「ただいま、アスカ」

 

 

 シンジのその言葉が、アスカの胸を優しく流れていった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 EVANGELION−2018−

            第一話   −一つ屋根の下で−  Aパート

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 二人の距離はゆっくりと縮まり、やがて零になる。

 

 シンジの腕は、アスカの背中に

 アスカの腕は、シンジの背中に

 

 言葉を交わすこともなく、抱きあう2人。

 強く、強く・・・・

 

 朝の光を浴びて長く伸びた2つのシルエットが、1つになる。

 そして、2人の頬が触れあう。

 

 シンジは感じる、アスカのぬくもりを

 アスカは感じる、シンジのぬくもりを

 

 それは限りなく暖かく、優しい感触。

 ずっと、求め続けていたもの。

 

 

 (帰ってきたんだ、アスカのもとへ)

 (帰ってきたんだ、アタシのところへ)

 

 頬と頬で互いの存在を確かめあう2人。

 アスカの頬に、ひとすじの光

 

 (恋人をどれだけ待たせたと思ってるのよ、バカシンジ)

 (ゴメン・・・アスカ)

 (許してあげないわよ。これからたっぷり償ってもらうんだから。一生ね・・・

 

 

 

 

 2人の世界はいつまでも続くかとおもわれた、その時・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと・・・・・そろそろいいかな、お2人さん」

  と、苦笑を浮かべながら呼びかける長髪の男。すっかり存在を忘れ去られていた

 加持リョウジ、である。まだまだ20代で十分通じる風貌だ。

 

 シンジとアスカは我に返り、熟れたトマトのように顔中を赤く染める。

(やれやれ、アスカも俺にベタベタしてたときよりもいいカオになったけど、

 こう人前で やられるとなあ・・・)

 

「こちらも新妻を待たせてるんでね」

 と、加持。もちろん、ミサトのことである。

 彼女が「新妻」という言葉にふさわしいかどうかはあえて語るまい。

 

 加持が言葉を続けようとしたとき、その背後から男の声がした。

「若いってのはいいもんですなぁ。うんうん。やはり私じゃなく葛城社長に来て頂くべきでしたな・・・・」

 といいながら現れた中年の男。地味なスーツを着た、小太りで丸顔、象のような目をした男である。

 およそ洗練という言葉とはかけはなれたその風体は、一見すると、どこかのさえないサラリーマンという感じだ。

 シンジにはその男に見覚えがあった。

「作戦三課の鹿嶋一尉・・・ですね」

 シンジの言葉に鹿嶋は小さく笑うと、

「それは昔の肩書きですよ。いまは葛城社長のもとで会社員をやってます。ま、しがない中間管理職の

 サラリーマンですな」

 そう言った鹿嶋は、しかし、その目はサラリーマンの目ではなかった。ネルフでは温厚な性格といわれ、

 年下のミサトが上司であることにも不平一つこぼしたことがなく、シンジたちにもよく接していた鹿嶋だが、

 その実ネルフの後方指揮官でもあり、いくたびかの修羅場もくぐり抜けてきたのだ。

 シンジは鹿嶋の眠たげな目から覗く、貫くような鋭さを見逃さなかった。

 (そう、まだ戦いは終わってないんだ)

 シンジは一気に現実を見せつけられた気がした。ミサトはサードインパクト後、ネルフを退職し、

 加持とともに企業を興してビジネスの世界に生きている、ということになっているが、実はその会社は

 ネルフのダミーの一つであり、目的は規模を縮小したネルフに代わってゼーレ掃討を行うことである。

 シンジもまた、ゼーレと戦うことを志願し、日本を離れたのだった。

 

「あ・・・鹿嶋さん、ミサトは?」

 トマト状態からようやく立ち直ったアスカ。

「どうしても抜けられない会議がありましてね。私がお迎えにあがったんですよ」

「ホンット、薄情な女よね。加持さんより仕事の方が大事なの?」

 ミサトを非難するアスカ。もっとも、半ばはシンジと抱き合ってたところを見られたこ

 とへの照れ隠しであったが。

「いえいえ、最後までゴネてましたよ。まるで子供みたいに。でも、相手が市長ですから、

 他の人が行くわけにはいかなかったもんでしてね」

「市長と?なんでまた」

「シンジ君の扱いについて、ですよ。政府には話は通しましたが、市の方はまだだったのでね。

今のままだとシンジ君は足のある幽霊ですからね・・・・。さ、今から行くとちょうどいいくらいですな。

社長がお待ちかねですよ」

 

 

  4人は鹿嶋の運転する車で空港を離れる。30分ほど走ると、大きな湖を中心に広がる広大な

 街並みが見えてくる。

  新諏訪(すわ)特別市

 壊滅した第三東京市に代わる、彼らの新たな拠点であった。

 この街はかつてセカンドインパクト後、わずかな期間だが臨時政府が置かれ、第二東京に遷都した

のちも重要な都市であった。そのため都道府県と対等の自治権を持つ「特別市」という待遇を受けていた。

サードインパクト後は復興の拠点となり、再び急速に発展している町である。

 

 「そうそう、葛城社長からシンジ君の偽装パーソナルデータを預かってました」

 と言って、鹿嶋は一枚の封筒を差し出す。そこには一枚の紙が入っていた。アスカ同様、

 シンジも戸籍上は死んだことになっており、別人として生きなければならなかった。

 シンジはその書類に目でサッとなでると、おもむろに顔を上げる。

 「本当に通ったんですか?、この名前で?」

 と、信じられないと言った口調でシンジが言う。その書類の冒頭には、シンジがこれか

 ら名乗ることになる名前が書かれてあった。

 「伊雁 シンジ」と・・・・

 「そうよ。だからアタシも今は『惣龍アスカ』なんだから。はじめまして、伊雁シンジ君!」

 と、アスカがからかう。

 「そりゃあ、役人どもは渋りましたがね、冬月議長が首相にかけ合ってくれたんですよ」

 2人の様子をバックミラー越しに見ながら、鹿嶋が言う。

  冬月はサードインパクト後に行方不明になったゲンドウに代わってネルフをまとめる

 とともに、学術都市として第三東京を復興させるプロジェクトの議長も務め、多忙な日々を

送っている。

 

 

 

 

  シンジとアスカがなぜ「伊雁」と「惣龍」になったのか、それはサードインパクトの後、シンジ

が旅立つ直前にさかのぼる。

  サードインパクト後、ゼーレにそそのかされてネルフ抹殺をはかり、結果的にサードインパクトに

手を貸す形となった日本政府は、そのことを暴露されて内閣は失脚、政権が交代した。新たに成立した

大鷹(おおたか)内閣はサードインパクトからの復興と国家組織の再編にとりかかった。

国連およびネルフとの間には秘密協定が結ばれ、第三東京市の順次返還、ネルフの縮小、再編が決まった。

 その秘密協定のなかで、エヴァについての一切の技術及び記録の凍結封印、日本政府によるネルフ職員及び

チルドレンの身の安全の保障という項目があった。これに基づき、特にエヴァに近い存在であったチルドレンたち、

すでに登録抹消されていたトウジと行方不明のレイをのぞく、シンジとアスカは、一度戸籍を抹消されることになっ

た。彼らの危険を少しでも小さくするためである。

  しかし、シンジたちは過去を捨てて生きることを望まなかった。名前を変えて全くの別人として生きる

ことを、彼らは強く否定した。

 「名前が変わるのがイヤっていうわけじゃないわ。アタシは14年生きて・・・そのうちの半分以上はエヴァのため、

チルドレンとして生きてきたわ。これもエヴァがない今では何の値打ちもなくなってしまった。イヤなことも多かった。

ママのことも・・・・ 忘れたいことばかりよ。でも、過去を捨てて、自分から逃げて、幸せになれるなんて思えないか

ら。だからアタシは過去を捨てたくないの。惣琉=アスカ=ラングレーとして 生きてきたこれまでを・・・」

 「僕もアスカと同じ気持ちです。僕はまだ自分が許せない。でも、逃げたくありません。

 僕は、僕から逃げません。自分に向き合って、過去を乗り越えたいんです。それに、僕は ゼーレと戦い、

 そして自分が何と戦ってきたのかを知りたいんです。だから、僕は過去を捨てません」

 

  2人の話を聞いたミサトは驚いた。サードインパクトからの数ヶ月でこんなにも彼らが成長したのかと。

 だがその道のりが平坦では決してなかったことを、シンジの額に刻まれた傷が語っている。

 サードインパクト後入院中だったアスカがつけた傷だ。

 彼らが お互いの想いをうち明けあえたのはその事件から少し後のことだった。二人が傷つけあ

 うことが多かったのはお互いに相手に自分と同じものを見ていたのかも知れない。自分 と同じ、

 傷ついた心が見えたのかも知れない。だからこそ、お互いの思いをうち明けあうことで彼ら自身

 も強くなれたのだろう。

  ミサトは彼らの気持ちをくみ、リスクは承知の上で、冬月に依頼して政府の説得を行い、

 戸籍の書き換えは行うが、名前は漢字の変更だけということを認めさせたのだった。

 ただし、アスカは父方の姓である「ラングレー」をはずすことにした。アスカもこれには渋りながらも納得

 した。彼女の父に対する思いはいまだ複雑なものがあった。

 

 

 

  車はやがて市街地に入り、中心街の少しはずれにある12階建てビルの前で止まった。そのビルには

 3つのベンチャー企業が入っている。そのうちの一つが、元ネルフ作戦部長、葛城ミサトが興した会社である。

 その名は「ミサト・インターナショナル(略してMIN)」という。

 アスカは安直な名前だと文句を言っているが、幅広く事業を拡大し、ベンチャービジネス業界では

 類い希な成功を収め注目を浴びている。ネルフの後ろ盾があったとはいえ、世界レベルの能力を持つ

 元ネルフの社員たちのおかげであろう。

 「社長室は最上階です。社長のことですから、加持副社長たちをおどかそうと何かたくらんでるかも

  知れませんな」

 「どうせろくなことじゃないわよ。ホント、よくあれで社長がつとまってるわね」

 「元ネルフ作戦部長のお手並み拝見と言うことか・・・」

 と、加持。

 鹿嶋は意味ありげな微笑を浮かべるだけで何も言わない。

  シンジはただ嬉しかった。アスカがいて、加持がいて、そしてミサトとまた逢えることが。

  信頼し、愛する人たちがいることが。

  それはまさに家族との再会であった。彼のこれまでの人生でもっとも縁の薄かった言

 葉の一つ、「家族」。彼にとってはとまどいでもある存在。

  シンジは無意識のうちに先頭になって歩いていた。

 

 ガクン、と重い音を立ててエレベーターのドアが開く。他に乗客はいなかった。

 建築後間もないビルであることもあり、エレベーターの中は汚れ一つなく、こぎれいに

 保たれていた。まっ白い壁が清潔感を一層高める役割を果たしていた。

  音もなくエレベーターが動き出すと、独特の不快感が中にいる4人にのしかかる。も

 ちろん、こんなことは日常的なことであり、気にするものはいない。

  しかし、シンジにとっては、この病的なほど清潔に保たれたこの空間と独特の不快感が、

 ある場所を連想させた。

 

 (ネルフ・・・本部・・・)

 そう思った瞬間、彼は足下から何者かが自分の体をはい上がってくるような異様な感覚に襲われた。

 それはやがて、生暖かい無数の手に体中をつかまれている感覚に変わっていった。

 脳裏に映し出される無数のヴィジョン

 

 床を染める鮮血

 

 血の匂い

 

 赤い海

 

 寂しき人々の声

 

 彼に向けられた、愛する女の言葉

 

 「キモチワルイ」

 

 拒絶のメッセージ

 

 補完された人々の歓喜の声

 

 融けてゆく人々

 

 一つになってゆく、魂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 (クッッ・・・負けるわけには・・・いか・・ないん・・だ・・・)

 必死に脳裏から振り払おうとするシンジ。だが、幻影は彼をいたぶるかのように

 執拗にフラッシュバックを繰り返す。

 シンジはもはや耐えるだっけが精一杯だった。

 それでも、アスカに心配をかけまいと何もないふりをする。しかし、すでにその頬は良質の陶器の

 ように白くなり、額には無数の汗の玉が浮かんでいた。

 (こ、こんなことじゃ・・・・)

 なおも必死の抵抗を試みるシンジ。しかし、エレベーターを出たところで、シンジの体は彼の意志に背いた。

 彼の体は前に傾き、とっさに転倒はさけたものの、膝をついて倒れ込んでしまった。

 禍々しき巨大な手が、自分を飲み込もうとしている・・・そんな感覚にとらわれそうになったとき、

 雲を切り裂いて現れた太陽のように、シンジの頬にふれる暖かい感触があった。

 (アスカ!・・・そう、僕は・・・負けられないんだっ!!!!)

 アスカや加持が何か言ったが、シンジの耳には届いていなかった。

 

 ただアスカの手の温もりだけが、木漏れ日のように彼の全身を満たしていった。

 

 

                           <続く>

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 4月にプロローグを投稿して以来、続きが2ヶ月も投稿できなかった真の愚か者、MUKAです。

 第一話ですが、まだ物語が動いていないので事実上はプロローグの続きです。説明的な部分が多く、すごく

悩みましたが、やはりサードインパクトやその後についてのところをあいまいにしたままで話を進めるのは良く

ないと思い書きました。ヒキはちょっと重いですが次は軽くなります。ミサト社長の策略が明らかになります。

 なお、ミサトの会社は全くのフィクションであり、実在する団体とは一切関係はありません。

 どうかこれからもよろしくお願いします。見捨てないで〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!

                                                      MUKA

(第一話Bへ進む)

(プロローグへ戻る)



うひい、ラブラブじゃないですか〜。<(●> _ <●)てれてれ<ヲマエガテレルナ

というわけでMUKAさん、連載2発目ありがとうございますー。\( > 0 < )/来た来たー

おお、ついに隠れていた設定があきらかになってきましたねー。(@_@;)むむう
なるほど、2人の名字が変わったのにはそんなエピソードがあったんですねえ。
伊雁と惣龍の名字は二人の成長の証なんですね。( T - T )おぢさんは嬉しいよ

うーん、しかし『ミサト・インターナショナル』だなんてスゴイ名前だなあ。( ^_^;)まんまやん
酒とカレー売ってるんだろうか..。(笑)

二人を悩ます過去の記憶。手と手を取り合って乗り越えて欲しいですねえ。
アスカ様のトラウマは解消したのかな?そのへんも見所ですね。

さあ、次回ミサトはどんな登場をするんでしょうか?
さっそくMUKAさんに感想&応援を書いて続きを書いて貰おー。\( ^ 0 ^ )おー

MUKAさんへの感想はここです。

または簡単感想用掲示板へどうぞ。

感想用フォームです。2,3行の感想でも作者さんは嬉しかったりするのだ。

ここから是非感想を送るのだー。\(●> _ <●)おーっ

お名前:
E mail:

お題を選択

ご意見その他はここへ