「気をつけて。」

「気をつけてね。」

 

言葉を交わし合うアスカ、シンジ。

同僚の刑事達とともに十数人ずつ、ティニーランドの地下道に向かって前進を開始。

 

 

拳銃の他に、今日は短機関銃やライフル、工作用の武器を持っている隊員もみられます。

その他に各自の持つナビゲーターシステム。これがないと地下の迷路の行動ができません。

耳につけた、超小型受令機。アスカのものはイアリング型です。

 

「第3班!アスカさん!メリーゴーランド脇の赤いきのこから地下に侵入して下さい。」

 

オペレーターの声が緊張のあまり震えています。

 

「了解。」

 

行動を共にしていた十数人の集団が3人単位で散開します。機動隊は数百メートル先で戦闘中。

ガスがうっすらと漂い、視界は良くありません。

アスカ、シンジ、ニームカの3人はメリーゴーランドの脇から地下に降りていきました。

 

 

 

 

 

LASだってば

桜が一番好き !!

 

―わすれない いつまでも―

 

 

 

 

 

 

 

「どうでもいいけど…。このサポートスーツって嫌いよ。すーすーして。」

「胸、ぺちゃんこになるしね。」

「だからあだながプラグスーツなんじゃない?」

「あ、なーるほど。凸凹なくなるから。」

 

馬鹿な会話を小声で交しながらも、先頭に立つニームカ。

 

「ニームカさん。僕が先頭に立ちますよ。」

「おやあ、さすがにアスカの旦那は紳士ねえ。長生きできないよ。」

「でも…。」

「まあ、今回は経験がものいうからね。後ろにいなよ。」

 

短機関銃をかまえて慎重に進みます。

人気がありません。nn

地表の戦闘に出払っているのでしょうか。正面の明かりの下にドアがあります。

 

「正面にドア。進出する。」

「了解。」

 

作戦室に連絡を欠かさず入れます。そっとあけると、部屋の中は着ぐるみだらけです。

 

「いやだねえ。こういうとこに隠れられたら後ろから撃たれることになる。」

「圧縮弾を撃ち込んどきましょう。」

「そうだね。」

 

いったんドアを閉め、手榴弾のようなものを部屋に放り込むと、ドアをすぐ閉め、耳を

ふさぎます。

 

ぼむ!バアアン!!

 

激しくドアが壁に叩きつけられるように開きます。

非常に高圧な空気圧を一時にかけて、室内の敵を戦闘不能状態にするのです。

室内には誰もいなかったようですがドアの向こうで激しく開いたドアに叩き付けられ、

伸びている馬鹿が一人。

 

「悪の組織でもこういう奴は出世は望めないね。」

 

わかりやすい位置に運び、24時間麻痺剤を顔に吹き付け、上に連絡を入れ、

先に進みます。

 

 

広域特捜警察は、機動隊員とは、また違う特殊な服装に身を包んでいます。

今夜のような戦闘が考えられる際に身につける、全身をすっぽり包むサポートタイプの防弾、

対ショック耐熱防護スーツ。正面防御力強化の為、胸から下腹部にかけてややや厚めにできています。

これを、頭部保護の為、一昔前のライダーがつけたような薄い保護ギアにしてつけています。

高張力特殊鋼とケプラー繊維をよりあわせた特殊繊維でつくられた上着やズボン。これは、

日常の勤務時にもつけているもので、特注で個人個人が装備科に依頼してつくります。

このため、色、柄、デザインなどの自由度は高く、通常の服装とほとんどかわりありません。

 

 

「このさきに怪しい所が一個所あるのよ。通路が3方向に出ていて、通路幅が広い。

両側に小部屋が並んである。ここで 1、2、4班と合流することになるんだけど。」

「ニームカ、さっきから無線が通じないみたいよ。」

「ま、計算のうちよ。向こうにして見りゃ当然の…。」

 

その時、前方から爆発音と機関銃の音が。

 

「しまった。もうはじまってる!」

 

アスカが全速で走り出します。その後を追うシンジ、ニームカ。

角を曲がったとたんに一連射を受けるアスカ。

 

Papapapapa!

ぴゅんっと頬を弾がかすめます。

 

「あっ!」

「アスカッ!」

「ひゅう、びっくり。」

「冗談じゃない、気をつけなきゃだめじゃないか。」

「ごめん、シンジ。でも3人いたのが見えた。封鎖されてるよ。」

 

抜群の動体視力を持つアスカでなければできない強行偵察ですがシンジは気が気ではありません。

無理ばっかりして…。

天井を見回すとエアダスターが走っています。

アスカをじっと見るシンジとニームカ。

 

「ええ〜。古い手だよお。いやだなあ。」

 

ぶつぶついうアスカ。

 

「こういう時、ちびは損よねえ。」

「ま、映画なんかで散々やってるから、意外と盲点なのよね。ほんとにやると思ってないから。」

 

ニームカが笑って言います。 ごそごそごそ。潜り込んでいくアスカ。

 

(あれあれ、ほんとにうまくうしろに出たわ。) シンジ、行くわよ。5.4.」

「3.2.1.全員動くな!」

 

シンジは、いいざま床にむけて短機銃を乱射。向こうも撃ち返してきますが

 

Papapapapapapapapapa…・・!!

Tatatatatatatata…・・!!

 

バン、ババン、バン!!

 

天井から逆さまにぶら下がったアスカが見事に三人の肩を打ちぬいています。

シンジとニームカが飛び込んで三人に銃を突き付けます。

24時間麻痺剤を顔に吹き付けます。たちまち崩れ落ちる三人。

この麻痺剤は経皮、経呼気的に吸収されます。効いた振りは、不可能。

 

「面白い薬よねえ。」

「手錠の分、動きが軽くなるしね。」

 

先ではまだ戦闘が続いているようです。三人はまた走り出しました。

 

ずどどどどど…・

 

「ありゃあ、かなり大型の機銃の音だねえ。」

「苦戦中、ということですか。」

「そうね、急がないと。あっ、まって!!」

 

止まる三人。

 

「どうした、アスカ。」

「ここ。地図に無い道じゃない?」

 

ナビゲーターと照合。確かに無いはずの通路です。

 

「やけに頑丈なつくりよね、ここだけ。」

「行こう。」

「上との連絡は…。」

「ここは、シンジと私で行く。ニームカ、戻って上に連絡を入れて。

走って戻れば8分で地表に出るわ。」

「アスカ、スタンドプレーはやめな。3人チームでで行動するのが命令でしょ。」

「勘だけど、ここは重要だと思う。連絡は絶対必要。だけど先行も必要なのよ。」

「シンジに行かせればいい。」

「シンジには、まだ一人行動は危険過ぎる! …あ、ごめん、シンジ。」

「いや、ぼくはまだ…、足引っ張ってるとおもうから…。」

 

ニームカが、バン!と背中を叩きます。

 

「わかった、私が連絡入れてくる。

シンジ!気にしなさんな、アスカはね、あんたと居たいだけなんだから。」

 

 

 

 

 

周囲の壁がすべて鋼材でできています。あきらかに他の通路とは違っています。

アスカは、身体が総毛立つのを感じています。殺気とでもいうのでしょうか。

冷え冷えとした空気の中を、ずいぶん長く階段を降りました。すでに海面下でしょう。

 

「(おかしい…。もう相手だって気づいているはずなのに。)」

「アスカ、シャッターが3枚目だ。ここから先は進むのはまずいんじゃないか?」

 

シンジがうしろから声をかけます。シャッター一枚の破壊所用時間は12分くらいです

から、救援到着まで30分台を越える先行は危険という判断です。

アスカが時計を見るとニームカと分かれてから7分が経過しています。

その時、ずっとうしろで ズン…と鈍い振動と音が感じられました。

 

「…シャッターを、閉じられた!」

「とにかく戻ろう、アスカ!」

 

「それは無理だな。三枚ではない。6層の特殊鋼板が間を隔てている。」

 

頭の上から声が降ってきます。

 

「碇アスカ、いや惣流アスカ。親子ともども痛い目に合わせてもらって感謝してるよ。」

「あんた…、スミスクラインね!」

「ほう…やはり気づいていたか。」

「忘れる訳無いでしょう!!父と母と、弟を殺した奴の名前を!!」

「それは、いいがかりだ。私が直接手を下したのは君自身にだけさ。」

「あのとき、アスカを刺したのはおまえか!」

「初対面で、おまえ呼ばわりとは礼儀知らずだな。いや、二度目か。碇シンジ君。」

 

なるべく時間を稼ぎたいアスカとシンジ。

足止めさえすれば…。

 

「時間の無駄だ。機動隊が迫っているのでね。私たちはそこを通って下に行きたいのだよ。」

 

側面のシャッターが次々と開き、ティニーランドのお友達たちが銃を構えてあらわれます。

 

「ち、ちょっと。アリスやティンカーベルに機関銃もたせないでよ。」

「表情が読めないのって、不気味だなっと!!」

 

シンジが発光弾を投げつけます。激しい光に暗がりになれた敵はうずくまります。

おそらくモニターも焼き付いて機能不能になっているはずです。

アスカとシンジは飛ぶように階段下に向かって対人炸裂弾をばらまきながら駆け下りていきます。

もしこの階段しか本当に通路が無いなら敵は地表に出て回り込むしかないでしょう。

階段の終わりです。大きなハッチがあります。

其処を開けると目の前には巨大な潜水艦が停泊しています。一隻、二隻、…五隻。

 

「あきれたものね…。いきなり夜間戦闘ヘリを投入してくるくらいだから、こんな事もあるかと思ってはいたけど…。」

「アスカ!無線が通るよ!もしもし、こちら碇。」

「シンジくん!どこにいるの?」

「ミサトさん。いま、先ほどの通路の最下部です。大型の潜水艦が五隻停泊してます。」

「ご、五隻?!敵は?」

「ミサトッ!すぐに第4管区海保に警備艇を全部まわすように言って!それから、NAVYが必要よ!

対潜哨戒機、爆雷攻撃可能な艦船を!」

 

無線が切れます。この停泊地も無線妨害のコントロールが入ったのでしょう。

 

ドドドドドドドッ!バシバシバシバシバシ!!

 

潜水艦の機銃座から、ドナルドグースが撃ってきます。

 

「ガチョウの水兵さんね、なるほど。どこまで真剣なのやら…。」

 

ドアの中に飛び込んで軽口を叩くアスカ。岩陰からシンジが撃ち返しています。

当たっているのですが防弾構造になっているらしく倒れません。

アスカはCz75の狙いを定めると脚の付け根を狙って一発。もんどりうって倒れる

ドナルド。

 

「足や手の付け根は防弾できないからね。私たちみたいにプラグスーツをつけないと。」

「サポートガードスーツでしょう。」

「ぺちゃになるの、いやっ。」

「大丈夫だよ、アスカは十分、あの、あの。(ぽっ)。」

「えへへ。うふふふふ。よーーし!!」

 

なにがよーしなんでしょうか。

ともあれガードスーツの強度を最強にセットして戦いに備えます。

 

その時上からどん!!どん!!と、炸裂弾の爆発音が続けざまに響きます。

そして、流れてくる火の川。

 

「ガソリンッ!!」

 

ドアから港側へ出ようとすると、今度こそ、射撃できる2隻から20mm機銃の雨が降り注ぎます。

立ち込める真っ黒な煙。

 

「げほ、げほっ。」

「アスカ、しっかりして。」

「ごめんね、シンジ。こんなとこまで連れてきちゃって。」

「あきらめるなよ!まだ手があるかもしれない。」

 

シンジは階段に向かって手榴弾をなげます。そしてアスカを抱きかかえて後ろを向きます。

 

バアアン、ズシン!!

 

階段の一部に小さな穴が空き、其処にガソリンが溜まっていきます。激しい炎が上がりガソリンは逆に

上に向かって炎を進め始めます。煙も上に向かいます。ドアから新鮮な空気が入り、二人は一息つきます。

しかし、次の瞬間、ドラム缶が転がり落ちてくる音が。

 

「くそっ、ここまでか。」

 

撃ちまくる機銃の音が外から聞こえます。そのとたんドアが引っ張られました。

 

「はやくっ!!外に出ろっ!!」

 

転がり出る二人。ドカアアアンン!! 激しい爆発と炎がたった今まで居た所から

噴き出しています。

 

「こっちだっ!!」

 

二人を助けた人は軽機関銃を撃ちまくって潜水艦の兵士を制圧しています。

10mの距離を走り、次のドアに飛び込む三人。

 

「碇シンジ警部補、まだまだだな。」

「えっ…。」

 

その人物が顔を覆うケプラー繊維の面布を引き降ろすと、髭が現れました。

 

「いっ、碇警視総監殿!!」

 

二人は飛び上がって敬礼をしかけます。

 

「こんなところで敬礼はせんでもいい。」

「は、はい。」

「今、地表はシンデリラ城の攻防の真っ最中だ。

ブック船長が奮戦している。まだ10時間以上は落ちまい。

その間に幹部はずらがるという訳だ。」

「そうですか…。」

 

ゲンドウは外の様子をうかがいながら続けます。

 

「この国は海の守りがザルだからな。しかしここの潜水艦は3隻まではもう動かん。

タービンに山ほど爆弾を仕掛けたからな。残りは後2隻。狙うのはその中の、」

「スミスクラインと、クロイツフェルト…・! そして、ティッシェバイン!」

 

アスカが押し殺した、しかし激しい声で叫びます。

 

「クロイツフェルトは先ほど逮捕されたよ。スミスクラインがどさくさに紛れて消そうとしたらしいな。

No2はこちらの手の内というわけだ。」

「スミスクラインとは先ほど接触しました。あの通路から逃げたいと言っていました。」

「そうか。まだここにいるのは確かだろう。」

「あの男は、わたしに借りを返したいはずです。私がモニターに写れば出てくる可能性があります。」

「アスカ!危険過ぎる。」

「いや、今はそれしかない。やってくれるか、アスカ。 …い、いや。 碇アスカ警部。」

 

にっこり笑ったアスカは、外に走り出ます。あっというまに潜水艦の甲板に飛び移ると機銃を握り、

艦橋を撃ちまくります。たちまち穴だらけになる艦橋。

「ばかねえ。対艦用の焼洟鉄鋼弾入れっぱなしじゃないの。大穴を開けてやるわ!」

艦橋が火を噴きます。中央のハッチが開くと数人が飛び出してきます。

それはたちまちアスカと碇総監の餌食です。コロコロと転がって海へドボンドボンと落ちていきます。

 

「碇警部補。」

「はい。」

「強い嫁だな。」

「は、はあ。」

「孫の顔が見たかったな。」

「は?」

 

バン!バン! 言いざま碇総監は一連射したので、シンジ君には聞こえませんでした。

 

ドドーン。グワアアンン!!

 

先頭の艦が艦砲を撃ち出しました。アスカはとっさに飛び降りてきます。

艦橋から、ハッチからハンカチを振って水兵がぞろぞろと脱出してきます。

 

「なにをしている!敵は老いぼれと餓鬼が二人だけだぞ!けりをつけろ!!」

 

大声が響きます。投降兵に機銃を撃ち込みます。23人が血溜りの中に倒れます。

 

「スミスクライン!」

 

アスカの顔が殺気立ちます。

 

「ラングレーの娘、まだ生きていたか。こうだっ!!」

 

スミスクラインがいきなり短機銃UGIを撃ちまくります。

 

バババババババーッ!!

 

側転からひねり宙返りをしながら撃ちかえすアスカ。

 

Panpapapapapan!!!

 

マグナム15連発オートのCz‐75がスミスクラインの肩を打ちぬきます。

 

「ぐわっ。ちくしょう…。」

 

もう一度アスカに狙いを定めようとするスミスクラインをシンジが撃ちます。

UGIに当たってはじきとばします。さらに総監の軍用小銃がスミスクラインの

胸に狙いを定めています。

 

 

「其処までにしてもらおうか。スミスクラインを殺らせる訳にはいかんのでね。」

 

うしろの階段から降りてきた一群が、シンジ達に銃口を向けています。

 

「ティッシェバイン!」

 

「遅くなって正解だったようだな。君らにはここで死んでもらうよ。

スミスクライン。早く一号艦以下の出航準備をさせろ。」

 

ウエンディーや、マウス達が、短機銃をかまえなおします。

スミスクラインは舌打ちをしながら潜水艦に乗り込みます。歯ぎしりをしてくやしそうに見送るアスカ。

シンジがティッシェバインとアスカの間に立ちふさがります。

 

「シンジッ!」

 

シンジが一瞬視界を遮ると、地面に転がりながらアスカは ティッシェバインの両膝を打ち抜きます。

倒れかけるティッシェバインですが、ぐっと耐えます。

 

「残念ながら俺の本物の足はそこの碇の女房が天国に持っていっちまったぜ。」

 

ドキュン!

 

「あっ!」

 

アスカが肩を抑えてうずくまります。

 

「アスカッ!」

 

「おっと旦那さん、動くんじゃんない。」

 

大型拳銃の弾丸を至近距離で撃たれては、いくら高性能のガードスーツを着込んで

いてもバットで殴りつけられるような衝撃をうけます。

肩の関節が脱臼したようです。もしかしたら砕けたかもしれません。

じりじりと銃とアスカの間に、にじり入ろうとするシンジ。

 

ドキュン!ドキュン!

 

「ぐっ、うっ。」

「あ、あっ、シンジィ!」

 

胸と腹に2発。アスカが悲痛な声を上げます。

 

「かっ、はああっ…。」

 

息が詰まり、激痛が身体中を走ります。その場で倒れるシンジ。立とうとしますが力が入りません。

 

「さて、碇。おまえの子飼いの部下連中はすでに全部片づけさせてもらったよ。

我々の船の周りでちょろちょろしてた奴等だ…。」

 

睨み合う碇ゲンドウ総監と、。マフィアのアジア統括者と思われる大物ティッシェバイン。

 

「おまえとも長い付き合いだったが、今度こそおさらばだ。

おとなしく女房の所へ行くんだな。まあ、息子夫婦も一緒だ。楽しくやってくれ。」

「何のことだ…ティッシェバイン。耄碌したか…。」

「おやおや、この期に及んで、捨てた息子が怖いというんじゃないだろうな。」

「ふん。この至近距離だ。じたばたは、しない。」

「流石はゲンドウだ。3人とも顔を狙って一発で殺してやるさ。構えろ!!」

 

その時です、地下の港湾全体が眩しい輝きに包まれました。目も眩むほどの光量です。

その光は壁といわず地面といわずありとあらゆるところから湧き出てくるのでした。

100個の太陽が目の前に現れたような輝き。

機銃が乱射されます。が、この中で当たるものではありません。アスカとやっとの思いで

立ち上がったシンジはゲンドウに海へ突き飛ばされました。

「アスカッ、シンジを頼む!」

その声がアスカの耳にかすかに届きました。

つぎの瞬間、碇ゲンドウ総監はティッシェバインにしがみついていました。

「離せっ、ゲンドウッ!」

にやりと笑ってこたえないゲンドウ。引き抜いたピンをティッシェバインに見せます。

恐怖に歪むティッシェバインの顔。ゲンドウの腹に大型手榴弾が3本。

 

キュイッ!ドドドーーーン!!

 

光がふっと消えます。

水面に顔を上げるシンジとアスカ。

「お父…さま。」

つぶやくアスカ。黙ったまま、ぼうぜんと煙を見上げるシンジ。

二人は激痛の為うまく泳ぎつづけることができません。

 

「力を、抜いて…。私が、引っ張ってあげるから…。」

 

後ろから、シンジの首に手を回し、顔を支えて泳ぎ出した人が。

 

「アスカさん、傷めてない手でシンジの肩につかまって…。浮いてれば、いい。」

「綾波…さん。綾波さんよね。…どうしてここに。それにその髪の色は…。」

 

髪は淡い水色、目の色は深い紅色です。白いガードスーツを着ています。

真っ暗な海面上で、綾波の白いガードスーツが浮き上がって見えます。

 

潜水艦が次々とエンジンを始動させ始めました。岸壁によじ登ります。

 

「渦に巻き込まれなくて良かった。」

 

腰につけた救命セットから、コニージェクターを取り出して鎮痛剤をシンジの腕に打つ

アスカ。自分の肩の打撲にも直接打ち込みます。激痛に手が震えます。

 

プシュッ。

 

「まって、アスカさんあなたはそれじゃだめ。肩の関節が割れているわ。」

 

綾波はそういうとアスカの肩に手を当てます。ぼおっと光る綾波の手のひら。

一瞬、鋭い痛が走り、アスカはうめき声を上げます。

 

「大丈夫すぐに…。」

 

すうっと痛みが消え、肩が自由に動かせます。骨を痛めた時特有の全身の寒気や震えが止まります。

周りを警戒するシンジ。ゲンドウとティッシェバインのいた辺りに駆け寄ります。

しかし其処には重傷を負ってうめいているマフィア側の人間が倒れているばかりです。

「シンジ!あそこに!」

56m先にぼろ布のようになったゲンドウが倒れています。

「総監!」

駆け寄ったシンジが抱き起こすとまだ意識があります。しかし左腕は吹き飛ばされ、

腹部には重傷を負っています。到底助かるとは思えません。

「シンジ…か。すまなかったな。」

「本当に、あなたが、わたしの父なのですか。」

肯くゲンドウ。声が出ないシンジ。

「…お父様。」

「父と呼んでくれるのか。アスカさん、ありがとう。

勝手ばかりしていたにしては、いい死に方だ…。冬月の奴がうらやましがる…。」

 

大量の血を吐き出すゲンドウ。

綾波さんが近づいてゲンドウの手を取ります。

 

「あなた…。わたしがわかりますか?」

「ユ…ユイ。ユイなのか……なぜ…。」

 

綾波さんの身体が再び輝き始めます。温かい光。

先ほどの刺すような光と違い何もかも包み込んでしまうような輝きです。

 

「お迎えにきたんですよ、あなた一人ではまた道に迷いそうだったから。」

「そうか…。済まんな。」

「不器用な方…。わたしが殺されたあの時、自分が戦う人間になったらシンジが

余りにも不憫と思い、死んだ事にして安全な遠い親戚にシンジを預けたあの日。

あの時からのあなたの苦しみ…すべてみていたのですよ。」

 

綾波さんはゲンドウにくちづけをすると優しく両手で顔をつつみます。

 

「ユイ。自分の憎しみの為に息子を捨てた俺をまだ…。」

「いいのよ。憎しみが無くなれば私たちはまた一つになれるのだから。」

 

ゲンドウは、妻をまぶしそうに見上げます。

 

「ながいこと…待たせてしまったな…。」

「いいんですよ。そのおかげで大きくなった息子とお嫁さん。

3人でしばらく暮らすことができたんですから。」

 

にっこりと微笑む綾波さん。シンジの顔を両手で包みこむと頬刷りをします。

 

「シンジ。大きくなって…。お父さんを許してあげてね。」

「お母さん…。」

 

次にアスカに向かって同じように頬刷りをします。光が強くなり下半身がその輝きの

空間に溶け込んでいきます。

 

「あなたのおかげ…あなたのおかげで息子は人として立ち直ることができたの。

ありがとうアスカさん。……いつまでも感謝していますよ。」

「お母様だったんですね…。見守って下さっていたのですね。」

 

さらに強い輝きが綾波の体を包みすっかり空間に溶け込むと、不思議な声が聞こえてきます。

 

「…アスカさん。私だけじゃないのよ…ここにいるのは私だけじゃないの…。」

 

光の中にぼんやりと人影が浮かびます。

 

…マツカ、マツカ…、私の為に泣いてくれたマツカ…わたし…幸せに暮らして…

…いるからね…

 

「フラワー!フラワーなの!?

 

…お姉ちゃん、僕だよ。わかる?弟のトラスだよ…結婚おめでとうね…。

 

「トラス?あの小さなトラス?もっと顔を見せて!」

 

…アスカ、わたしよ…お母さんよ…お父様も一緒よ……

 

「ママ!ママなの!? パパもいるの?かおを…顔を見せてみんな!…」

 

光がさらに暖かさを増すと、その中に女性の姿があります。

 

「ママっ!」

 

駆け寄ってしがみつくアスカ。止めど無く涙がアスカの頬を伝わっています。

次々と皆が実体化していきます。

 

「わたし、わたし…約束守ったよ。みんなに生かしてもらった命を大切に使うように…

…この世の中を愛するように…一番大切なものを見つけるように…。」

 

「わかっているわ。いつでも見ていたもの。

どんな時でもあなたが全てのものを愛するように努力していたことを…見ていましたよ…

…憎しみで自分の心を汚さないように頑張っていたことを…。」

 

アスカの母がシンジを手招きします。シンジが近づくとアスカの手を取りシンジの手に重ねます。

その上に、みんなの手が次々と重なっていきます。

肩におかれたほっそりとした手。振り返ると綾波が微笑んでいます。

反対側には照れくさそうな顔をしたゲンドウもいます。

 

「…母さん。ありがとう…。そして、父さん。

ぼくとアスカを守ってくれてありがとうございました。」

「…いや、俺は勝手な男だから…後のことは、冬月にきいてくれ…。」

 

ゲンドウは綾波の肩を抱いて光の中に溶け込んでいきます。

アスカの母も、父も、弟も、フラワーも。

 

「待って、みんな待って。」

 

つぶやくアスカ。その肩をシンジがしっかりと抱き寄せます。

 

「シンジ…。」

 

…アスカ…幸せにおなり…シンジ…さようなら…おねえちゃん…マツカ…さようなら…

 

 

 

「シンジ君、シンジ君、しっかりして!」

「アスカ! アスカ! 目を覚ましてちょうだい!」

 

はっと気がつくと目の前に泣き顔のミサトさんがいました。

加持警視長も一緒です。

 

「ミサトさん、加持さん…あ、アスカはっ!!」

「君の腕の中だ。よく守り切ったな。」

 

アスカはシンジの腕の中で気を失っているようです。

 

大部隊が停泊中の潜水艦を制圧しています。黒煙を吐いている三隻の船。

艦橋に大穴を開けられ航行不能の一隻。

 

「ティッシェバインは!スミスクラインの乗った船は!碇総監は!?」

「ティッシェバインと碇総監は、遺体で回収したよ。」

「スミスクラインの船は逃げたけど、対潜護衛艦3隻の追尾を受けているわ。

UN軍も出張っているし、撃沈は時間の問題ね。」

「…そう、ですか。」

「3人でよくもまあこれだけの敵を殲滅したな。碇総監も本望だろう。」

「父の、遺体はどこに…。」

「最期に、話されたのか。」

 

肯くシンジ。肩に手を置く加持。ピクリ、とアスカが目を覚まします。

 

「シンジ…泣いているの。」

「……。」

 

アスカは身体を起こし、黙ってシンジを抱きしめました。

自分の瞳からも涙が流れ出ているのに気がつきます。

 

「忘れないよ…父さん、母さん。」

「わたしも…忘れない。いつまでも…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティニーランドの攻防からまた何箇月かが過ぎました。

目の回るような忙しさで二人は家に帰ることもできず、寮で生活していました。

碇警視総監の後任には加持さんが就任しました。

冬月さんは引退。若者の時代に老骨は不要、とおっしゃられて。

 

「そうか、ユイさんと行ったのか…。」

「はい、父も母も幸せそうでした。」

「君のご両親は、君らと同じように夫婦で刑事をしていたのだよ。

あのティッシェバインが碇の自宅を襲った時、ユイさんは君と碇を守って死んだ。

碇は、あの時からずっと…。」

「いいんです。今は僕も父の気持ちがわかります・・。」

「そうか。ありがとう。」

 

広域特捜警察は各地に建物も建ち、本格的に活動を開始。

最初の事件で最大の組織を潰した手腕は世界中の非合法組織を震え上がらせましたので、

今の所日本での活動はどの組織もなりを潜めています。

碇家のある桜第3マンションは、すっかり建て直され、きれいになりました。

ただ碇家の上下左右の部屋は借り手が無くて、警察の借りあげ社宅になりましたがやむをえない所でしょう。

 

非番が重なった二人は、引越しの為に桜マンションに戻ってきました。

 

302号室は、もとどおりの家具が据えられ、すっかり新しくなっていました。

ただ、綾波さんだけがいません。

それだけなのに二人にはひどくこの部屋が広く感じられました。

 

「綾波さんは、僕ら二人のお母さんだったんだね…。」

「うん。」

 

ベランダの窓を開けると、正面の大きな桜の木から花びらが次々と部屋の中に舞い込んできます。

 

「ひとりきりで生きているわけじゃないんだ。みんなが見守ってくれている。」

「ずっと、ひとりきりと思っていたの ?

「うん。でも、そうじゃなかったんだ。

僕らは人と人とのつながりの中で生きていたんだ。生かされていたんだね。」

「スミスクラインのテロに巻き込まれて家族を失った時に、わたしには二つの道があったの。

憎しみに生きるのか、わたしを守って生かしてくれた家族の為に生きるのか。」

 

シンジは複雑な顔をしました。

 

「僕はアスカと一緒になるまで、そんなことに考えが及ばなかった。」

 

「それは、わたしも同じかもしれない。

シンジと一緒になるまでわたしはしてあげてる、そう思わなくては、と考えていたの。

でもあなたと一緒になってから、してもらう事の方が多かったのに、やっと気がついたの。」

 

西日が新宿の街を中心としたビルを浮かび上がらせます。

桜の花の色がぐっと濃くなったように感じられます。

 

 

「アスカ。」

「はい。」

 

シンジはアスカを抱き上げると、アスカの部屋のベッドまで運びます。

じっと、目を閉じているアスカ。

 

くちづけ。

 

ゆっくり開いた瞳が潤んでいます。

 

アスカのワンピースの並んだボタンを一つ一つ外していくシンジ。

すっかりはずし終わって前を開くと、純白の細かいレースの下着に包まれたアスカの身体が。

シンジは更に、その、胸の下着をはずしていきます。

細かくアスカが震えているのに気づきます。

 

「怖い?」

 

こっくりと肯くアスカ。

シンジはもう一度長いキスをします。

 

「もう、だいじょうぶ…。」

 

消え入りそうなアスカの呟き。青いくらいに白いアスカの肌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええい、何をしてるんだ。其処は強引に事を運ばなくてはいかん。」

「あなた…家庭によってやり方が違うんですから。でもあなたは強引で(ぽっ)。」

「そうよ。うちだって、いきなり台所で押し倒された事も…。」

「かあさん、こんなところで話すのは止めておくれよ。」

「意外とうぶいんだマッカ。初めてなのかい?」

「おねえちゃんがんばって!」

がやがやがや…。

 

いやな予感がします。見上げるシンジ。

ふわふわと中空にみんながいるではありませんか!

 

「あっ!いやああああん!!」

 

これ以上真っ赤になれないくらい真っ赤になってふとんを引っかぶるアスカ。

シンジもトマトのようになって抗議します。

 

「な…何してんだよそんなとこで! ふ、夫婦の寝室に入ってくるなんてひ、ひどいじゃないか!!!」

「いや、そうは言っても、ぜひ息子の晴れ姿を見てからと。」

「わたしはやっぱり孫を抱いてから行こうかなっと…。」

「いつまでもみまもっててあげるからね、マツカ。」

 

 

 

 

 

 

「あああ、もう〜いや〜〜っ!!」

 

 

 

 

いつになったら結ばれるんでしょうね、この二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜が一番好き「わすれない いつまでも」おしまい

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

LAS的最終回!!

さて、全巻の終りでございます。皆様、物を投げないで下さい、物を。

最後の最後までお邪魔虫がいっぱい。

あなたもご先祖様たちに見守られているのでは ?

 

こめどころ



ぐおお、感動の最終回です!!\( T
- T )/だくだくだく

というわけで、こめどころさんついに連載終了おめでとうございます。\( ^ 0 ^ )

迫力の戦闘シーンです。(@_@;)ぬおお
何と碇警視総監が登場するとはびっくりですねえ。

そして明かされる秘密。アスカさんの家族とシンジ君の母の敵が相手だったんですね。
碇警視総監の壮絶な殉職。すごい展開ですねえ。彼なりに頑張ってたんですね。やるねえ、ゲンドウ。

綾波さんあやしいと思ってたけど、なんとユイさん達の複合体だったんですね。
息子と娘を守るために...。( T - T )えーはなしやー

ラストついに結ばれるのか?と思いきやみなさん成仏してなかったのね。(笑)

さあ、感動のストーリーを書いてくれたこめどころさんに、早速感想&応援を書きまくるのだー。\( > 0 < )

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