかわしくない静寂が包んだ。

 

アスカも僅かに俯いたまま、そのまま何も言わずその場に佇んでいる。

 

当人も、それを見つめている周りも何も言わない。その中でそれぞれに思うものがそれぞれの心の中に沸き立ち、その場の静寂は沈黙へと様を変えた。

 

どことなく気まずいものが流れそれぞれの間を満たそうとする。

 

「すっご〜い、アスカ、ナイッシュー」

 

声を上げてヒカリがアスカに飛びついた。

 

背中から抱きつかれたアスカは、えっ?という感じで驚いたような表情を浮かべる。

 

ヒカリはすぐに身体を離すとそんなアスカの事はお構いなしに肩を掴んで自分の方に向き直らせて手をとる。

 

「さっすがアスカ、凄過ぎるわ。私、みとれちゃった」

 

アスカを自分の方に向き直らせてヒカリは手をとりながらピョンピョンと飛び跳ねる。

 

そんなヒカリにアスカは驚いたような表情のままされるがままにしていたが、ややあって苦笑するような微笑を浮かべた。

 

いつもとはらしくないヒカリのはしゃぎよう、それもまた自分がもたらしたものであると思うとアスカは何となく自分も嬉しいような、何となく心が浮き立つようなそんな感じがしていた。

 

少しの間されるがままにしていたアスカではあったが、ややあってヒカリにとられたままの一方の手を離すと人差し指でツンッと軽くその額を突ついた。

 

「…はしゃぎ過ぎよ、ヒカリ」

 

アスカは少し困った娘を見るようにして、それでも微笑みながら見つめる視線そのままにたしなめるようにしてそう言った。

 

ヒカリはアスカのその言葉に慌てたようにしてアスカの手を放すと自分のした事を恥ずかしがるようにして頬を赤くした。

 

「ご、ごめんなさい。私ったら、つい…」

 

そんなヒカリにアスカは気にしていないとでも言うようにして肩を軽く叩くと自陣ゴールへと戻って行こうとする。

 

「ディフェンスだよ?。戻ろう、ヒカリ」

「あ、うん」

 

先に戻り出したアスカの後を追うようにしてヒカリも慌てて走り出す。

 

「(…本当に、アスカったら、もう)」

 

アスカの後を追いながら、ヒカリはもう少し何かリアクションすれば余計な反感を買わずに済むのにと思っていた。

 

でも、とも思う。こちらから振ればそれなりの反応は返ってくるし、その反応はかつてとは違うものではあるけれども今のアスカもそれはそれでヒカリは好きだった。何と言っていいのか、僅かに見せてくれる輝きがとても綺麗で貴重なような気がしてヒカリはそんなアスカを大切に思えていたし感じてもいた。

 

でも、このままではクラスの中で孤立してしまう、それとも自分の考え過ぎだろうか?、せっかくいいものを持っているのだから、でも、アスカ自身それを望んでいないようだし、でも…、などとディフェンスに戻る僅かの間にヒカリはそんな事を考えてもいた。

 

そんなヒカリの思いをよそにアスカは淡々とした足取りで自陣に戻りながら、ふとスコアボードに目を向けた。

 

「(…10点差か…)」

 

こんなものかな、そう思いながらアスカはディフェンスのトップ、自分のポジションにつく。

 

ヒカリはアスカの表情から何かを感じたようにしてその横顔に視線を向けると一つため息をついて自分もアスカの横並びにポジションについた。

 

「(まあ、本当は良くないんだけれども仕方ないわね)」

 

これからアスカのする事を察してヒカリはクラス委員の自分を抑えるようにして心の中で呟いていた。

 

「(でも、どうせやるならうまくやってよね。アスカ、余り向こうの二人を刺激しないようにね)」

 

そう思いながらヒカリはせめて自分はという感じで視線を前に向ける。

 

その後の試合運びは淡々としたものになった。

 

アスカは手を抜くという感じではなかったが、自分から積極的にプレイに絡んでいこうとはしなくなった。

 

ディフェンスなど自分の傍にきたものに対しては変わらないようにこなしていったが、インターセプト時やオフェンス時に自分にボールが回ってきても他のプレイヤーにパスを出して自分がボールを持たないようになった。

 

常に自陣、敵陣のスリーポイントラインのあたりにポジショニングをしてディフェンスにもオフェンスにもあまり関わらない。

 

ディフェンス時には自分がマークしている相手は通さないが適当にパスは通させる。オフェンス時には自分がマークされても突破はせずにパスを通す。それでそこそこは体育の授業らしいいい試合になっていた。

 

それでもアスカが一人分としてしか機能していないからアビリティの高いプレイヤーが二人いる相手チームに対して押される形となっていたが、時々フリーになった時にスリーポイントシュートをうっていたから結局点差が縮まる事はなかった。本数は少ないが確率10割だったのはアスカらしいといえばらしいのだろうか、ジャンプもしないでそのまま放り投げていただけであったが。

 

 

 

 

 

“ピッピー”

 

 

タイムキーパーをしていた女子生徒がホイッスルを鳴らした。

 

それはアスカのスリーポイントシュートが決まり、リスタートをしようとしていた直後であった。

 

「はーい、しゅーりょー」

 

それを聞いてアスカは僅かにそちらに目を向けると微かにため息を漏らしてそのままコートから出て行こうとする。

 

相手チームの二人は忌々しそうにアスカに視線を向けていた。

 

他の三人はそれなりにゲームとして形になった事に特に何も気にしていないようにして口々に終わった終わったなどと言いつつその脇を通り過ぎていく。

 

足を止めてアスカを睨むようにしていた二人のバスケ部員の内の一人がふっと肩の力を抜くと隣に問い掛けるようにして言葉を漏らした。

 

「あの子、バスケ部に入んないかしら」

「じょーだん!、頼まれたってお断りよ!!」

 

自分の呟きに即座に返された強い語調に驚いたようにしてその女子生徒は隣に視線を転じる。

 

試合の中でアスカにシュートを止められたその女子生徒はまだ睨むような視線をアスカに向けていた。

 

「悔しいのは分かるけどさ、はっきり言って、あの子、凄いよ。チーム全体のレベルアップのためにも…」

「テクがどうとか、身体能力がどうとか、そんなの関係ないわよ!」

 

その言いように話しかけた方の女子生徒は表情を厳しくする。

 

「感情論を持ち込まないで、チームの輪も大切かもしれないけれども、それ以上に必要なのは個人能力でしょう?。私達のチームは全国区なんだから、勝ち上がっていくためには…」

「私が言っているのはそういう事じゃないわよ!」

 

尚も言葉きつく言い返してくる相手に自分で感情論を否定しながらもその女子生徒もムッとした表情になる。

 

「じゃあ、なんなのよ?」

 

言いかけられた女子生徒は未だにアスカを睨むようにしていたが、少し間をおいてふっとその視線を緩め肩の力を抜いた。

 

「…だってあの子、全然楽しそうじゃなかったじゃない」

 

それを言われて言い返された女子生徒はピクリと眉根をそびやかせる。

 

「私だって認めるわよ、全然相手にもなっていなかったって。レベルが違うってさ、悔しいけど」

 

そう言って僅かに肩をすくめる。

 

もう一人の女子生徒は黙ってその話しを聞いていた。

 

「でもさ、あれだけの動き、あれだれのプレイをしておきながらあの子、一度も笑顔を見せなかったわよ」

 

そう言ってその女子生徒は初めて自分の傍らにいるチームメイトに目を向けた。

 

「…そう…ね…」

 

そう言って目を向けられた女子生徒は今度は自分がアスカに視線を向ける。

 

それに倣うようにして言いかけた方も再びアスカに目を向けた。

 

「惣流ってさ、いつもからそうだけど、何て言うのか、活力とか、意気っていうものがないよ。バスケに対してだけでなく、なんでもさ」

「…………」

 

それを言われた女子生徒は無言のままそれを聞いていた、アスカを見つめたまま。

 

何を言い返す訳でもなかったが、その視線には悲しむような、それを向けている者に何かを思うような色が浮かんでいた。

 

「何かあったのかもしれない、けどさ…」

 

その女子生徒も瞳の色を変える、それは隣のものとは色合いが異なっていたが。

 

「いろいろな意味で」

 

どこか突き放すような、投げやりな口調がそれには混じっていた。

 

「駄目だよ、あの子は」

 

それを言った時にはどこか惜しむような色が僅かに混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<第八話 了>

 

 

<第七話へ>

<第九話へ>

 

 


ええっと、TAKAです。お久しぶりになるのでしょうか。

活動停止を言っておきながら何だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、HDに埋もれていたのを発見したのでそのままにしておくのも何だなという訳で投稿しました。

またぞろサイズがでかかったので分割して送らさせて頂きました。私自身、このくらいのサイズなら一気に読めるなと思ったのですが、いかがなものでしょうか。

でも、分割したらまたしてもシンジ君とアスカさんとの絡みがなく、おおぅ…(泣)。

一応、アスカさん、活躍はしているんだけれども、何か、最後にはいじめられているみたいになっておりますし、なんともはや(汗)。

今回の話しだけ見ると私自身何だかなとか思ってしまいますが、この先を続けると同じ分量が増える事になるので…う〜ん、ジレンマです(←処置無し)。

とりあえず、この次(←いつの事や?)にはフォローさせて頂くつもりでおりますので、シンジ君に対した時のアスカさんの変化を見て頂ければと願うものです。今回は短めですのでこの辺で、それでは。

1999.10.10 pm 7:04 TAKA



クールビューティーっすか。(●> _ <●)ぽっ<ヲイ

というわけでTAKAさん、Ramblar8発目ありがとうございますー。\( > 0 < )/ありがとー

やる気が全くないとはいえ、やはりアスカ様は流石ですな。
幼い頃から体術、戦術など戦闘の為の技術を自らたたき込んできたんだから、体は覚えてるんでしょうね。

無感情なアスカ様に敵意を抱くチョイ役。....もう出てこなそうですな。(爆)

アスカ様のさまようココロは何処へ行き着くんでしょうねー。( T - T )せつねえッス

さあ、投稿してくれたTAKAさんに感想&応援などなどを書いて、気になる続きを書いて貰おー。\( ^ 0 ^ )おー

TAKAさんへの感想はここです。

または簡単感想用掲示板へどうぞ。

感想用フォームです。2,3行の感想でも作者さんは嬉しかったりするのだ。

ここから是非感想を送るのだー。\(●> _ <●)おーっ

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