LASだってば
アスカ大いに頑張る番外編
「Dr.○○○の島 1」
― アスカ出動 ―
「きゃーっ!マトリエルがでたあ!」
「何だ。ただのアシダカグモじゃないか。」
シンジが、指で軽くはじくと「マトリエル」は足を縮めて転がっていった。
「意外と、…なんだね。」
「に、人間誰にも苦手なものくらいあるわよ。」
ちょっと顔を赤くして強がるアスカ。
南海大決戦の後、二人は新東京市の郊外に引っ越してきた。
50坪ばかりの小さな家だが、広い10畳の部屋が南に並んで二つあり、部屋の外側に長い廊下、さらに外に濡れ縁がある。
ここで二人の最初の子供が遊ぶだろうという夢が2人は気に入っている。
新築でなく人の匂いがするのもよかった。
ただ、人口が減っている分 自然はずいぶん元気になっていて、こうした庭からの闖入者が、時々現れ、アスカに悲鳴を上げさせたりする事があるのだった。
ネクタイを外しながら、シンジは手紙を取り出した。
「本社宛てに来てたんだ。ちゃんと本名で書いてあるから、アスカ宛てだと思うよ。」
「え? 碇 飛鳥 様 だって…。友達はたいていアスカって書いてくるわよねえ。
あら、住所が書いてない。宛名も、ネルフインダストリーになってる。
これって分割前の社名よね。」
裏返してみても差出人の名前は、ない。
結婚に当たって日本に帰化した際の名前をきちんと書けるという事はよく知っている人
なのだろう。古風な封蝋が押してある。その紋章にもアスカは見覚えが無かった。
「開けても、いいわよね。シンジ。」
「いいんじゃないかなあ。」
無責任に答えるシンジ。このごろおじさんっぽいぞ。
アスカはお気に入りの金色のペーパーナイフを引き出しから取り出すと封を切った。
中から手紙を取り出すと読み始める。
「こ、これって…、シンジ、大変。この手紙。」
ただならぬ妻の様子に、シンジも着替えの手を止めた。
****************
「炭素同位元素測定の結果は、青、使徒ですね。」
マヤさんは、あまり似合わないめがねを直しながらシンジとアスカに言った。
「ええっ?!」
「し、使徒ってどういう事よ!」
「冗談です。」
がたがたっとずっこける二人。
「マヤ!あんたいいかげんにしなさいよ。これで流産でもしたら、あんたのせいだからね!」
「ふーんだ。一人だけ幸せになっていいですわね…だ。」
4ヶ月に入って安定し、なんとなくふんわりしたぽかぽか幸せ気分を振りまいているアスカ。たまに旧職場に出てきてもなかなかの人気である。
昔、エヴァに乗って戦っていたときは、あまり話し掛ける人もいなかった事を考えると
やっぱり私、雰囲気変わったのかな、と思うアスカだった。
「さて、シンジ君とアスカ、300年くらい前の羊皮紙とインクよ。間違いなく。」
「それって昔から…きた、手紙って事?あわあわ…」
そっちの話がアスカはぜんぜんだめである。
真っ青になって、もう頭の回転はストップだ。ふらふらとシンジの腕の中に倒れるアスカ。
「マヤさん、切手、切手の方は?」
「それがそっちの方は2014年発行のヨーロッパ連合の普通の切手なんだけど・・」
「おかしいじゃないですか。」
「そうなのよねえ。まるで古い手紙にわざわざ新しい切手を貼って出したみたいよ。
インクの酸化の具合から見て古いインクで古い紙に書いたというだけではないわね。
間違いなく当時に当時のインクで書かれたものだわ。」
「300年前に書かれた、ネルフのアスカ宛てに書かれた手紙という事?
ちょっち信じられない話よねえ。
切手に付いてた唾液は調べてみた?まさか幽霊のDNAが…」
こっちの方の話が大好きなミサトがアスカとシンジの付き添いみたいなふりをして話に
加わっていた。身を乗り出すように尋ねる。
「残念でした…これは、多分ヤギかなんかですね。」
「よりによってやぎい?よく、手紙が食べられなかった事ね。」
これ以上かまっていても大して面白い事も無いなと思ったらしくミサトは部屋を出ていった。
「…くろやぎさんから、お手紙着いた…♪」
何と言っても手紙の内容が問題であった。ネルフインダストリー分割の頃から、
忽然といなくなった重要人物が突然手紙をよこしてきたのだ。しかも300年前から。
これを大事件と言わずしてなんと言おう。
ただの猟奇事件だ、という意見もあったが。
碇 飛鳥 様
長い事御無沙汰していますが、あなたの事ですから元気でしょう。
碇君に迷惑かけていませんか。
ところでわたしは、ちょっとした理由から事件に巻き込まれて
地中海の孤島に閉じ込められています。
ここは、多分、アドリア海のどこかだと思います。
助けが欲しいのです。
とんでもない化け物がいてどう仕様もありません。
いざというときの備えを忘れずに、来て下さい。
・ 綾波 レイ
「何なのよ、この文章はいったい!
あたまっから碇君に迷惑かけてませんか!ですってえ。」
ムキーッと声を立てそうなほどアスカは怒っていた。
「ア、アスカ、落ち着いて。ね。」
いつもシンジはなだめ役。これは結婚してからぜんぜん変わっていない。
「だいたい、レイがいなくなってからもう7年は立つのよ。
その間ずっと閉じ込められてたわけ?
そのあいだどうしてたのよ。とんでもない化け物って何よ!」
「とにかく、ずっと行方不明だったレイから連絡が来たんだ。
何があったのか分からないけれど、迎えにいかなきゃならないと思うよ。」
「わたしもいく。」
「え?」
「わたしも行くっていったのよ。」
「で、でもアスカは妊娠4ヶ月だし、飛行機は胎児によくないし。」
とんでもない事を言い出した奥さんにおろおろするシンジ。
もうこうなったら何を言っても無駄という事も分かってはいるんだけど。
「行くったら行くのっ! 飛行機は与圧いっぱいかけていけば大丈夫よ。
どうせネルフ・エアでしょ、わがままきくもん。」
アスカはとにかく何がなんでもレイとシンジを二人っきりなんかにさせておくつもりは
なかった。
もし、なんかあったら。赤ん坊がもう一人なんて事になったら。ぷるぷるぷる…。
何といっても、一つになりたいのレイである。
彼女の心のうちを一番知っているアスカとしては絶対に引くわけに行かない局面で
あった。
手紙のルートを手繰って手繰っていくと、投函地は多島海のひとつ、マルサカル島で
あった。
すぐに飛行艇を用意して近くのアルバニア支社チナラの飛行場からそこを目指して
飛び立ったのだった。
つい最近子会社のEVAエアライン(実在します)から転籍になったという中年の
パイロットが説明してくれる。この辺りで生まれそだった地元っ子であるという。
「あの目の下にある島ですがねえ…。」
「思ってたより大きな島ね。」
アスカが珍しそうに眺めながら言う。
「1950年代までは人が住んでたそうですがね。」
「なぜいなくなったのでしょうか?」
「それが馬鹿な話でして。怪物が出るという噂が立ちましてね。」
「怪物?」
「何でも巨大なアシダカグモみたいなものらしいですぜ。」
「あしだかぐも?」
「家でも人でも車でも、なんでもよだれをぶっ掛けて溶かしちまうっていう話でさあ。」
シンジとアスカは顔を見合わせた。
それって……、知ってるよね?!
「でも、へんじゃない?無人島からどうやって手紙が届くのよ。」
「あ、そういえばそうだね。何か聞いておられますか?」
「あの本社宛ての手紙ですか。じつは、あの島でたったひとつ外界と接触のある場所があるんです。そこにご案内します。」
飛行艇は水面目指して舞い下りていった。
そこは古い灯台であった。
「灯台に何があるのよ。」
「まあ、この辺の灯台も、今はほとんどが太陽光発電の無人灯台なんです。ここもそうですが、昔は近郷一番の灯台でした。家族で住み込んでいる灯台守がいて、村の集会やなんかはここの広場で開かれたし、月曜ごとの市場には島々から人が集まって結構にぎわっていたんでさ。」
そういわれてみてみると、煉瓦造りに真っ白な漆喰が丁寧に塗られた由緒ありげな
灯台である。
「年に一度だけ、発電システムの検査に人がここを訪れます。ついでにこの灯台を守る運輸関係のお役人と、文化財保護のお役人もやってくる。
その時、この灯台のぶっ壊れた通信室のテーブルの上と、この島の集めていないポストの中に手紙が発見されたんだそうですがね。」
「え、じゃあ、2通ある訳ですか?」
「うちにきたのは一通だけだったわよねえ。」
しかし、なぜ一通しか配達されなかったのかについては彼はまったく知らなかったので、説明のしようもなかった。
「それでは、そのポストというのは、どこにあるんですか?」
「この灯台から、真っ直ぐ港に降りて行く道がありやす。
それを道なりにたどっていけば昔の船着き場。その桟橋のたもとに建っているんでさ。」
三人は、パイロットのいう道を探し出した。草がぼうぼうと茂り、もはや道であった場所に過ぎないが、擦り減った石畳が道であった事を示している。
「いたっ!!」
アスカが悲鳴を上げて転んだ。ロウヒールが石畳の角で斜めになってあしをぐねったのだ。
かなりひどくやってしまったようだ。シンジがそっと靴を脱がせようとする。
「痛い〜、いたたっ、お腹が…・。あん!足も痛いのよっ!乱暴にしないでよう!」
「こまったなあ。よりによってこんな場所で。」
アスカは立てそうもない。幸いお腹の痛みはすぐにおさまった。
しかし、負ぶうのは簡単だが、お腹が気になる。
パイロットが村跡まで下りて手押し車を持ってくると言い出した。
前に来た時、だいぶ農機具が残っていたと言う。
「それしか方法がないか…。」
シンジとアスカは、道を下って行くパイロットを見送った。
青い空、白い雲、うすみどりの草原が続く、丘の中腹。アドリア海独特の悲しいほどに
透明感のある美しい藍青色の海が視野いっぱいに広がっている。
「ひばりか…それとも…。」
高い空で、盛んにテリトリーを主張して鳴きつづける小鳥が一羽。
二人は、只黙って待ち続けていた。
うらうらと照る、陽射し。
「のどかねえ…。」
アスカがつぶやく。
「このまま、この青の中に溶けていってしまいそう…。」
その時、聞きなれた駆動音がそんな平和な世界に侵入してきた。
・ 〜つづく〜
「アスカ大いに頑張る」シリーズは、三部作としてPalette〜くむくむの部屋〜にて連載させて頂いた、私にとっては記念すべき初作品です。くむくむさんお部屋のアドレスはここ。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/8475/
賢くて美しい妻、アスカが、気弱でいまひとつぱっとしない夫、シンジを助けて大活躍、というのがこのお話。ドラえぽんさんところに置かせて頂いている「桜が一番好き!」の、原型になったお話なんです。 今回再びアスカ様に登場して戴きました。このお話ではシンジはネルフ産業という会社に勤務しているサラリーマン。アスカさんは専業主婦です。
うおお、アスカさんがやって来たぞー!\( > 0 < )/うひょー というわけで、こめどころさん投稿ありがとうございますー。\(
^ _ ^ ) おお、なんと300年前からの霊、もといレイからの手紙。う〜ん、何かありそうでコワイっすねー。(笑) それにしても、やっぱりこめさんの書く2人は良いッスねえ。 さて、謎の怪物の正体やいかに?そして身重のアスカ様の運命はやいかに。 さあ、早速こめどころさんに感想を出して続きを書いて貰おー。\( > 0 < )みてー |
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