(アスカ!・・・そう、僕は・・・負けられないんだっ!!!!)
アスカや加持が何か言ったが、シンジの耳には届いていなかった。ただアスカの手の温 もりだけが、木漏れ日のように彼の全身を満たしていった。
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EVANGELION−2018−
第一話 −一つ屋根の下で− Bパート
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(シンジも、アタシと同じなんだ・・・)
アスカはシンジの頬に手を当て、シンジの瞳を見つめながら、そうつぶやいた。
「アスカ?・・・・・・・」
シンジの顔に少しづつ生気が戻ってくる。
「シンジも同じなんだ、アタシと」
「あ、アスカも?」
「そう、ときどき蘇ってくるのよ。サードインパクトの、あの時のことが。そのたびにすごく苦しくなるの」
「アスカ・・・僕は・・・僕は・・・・」
何か言いかけるシンジ。しかしそれを制して
「まったく、こんな時ウジウジするクセは変わってないのね!たしかにあの時アタシは傷ついたわよ。何度か死のうと思った。その原因のいくらかがアンタにあるのも事実よ」
たたみかけるようにアスカが言う。しかしその口調はシンジを非難するものではない。
アスカは続ける。
「けど、少なくとも、アタシはそのことがあったから素直になれた。シンジの気持ちを受け入れられた。だから、アンタが負い目を感じることなんてないのよ!アンタのことを悪く言うヤツもいるかも知れないけど、すくなくともアタシはこれで良かったと思ってる。だからいつまでもウジウジしてんじゃない!バカシンジ!」
ぶっきらぼうなアスカの言い方が、シンジにはかえって嬉しかった。
「ありがとう、アスカ」
そう言われて、いまさら頬を赤らめるアスカ。
ここが会社のビルの廊下だということをすっかりと忘れている二人である。
しかも天井据え付けの監視カメラでその会社の主に一部始終覗かれているとも知らず。
落ち着きを取り戻したシンジとともに、アスカと加持は社長室の前に立った。鹿嶋は仕事があるといって去っていった。
「さあ、何が出てくるか・・・・」
そう言って加持はドアを開けた。ベンチャー企業だけに社長室もネルフ司令室のような格式ばったものではなく、ドアもふつうのオフィスのドアと変わらない簡素なものである。
こじんまりとした部屋にはソファと本棚、執務机が置かれていた。しかしなぜか照明が消されて薄暗く、執務机にミサトの姿はなかった。
「ミサトさん・・・・・?」
シンジとアスカは執務机にゆっくりと近づいていく。
薄暗い室内で、加持は明かりをつけようとするが、なぜかスイッチが作動しない
シンジが机の下に目をやると、そこに何か黒い物体があることに気づいた。
それは、・・・女性の髪であった。薄暗い室内でもつややかさを放つ髪。シンジには見覚えのある髪であった。
「ミ、ミサトさん!!!!」
シンジが机の裏に回ると、そこには黒髪の女性が倒れ込んでいた。
まちがいなく、葛城ミサトであった。
「ばかな・・・・」
ミサトの体の周りに広がる液体、その色は赤い・・・・
シンジの脳裏に、最悪のシナリオがよぎる。
「アスカ!加持さん!、ミサトさんが!」
暗い想像を振り切ろうとするかのように、振り向いて叫ぶシンジ。
しかし、アスカはなぜか落ち着いていた。
「シンジぃ、う、し、ろ・・・・・・・・」
「えっ・・・」
シンジが振り返った、そこには
「ワァァァァァァァァァ!」
「シンちゃぁぁぁぁぁん・・・・・・」
ガバッ
ムクリと起きあがったミサトがシンジに背後から抱きついたのだった。
しかも、その顔には真っ赤な血糊と、特殊メイク。
一言で言うならば「おイワさん」。
「会いたかったぁぁぁぁ」
「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
まだパニック状態のシンジ。
「加持さん・・・こんな手に引っかかるなんて、アイツ本当に成長したのかしら?」
「シンジ君、死を確認するまで敵に後ろを見せちゃ行けないと教えただろう?」
と、完全に呆れ返っているアスカと加持。
「み、ミサトさぁぁぁん」
ミサトはシンジの肩を思いっきり抱きしめる。アスカはしばらくは面白がって眺めていたが、シンジの後頭部に胸を押しつける体勢になっているのに気がつき、あわててミサトに怒鳴る。
「ちょっとミサトぉ!なにシンジに抱きついてるのよっ!アンタには加持さんがいるでしょ!」
「あ〜らぁ、妬かない妬かない。ほら、シンちゃん返してあげるから!」
そういってシンジを離し、加持のところへ向かうミサト。
彼らもまた1年半ぶりの再会だった。
「リョウジ・・・・」
「ミサト・・・・・」
ミサトは加持に抱きつこうとする。しかし
「ミサト・・・・頼むから、メイク落としてからにしてくれ・・・・」
ミサトはまだお化けのメイクのままだった。百年の恋も醒めるというものである。
「それはまだおあずけ!一年以上も新妻をほおっておいた罰よ」
そう言って加持の腰に腕をまわす。
加持も「やれやれ」とミサトの肩を抱く。
解放されたシンジに、アスカが耳打ちする。
(シンジ、さっさと行くわよ)
(え、でもまだミサトさんと・・・・)
(あんたバカぁ?これからいくらでもミサトに会えるわよ。言いたいことはその時に言え ばいいの!それより加持さんとミサトの邪魔しちゃいけないでしょ!)
(え、あ、そうか・・・そうだよね)
(ホント、鈍感なのは昔のまんまね。相変わらずなんだから)
(アスカだってその口癖・・・・)
(あ〜ら、言うようになったわねえ・・・・ってこんなこと行ってる場合じゃないわね。 行くわよ、シンジ)
(うん)
二人は静かにミサトの部屋を出ていく。
ミサトはそばにあったタオルで血糊を拭き取り、メイクをはずす。
「あの二人もすっかり変わったわねぇ」
「アスカもずいぶんといい顔をするようになったな」
「シンジ君もずいぶんとカッコよくなったじゃない」
「世界は意外と優しいのかも知れないな。一度全てを失ったあの子たちがこうも立ち直れるとは。いや、あの子たちが強かったのか」
ミサトがゆっくりとかぶりを振る。
「あの子たちが特別強い訳じゃない。アスカは特にそうよ。強がっていたけど、それは弱 さの裏返しでしかなかった。アスカが立ち直れたのはその弱さに気づいたからよ」
「そうだな・・・・ところで、この作戦はもとネルフ作戦課長のものとしては、いささかお粗末な気がするんだが?もう一つぐらい何か考えてるんじゃないか?」
ミサトは「ニヤリ」とゲンドウ笑いを浮かべて
「さすが、もとダブルスパイ。よく気づいたわね」
加持は、痛いところをつかれた、と言う顔で
「・・・まだあのこと怒ってるのか?」
「もちろん。こんど死んだふりなんかしたら許さないから。で、アンタが見抜いたとおりこの作戦は、陽動作戦なのよね」
陽動作戦、本来の作戦目的から敵の目をそらし、作戦遂行を容易にするために行われるニセの作戦のことである。いわゆるオトリ作戦などがこれに当たる。
「奇襲作戦は相手が警戒を説いている時じゃないと成功しないからね。はじめにこちらのワナを見せて安心させ、本当のワナは隠しておく、古典的戦術よん」
「ミサトを敵に回さなくて良かったな・・・で、本当の作戦は?」
「それは・・・・・」
と、ミサトが耳打ちする。
しばらくして社長室から「ククク・・・」という不審な笑い声が二つ、聞こえてきた。
「なるほど・・・・。N2爆弾に匹敵する破壊力があるな」
「どう、名付けてナガト作戦。1週間かけて考えたんだから」
「い、一週間?ミサト・・・・仕事は・・・・」
その陰には鹿嶋らMIN社員の苦労があったことは言うまでもない。もっともミサトは、機を見るに敏であるのは自他共に認めるところ、であるが事務仕事はもともと苦手であり、いつも鹿嶋や元ネルフ総務課長の香椎常務に押しつけているため、社長が一週間働かないことについてのMINの直接的損害は軽微であった。しかし、最初の作戦案にあった「手料理でお出迎え」をシミュレーションするために、手の空いていた社員数名が社長お手製のカレーを食べさせられるという尊い犠牲をはじめ、若干の人的損害が発生したらしい。
社長室を出たシンジとアスカは、鹿嶋に呼び止められた。シンジに新諏訪市を案内しながら、これからのことを話したいという。
「いいんですか?鹿嶋さんは仕事があるでしょうに」
鹿嶋はMINでは本部長兼総務課長というポストに就いていて、MINの表と裏、企業活動とゼーレ殲滅の両面にわたる重役である。
「いいえ、これは社長の命令ですかられっきとした仕事ですよ。ま、私も気分転換がしたかったところですし、もうすぐ昼時ですし、とりあえずは食事に行きましょう」
そういって半ば強引にシンジたちを連れ出す鹿嶋。ミサトの命令という言葉通り、これもまた「ナガト作戦」の一環であった。むろん、シンジとアスカは知るよしもない。
シンジとアスカは鹿嶋に連れられて、新諏訪市をあちこちまわった。新諏訪特別市は人口50万を数える大都市である。万一の際の臨時首都としての役目も負っているため、都市機能や生活基盤は非常によく整備されていて、サードインパクトからの復興の原動力となっている。また特別市の自治権を生かした独自の様々な政策で世界的にも注目されている。ミサトがここを拠点に選んだのは、大都市ゆえの情報収集の利便性と、政府のある第二東京、ネルフのある第三東京のいずれからも適度な距離を持っているからである。
ひととおり回ると、鹿嶋は車を中心街から町外れの方に走らせた。
「あれがアスカさんの通っている高校です。もう1学期が終わっているので、シンジ君には2学期から転入してもらうことになりそうですな」
と、運転席から鹿嶋が言った。
「アスカ・・・トウジやケンスケや委員長も同じ高校だったよね」
「うん・・・・・」
かつての友達、仲間に会えることは、シンジにとっては嬉しいことのはずだった。だが、シンジの心に重いしこりを残していることがあった。トウジの脚のことである。トウジはサードインパクト後に、クローン技術による脚の再生治療を受けて体は元通りになっている。しかし、シンジの乗るエヴァが一度はトウジの脚を奪ったことは事実である。たとえそれがシンジの意志でなかったとしても。
謝って許してもらえることではない。
だが、いたずらに自分を責めても、それは自己憐憫の裏返しにすぎない。
受け入れなければならないのだ。現実を。たとえトウジに何を言われても。
そのうえで、できることなら、トウジとゆっくり話したい。
許してくれなくてもいい。またトウジやケンスケと話せるなら。
シンジはうつむいて心の中でつぶやく。
逃げちゃダメだ、と。
自分の罪から、自分の過去から。
アスカは何も言わなかった。トウジがシンジのことを恨んでいないこと、それどころかシンジの帰国を心待ちにしていることをアスカは知っている。でも、ここでそれを告げてもシンジを救うことはできない。あくまでトウジ自身の口からでないと、シンジの心の曇りを晴らすことはできない、ということもまた、アスカは知っている。だから、そのことを言いたい気持ちを必死に押さえて、ただシンジの顔を見つめていた。
その空気を察したのか、鹿嶋が話の続きを始める。
「社長から直接話があると思いますが、シンジ君も、アスカさんと同じようにわがMINで働いてもらいます。高校生のバイトという扱いでね。やはり高校生が用もなく会社に出入りするのは不自然ですからな。もちろん、給料はきちんと払いますよ」
たしかに、周囲の不審を呼ぶようなことは慎まなければならない。しかしゼーレとの戦いをアルバイト扱いするなんてミサトらしいアイデアだとシンジは思った。
「とりあえず週に2日、1日はMIN本部の情報処理室で、もう1日は新諏訪市中央区の『MINスクール』でコンピュータ教室のアシスタントとしてね。」
おそらく、どちらも裏の顔をもっているのだろう、とシンジは思った。事実、そのスタッフのほとんどは何らかの形でネルフと関係のある者であった。MINの教育産業部門「MINスクール」はMINの事業の一つであるとともに、ネルフや各地のダミー組織、そのエージェントたちと連絡を取る情報中枢でもあった。不特定多数の人間が出入りしても不自然ではないからである。
「わかりました。コンピュータの扱いは加持さんにいろいろ教えてもらいましたから、少しはお役に立てると思います」
と、シンジは答えた。
鹿嶋はうなずくとハンドルを握りなおした。
車はやがて、新諏訪市のはずれの、諏訪湖のほとりのちいさな展望台に着いた。
平日のためか、人気が見られない。ただ周りの木からはセミの鳴き声が無数に響いていた。鹿嶋は車を3台分のスペースしかない小さな駐車場に止めた。車を降りると、鹿嶋はぐるりと辺りを見回して、
「いい風景です。あなた達は知らないでしょうが、諏訪湖もセカンドインパクトの時にずいぶん形が変わったんですよ。さて・・・・・ここならいいでしょう。ゼーレ残党の動きについて、ゆっくり話ができますな」
そう言ってシンジたちを展望台へ促した。その目はシンジが空港で見たものと同じ、鋭い光を帯びていた。歩きながら鹿嶋が続ける。
「ノイエ=ゲヒルンは相変わらず潜伏を続けています。組織の再建を最優先しているようです。しかし、旧HEL派がノイエ=ゲヒルンからの離脱して単独行動を始めました。これが我々の当面の相手となるでしょう」
アスカはその名前に聞き覚えがあった。
「HEL・・・人体工学研究所、イギリスにあってゲヒルンとともにネルフの母体となった組織の一つね。たしか、人工臓器とか遺伝子治療とかの研究もやってたって聞いたけど」
「その通りです。その技術がエヴァにも使われました。かつては医療技術による不老長寿の研究をやって倫理的に問題になったこともあったのですがね。ゲヒルンのように最初からゼーレの影響下にあったわけではなく、創設者であり所長のオーガスティン=サー=スコット博士がゼーレのメンバーになり、自分の組織を差し出したんです。」
サードインパクトがゼーレにとっては不完全な形で発生し、人類補完委員会の老人たちは神になり損ねた者たちとなった。ゼーレそれ自体も大きな打撃を受け、人類補完委員会も何人かはLCLに消え、何人かは神になり損ねた我が身を呪い、命を絶った。なおも「真のサードインパクト」を起こすことをあきらめぬ者たちは、ゼーレ正統というべき「ノイエ=ゲヒルン」の元に集まり、ネルフへの復讐と人類の補完に執念を燃やしている。しかし、人類補完委員会という中枢がその機能を失ったことで、ゼーレ残党はいくつかに分裂している状態にある。とりわけ、ゼーレの人類補完計画発動後にゼーレに加わった組織は、必ずしも考え方がゼーレ正統と一致しないこともあり、分派し別行動を取っているものも多い。スコットの旧HEL派もその一つだった。
展望台についたシンジたち。諏訪湖の方を眺めながら鹿嶋が続ける。
「問題はスコットという男です。彼はキールよりも恐ろしいかもしれません。彼はかつては英国が誇る医学者であり、そのために王室から称号を受けるほどでした。しかし人体の研究をしていくうち、不完全な人間の体を完全なものに進化させる、という考えにとりつかれたようです。ゼーレの人類補完計画にひかれたのもそのせいでしょう。しかも彼は国際的人身売買組織の幹部でもあった。彼は完全な人間を作ることにとりつかれ、そのために子供を中心に様々な人種・民族の人間を使って人体実験を行ったといいます。また、資金のために、命令に絶対服従し、死への恐怖を全く持たなくした人間を傭兵として国際紛争の起こった国へ売ったという情報もあります。ネルフ発足後も彼の研究はエヴァ開発計画の中で極秘裏に続けられていました」
シンジとアスカは全身の毛が逆立つような感覚を受けていた。アスカは膝がかすかにふるえていた。自分たちからそう遠くないところで、そのような恐ろしいことが行われていたのだ。
「それで・・・・鹿嶋さん・・・スコットは自分の組織を率いて、何をやろうとしているのですか」
絞り出すような声でシンジが尋ねる。鹿嶋は展望台の鉄柵に手をかけて、湖の対岸の方を見続けている。
「封印されたエヴァの技術データ・・・これが彼のねらいでしょう。彼の目標は進化した完全な人間の創造、そのためにはエヴァのデータが必要ですからな。彼はおそらくネルフの技術を狙う「死の商人」たちとも手を組んで、あらゆる手段を使って手に入れようとするでしょう。もしも、エヴァの技術が彼らの手に落ちたら・・・・・」
「サードインパクトに匹敵する悲劇を、人類は迎えるのですね」
展望台の周りを、重くよどんだ空気が包み込む。
セミの声が、その空気を破ろうとするかのようにひときわ大きく響きわたる。
「我々にとっては長い戦いになるでしょう。ノイエ=ゲヒルンも控えています。いつ果てるともない、つらい戦いになるでしょうな」
いつしかアスカはシンジに寄りかかっていた。アスカをしっかりと抱き留めるシンジ。
これから自分たちを待ち受ける黒い影、それが今自分たちを飲み込もうとしているように二人には思えた。襲い来る不安。シンジはアスカを抱く腕に力を込める。お互いの温もりを感じながら寄り添うシンジとアスカ。16歳の少年少女が背負うにはあまりにも大きすぎるものを背負った二人。しばし、沈黙の時が過ぎる。鹿嶋はただ湖の彼方を見つめている。水面は傾きかけた午後の日差しを反射して、ダイヤをちりばめたように眩しく光を放つ。静寂を破り、アスカがシンジにささやく。
「シンジは、恐くないの・・・?」
「恐いよ・・・・すごく。だって、ほら・・・・」
そう言ってアスカの手を自分の胸に当てる。手のひらを通して、シンジの鼓動がアスカに伝わる。ドクドクと波を打つシンジの命。
「わかるわ。速くなってる。アタシもシンジと同じ、すごく恐いのよ。昔のアタシなら、きっとこんな気持ち、耐えられなかったわよね。自分は何でもできると信じてたから。でも今は違う。だからすごく恐いの」
「アスカ・・・・」
「でも、アタシは戦う。アタシの大切なものを守りたいから。それに、シンジ・・・アンタと一緒に過去を乗り越えるって、あの時に決めたからね」
「あの時の気持ちは、僕も変わっていないよ」
「でもシンジ、アタシはまだ一人で過去に立ち向かえるほど強くないと思う。もしアンタがいなければ、あのまま病院で死ぬか、生き延びても過去から逃げて生きることを選んでいたわ。アタシが恐いのは自分が死ぬことだけじゃなくて、アンタが死ぬこと。だから、絶対に死なないでよね。自分を犠牲にしてアタシを守ろうなんて考えないで・・・」
「アスカ・・・・僕は、死なない。ここで誓うよ。僕もアスカがいなかったらまた逃げてたかも知れない。僕はアスカを絶対に死なせない、そして僕も死なない。もう、後悔はしたくないから」
鹿嶋は湖を見つめたまま、背中越しに聞こえてくる二人の言葉に耳を傾けていた。
強い子供たちだ、と思った。しかし、痛々しくもあった。本来ならば彼らの目はもっと未来へ向けられるべきなのだ。だが彼らは未来の前に過去と向き合うことを余儀なくされている。背負った過去はあまりに大きく、負った傷はあまりに深い。だが過去にのみ命を費やすには、彼らはあまりに若すぎる・・・・・それはかつてネルフという組織の中枢にいた中年の男に強い悔恨の念を呼び起こした。せめて、自分たちの負債は自分たちの世代で精算したいものだ・・・・。
それからしばらく、3人は展望台で話し合った。アスカとシンジはお互いの気持ちを確かめあえたので、いつしか彼らを包んでいた不安の影は姿を消していた。
太陽がすっかり傾いた頃、アスカとシンジは鹿嶋に送られてミサトのマンションに着いた。アスカはミサトの家に同居している。シンジもまた一緒に暮らすことになる、と二人はミサトから聞いていた。ミサトの住むマンションは「スカイタウン86」といい、かつて住んでいたコンフォート17によく似た雰囲気を持っている。
アスカはロックをはずしのドアをあける。
「ただいま・・・・あれ、ミサトはまだ帰ってないのかな?」
「前のマンションとよく似ているね。おじゃましま・・・・」
「バカ!今日からアンタの家でもあるんだから、ただいま、でしょ!」
そう言ったアスカだが、室内に入って、リビングの家具の配置が微妙に変わっていることに気づいた。まさかと思いリビングのとなりの部屋のドアを開けると、
「な、なんなのよコレはぁぁぁぁ!!!」
「ど、どうしたのアスカ!」
そこはアスカの部屋であったのだがベッドも机も、部屋に会った全てのものがなくなり、がらんとした空間だけが広がっていた。
「ミサトォ・・・・なあにかんがえてんのよぉぉ」
と、そのとき玄関のドアの開く音がした。ミサトと加持が帰ってきたのだ。アスカは玄関に全力で走ると飛びかからんばかりの勢いでミサトを問いつめた。
「ミサト!私の部屋をどうしたのよぉ!」
「あ、ごめ〜ん、言い忘れてたわねぇ。この部屋は四人じゃちょっと狭い気がするから、隣が開いてるんで壁をぶち抜いて、隣も使えるようにするのよ。だからアスカの荷物は隣の部屋にうつしといたわよん」
「何勝手なことを!じゃあシンジはどうするのよ、アタシ一人が隣になるの!?」
「なーに言ってんのよ、隣の部屋にはシンちゃんとアスカに二人で住んでもらうのよ。シンちゃんの部屋もちゃんと用意したからね」
「「ええーーーーーーっ!」」
お約束のユニゾン。
そう、これこそミサトのナガト作戦の真髄だった。
「まあ、今週中には壁のぶち抜き工事もやっちゃうし、部屋が広くなったのとおんなじよ。それとも・・・やっぱり二人っきりのほうがよかったかしら?」
シンジとアスカは絶句している。二人にとってはイヤなことではないはずなのだが、まだまだ彼ら二人には刺激が強すぎたようだ。しかし、ミサトは追撃の手をゆるめなかった。「シンちゃん・・・アスカ襲っちゃダメよ。まぁ、アスカがいいって言ったんなら構わないけどぉ・・・・」
シンジとアスカ、ふたたび熟れたトマトと化す。さらにミサトの第4派攻撃がせまる。
「・・・あたし達より先に、新諏訪市の人口、増やすようなことしちゃ、だめよぉん(はぁと)」
シンジとアスカ、轟沈。薄れゆく意識の中でアスカは、ミサトの作戦に見事にはめられたことを悟った・・・・。
その夜、アスカはシンジの部屋をノックした。
「シンジ、入っていい?」
「アスカ?いいよ」
シンジはベッドに腰掛けていた。アスカはシンジの隣に座る。
「今日は疲れた?シンジ」
「うん、ちょっとね」
それからしばらく、二人の間に沈黙が続く。お互いに何を話したらいいのかわからない、何から話せばいいのかわからないという感じであった。
「ねえ・・シンジ」
沈黙を破ったのはアスカだった。
「加持さんと、どんなところに行ってたの?」
「中国とか、インドとか、ドイツのネルフ関連組織をまわって、そこで・・・いろんな訓練を受けてたんだ」
「ふ〜ん、浮気はしてないでしょうね〜」
と、上目遣いに、うかがうような目線でアスカが尋ねる。こんな距離でアスカと話すのは久しぶりだった。その色香を含んだ表情に、シンジはドキリとする。
「してないよ!」
「ホント〜?アンタ今ドキッとしてたでしょ。なにか身に覚えがあるんじゃないの」
「ち、ちがうよ。それは・・・・・」
シンジは頬を赤らめながら、つぶやく
「アスカが・・・・その・・・すごく・・・綺麗だったから・・・」
「バカ・・・・」
アスカも顔を真っ赤にする。
「アタシ・・・何から言えばいいかわからないけど、とにかくシンジに話したいことがいっぱいあるの。この一年のこととか・・・いろいろ・・・」
「僕も、アスカに話したいことがいっぱいあるんだ。行った国のこととか、そこで出会った人のこととか・・・」
「じゃあ、シンジから話して・・・。」
「うん・・・・・」
肩と肩を寄せ合い、語り合う二人。シンジは相変わらず女性的な顔立ちをしているが、1年前に比べて体つきは男性的な雰囲気を強めつつあった。アスカも、その身体のしなやかさは相変わらずだが、顔つきは大人の女性のそれへと移りつつあった。変わってそうで、変わっていなくて、変わってなさそうで、でも着実に変わっている。それは二人の関係を暗喩しているかのようであった。
結局二人は朝方まで語り合った。それまでの空白を必死で埋めようとするかのように。相手がいなかった自分の1年間の過去の世界に、何とか相手を引き入れようとしているようでもあった。
途中で力つきて二人ともそのまま眠ってしまったが、かろうじて「二人仲良く1つのベッドで寝ていた」という光景をミサトに見られるという最悪の事態は回避した。しかし、それも、目のしたにできたクマの訳をミサトに尋ねられたシンジが、
「昨日は眠れなかったんです。アスカといたから・・・」
と、誤解される危険性100%の発言をしたためにすべておじゃんになった。
その日、1年半ぶりの夫婦喧嘩が勃発したという。
ちなみにミサトは二人の間に何もなかったことは知っていて、単にからかっていただけである。なぜ知っていたのかというと、加持と二人で一晩中壁にカットグラスをあてて、シンジの部屋の物音に耳を傾けていたためである。
この二人もなにをやってんだか。
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なんだかんだと結構重く、長くなってしまいました。第一章Bパートです。
アイドリングは次の二話までで、いよいよ物語のギアをいれます。
ここまでが長すぎましたね。ごめんなさい。
そうそう、アスカがシンジのベッドに座るシーンで期待された方も、まことに申し訳ありませんでした!(笑)
今回はオリキャラの鹿嶋にしゃべらせすぎたかな、と反省しています。
MUKA
特殊メイクでラブシーンか....。(●> _ <●)ポッ<ヲイ というわけでMUKAさん、連載3発目ありがとうございますー。\( ^ 0 ^ )ありがとー むむう、サードインパクトが終わってもなお世界は不安定さを増してますな〜。(
- _ -;) そして、二人暮らし.......こりゃ人口増えますな。(爆) さあ、話も面白くなってきた上にLASにんにはたまらない展開になってきました。(笑) |
MUKAさんへの感想はここです。
または簡単感想用掲示板へどうぞ。
◎感想用フォームです。2,3行の感想でも作者さんは嬉しかったりするのだ。