雨が降っていた。
けぶるような雨が、芽吹き始めたけやき並木を通り過ぎるように降りぬけていく。
そのたびに、けやきの影が薄くなったり濃くなったりする。
まだ少女と呼んでもいいような、小柄な女性はずっと、広いガラス窓越しに外を眺めていた。
店内の人影と、霧雨が交互交互に目に入ってくる。
赤金の長い髪に整った美しい横顔。そこはまさに一服の絵のようであった。
彼女の前に置かれた紅茶はとうに冷え切っていたが、手をつける様子も無い。
ため息を一つつくと、彼女は立ち上がって赤い傘を持ち、伝票を手にした。
レジで会計を済ますと、カランカランと鳴るドアのカウベルに送られて外に出る。
煉瓦造りの通りから続く小路を二人連れの男女がこちらへ向かってやってくる。
傘をさそうとしながら、女性は小声で言葉を発した。
「まだ動きはありません。連絡もありません。」
「逆探の配置も終了した。引き継ぐ。」
「よろしく。」
そのまますれ違うと赤い傘をさした女性は、角を曲がってまた別のビルの階段を上がり、
部屋の中に入っていった。
「あああ〜、疲れたよう。退屈だった。」
「アスカ、おつかれさん。」
「2時間喫茶店にいるのはつかれるよな。」
「そうよ。大体こんな美女を2時間も待たせるやつなんかいる?
今日の台本かいた人はもう少し考えて欲しかったな。」
笑いさざめく声。
アスカは、温かいショールを肩にかけられて振り向いた。
「お疲れ、アスカ。たいへんだったね。」
「あなた…。ただいま。」
アスカは声をかけた若い男性の手に首を傾けて頬を擦りつけた。
碇シンジ。アスカのご主人である。
この二人は新婚さんで、まだ結婚して一年にもならない。
しかし二人は、人に言えない重大な秘密を持っていた。
どういう神の悪戯か、結婚したにもかかわらずこの二人、
いまだにキス止まりの純情夫婦なのであった。
これでもLAS?
その後の桜たち
ぴろりんぽろりん♪ がちゃ。
「ただいま〜。」
めずらしく一緒の時間に勤務が明けた二人がマンションに帰ってきた。
「おかえりなさーい。」
家政婦の綾波さんが二人を出迎える。
この綾波さん、実はこの世に実在の人物ではない。
夫や子供たちを案ずるアスカとシンジの母、ユイとキョウコが合体して複合化する事で
霊的パワーを強大化し、現世に実体化した、言わば純粋知性体のような存在である。
このふたりを寄りしろとして、霊界からいろいろな人物が現世に具現化している。
まず、碇シンジの父親であり、前広域特殊警察庁総監、碇ゲンドウ。
つぎに、アスカの父親で、元欧州警察バイエルン支庁警察捜査官のラングレー警部。
アスカを姉のように慕っていながら、犯罪組織の凶刃に倒れたフラワー・ミルズ。
ただしフラワーは通り名である。アスカの実の弟である、トラス・ラングレー。
さしあたりはこの4人が、常連である。
シンジが居間に入ると、ゲンドウが新聞を読み、ラングレーはニューズウイークを読んでいた。
「やあ…。」
「うむ。」
まだぎこちないシンジとゲンドウ。
この二人はずっと離れ離れで暮らしていた為、いまだにしっくり来ないようだ。
「ただいま、パパ、トラス、フラワー。」
「おかえり、かわいいアスカ。」
軽くキスをするラングレー氏。ちろっと横目で見るゲンドウ。
少しうらやましいらしい。
シンジ君も横目でちらり。こっちは少しやきもちを焼いているようだ
「お姉ちゃん、おかえりなさーい。」
「マツカネエ。おかえりー。」
アスカの首にしがみつくトラスとフラワー。
「あははははは。なあに、二人とも子供みたいに…。」
「子供だもーん。」
「こどもだもーん。」
わらいさざめきあいながら3人は、アスカの部屋に入っていった。
「ふう。」
ため息をつきながら、ソファに腰を下ろすシンジ。
「どうしたシンジため息など若い者がついて。さては…羨ましいのだな。」
「ちっ、ちがうよ! ただ、アスカが…。」
「取られちゃったような気がして面白くないんでしょ。」
「わあ!(ビクッ)。」
いつのまにか近寄ってきた綾波の言葉に今度こそ飛び上がるシンジ。
「そ、そうさ。羨ましいさ。僕は新婚で、ほんとだったらアスカと二人で…。」
「シンジ君、僕らは邪魔かい?」
悲しみを目にいっぱい湛えて、ラングレー氏がうるうると訴える。
「おまえが邪魔だというのなら私はイツでも出て行くぞ。」
ゲンドウが寂しげにつぶやく。
綾波が最後の止めを刺す。
「鬼畜。(ぼそっ)」
見事に心臓をぶち抜かれるシンジ。
「そ、そんなこと…!」
「世話になったな、シンジ。所詮幽霊と人間は相容れない存在。」
「まってよ! 出ていけなんて言ってないじゃないか。
いていいんだよ!好きなだけいていいんだってば!!!」
シンジは、ほうほうの態で洗面所に逃げ出し、ざぶざぶと顔を洗う。
「いくじなしぃ…!」
鏡の中に赤金の髪、青碧色の瞳の美しい娘が映っている。
しかし、不満そうに頬を膨らませている。
背中を廊下の壁にもたせかけ、片脚を向こうの壁に押し付けている。
「そんな遮断機みたいに怒らないでよ、アスカ。」
「誰が遮断機だっちゅうねん !! 」
よかった、突っ込みが入るって事はまだそんなに怒ってないな。
「聞いてたんだ。」
また何回か顔を洗ったシンジが濡れた顔を上げる。
「はい、タオル。」
「ありがタオー。」
「なにそれ、しゃれなの?」
苦笑いするアスカ。
「だって僕らの家族なんだよ。追い出したりできないじゃないか。
それに、ぼくらのために…。」
「わかってるわよ…。
私たちの幸せはみんなの犠牲の上に成り立ってるって事。」
しばしの沈黙。
「わたし…。」
「ぼく…。」
顔を見合わせる。カーッとふたりの頬が上気する。
「はやく、ちゃんとしたいもんね。」
「うん、ちゃんと夫婦になりたい。」
「ごめんよ、アスカみんなに言えなくて…。」
「ううん。わたしだってそれはおんなじだもの…。」
ふたりは周りを見回す。
誰もいないのを確認するとすばやくキスを交す。
CHU!!
そしてにっこり笑い合うと、紅茶と焼き立てビスケットの香りが漂ってくる居間に向かう。
どうやら、お茶の時間のようだ。
誰もいなくなった洗面所。
鏡の中からふわあっと豊かな栗色の髪といたずらそうなくりくりのまあるい目をした
女の子があぐらをかいて浮かび出る。
ソヴァージュをかけたような細かい縮れ毛をひっぱりながらつぶやく。
「こりゃあ、このフラワーちゃんが何とかしなくちゃ。
でも驚き、おねえってほんとにまだバージンだったんだあ。」
ぽりぽりと頭を掻きながらフラワーも居間に向かったのだった。
お茶の香りが居間全体に立ち込めている。
静かなお茶の時間。
上品な会話が交され、バックにいい音楽が流れている。
安らぎの時。
ゲンドウが口を開く。
「シンジ。」
「はい?父さん。」
「こどもはまだできんのか?」
ぐわっしゃーん!!
盛大にひっくり返るシンジ。まっかっかになるアスカ。
「なにをあわてている。」
「な、何を言い出すんだよ。」
「いや、ユイが早く孫の顔が見たいといっているのでな。」
「ヤることヤらなきゃ、赤ん坊はできないんだってば!!」
「ヤっていないのか? 問題だな。」
「こないだヤろうとしてたのに、父さん達が邪魔したんだろ!!」
「はやくヤればいい。問題ない。」
「ヤるヤるって、せめてするって言ってよ! アスカに失礼だろ!」
「先に言い出したのはおまえだぞ。ヤるのはおまえ達だ。」
みんなが一斉にアスカの方を振り向く。
アスカはトマトのように真っ赤になった上、湯気を立てていた。シュ―――――。
「もういやああああ〜!!」
ばたばたばたばた……。
アスカは、いやいやをしながら走り出すと、自分の部屋に閉じこもってしまった。
「ア、アスカー!」
追いかけていって、アスカの部屋の前で、おろおろするシンジ。
フラワーがゲンドウに噛み付く。
「この際だから言うけどさ、おじさんあんまり無神経すぎるよ。
嫌われちゃうぞ!」
「この俺が人に愛されるとは思えない。」
「わかっているなら 少し考えなよ!」
「うふふ、かわいいかた。」
綾波の中のユイが活性化して出てきた。
「おばさんもあんまり浮世離れしてばかりじゃだめだよ!」
「(ぴく) お・ば・さ・ん? ああ〜〜〜〜〜?」
今にもウンコずわりしそうな迫力のユイ。
びびるフラワー。
「と、とにかくさ。あのふたりが子供できないと、綾波さんたちも困るんでしょ?」
「まあ、そうよね。」
「いやわしは、息子の晴れ姿を一目見ようと。」
「それ、あきらめなよ。」
「わたしも娘の晴れ姿をひとめ…いててててて。」
口をキョウコに変態した綾波にひねりあげられるラングレー警部。
「何の話なの?ぼくわかんなーい。」
「トラス、あんた子供の格好してるけど中身私より年上でしょ。」
純粋知性体はアストラルボディーを自分のイメージのままの年齢に形成できるのだ。
ゆにゃゆにゃと揺らぐトラスの輪郭。推定18歳時のトラスの姿になった。
やはりアスカと同じ赤金の髪に、青碧色の深い色の瞳。
きりりとした顔立ちに白い歯がキラリンと光る。
「わっわーっ、すごい美形じゃん。
惜しいなあ。生きてさえいればあたしとお似合いなのにい…。」
「フラワー、君だってすごくかわいいよ。
生きてさえいれば僕だって きっとお付き合いを申し込んだと思うよ。」
「ほ、ほんと?」
「うん、絶対に。」
頬を染めるふたり。
初めて他人に自分の好意を告げたふたりはぽわぽわ状態だ。
再び綾波に収束したキョウコとユイがにこにこしている。
「あら、こっちもあっちっち状態だわ。」
「頑張って、トラス。」
「いっぺんにふたりの声を出さんでくれ。」
ゲンドウが頭を抑える。
「ベルクカッツェみたいで気持ち悪い。」
「なんだそれは?」
尋ねるラングレー警部。
「ガッチャマンに昔出てきた悪の親玉だ…。」
「しかし、こういうカップルはどうなるんだ?
知性体と言えばかっこいいがつまりは幽霊みたいなもんだろ。」
「俺は知らん。妻たちに聞いてくれ。」
「魂に染み込むほどの恋であれば、次世で必ず巡り合うでしょうね。」
「融合した魂が同じ色になってお互いを求め合うから。」
「本当に心配事がなくなって、心から安心した時私たちは未来に転生するの…。」
「…なんか、痒いな。」
「ああ。」
はっと我に返ったフラワーがバン!とテーブルを叩く!
「みんな聞いて!
われわれは、シンジさんとアスカねえのしあわせの為に復活したのに、今や
お荷物になっています。特にふたりの正常な夫婦生活の妨げになっています!」
チロリと横目でゲンドウを見るフラワー。
咳払いするゲンドウ。
「見るな…と言っても我々の能力には思った所に現れてしまうという能力もあって、
なかなか、考えないと言うのも難しい。そこで私から提案があります。」
「提案?」
みんなの視線がフラワーに集中した。
ぴぴぴぴぴぴぴぴ!!
アスカをさっきからドアの外でなだめているシンジ。
そのシンジの受令機から鋭い音が鳴り響いた。
「くそっ!こんなときに。」
引っつかむシンジ。
「はい、碇です。え、なんですって?」
ここ一ヶ月の間追っていた人身売買組織が、今夜新潟の柏崎港から誘拐者を出港
させるという情報であった。
「何時に?11時ごろ?」
確かに新潟なら11時といえば誰も起きていない時間である。
深夜という情報が漏れた場合、東京の警察が1時2時を想定して動員をかけたとしても、
とっくに出港しているという効果もある。
認識の時間差を利用した見事な作戦であった。(そうか?単に田舎なんじゃないのか?)
すでに10時。地元の警察では組織に対抗できないのは目に見えている。
新潟市の支部からも1時間半はかかる。動員は間に合わない。
「シンジ。考えがある。わしに任せてとにかく大至急総動員をかけろ。」
受令機の音を聞きつけて来ていたゲンドウが、真剣な眼差しでいう。
肯くシンジ。
「とにかく動員をかけて大至急現場へ! その間は僕がなんとかします!」
通信は切られた。シンジと、部屋から出てきたアスカは信頼しきった目でゲンドウを見つめる。
「みんな、屋上へ。シンジ、アスカ。完全武装をしろ。SWAT装備だ。
家に貯えてある銃器類、火薬類、武器は全て屋上へ運べ。」
8人は屋上へ集まった。
アスカとシンジを除く6人が手をつなぐと、人間の姿が崩れ、一本のループとなって眩しく輝き始めた。
一瞬の光の爆発が納まるとループの中にシンジ達の赤いSKYLINEが現れた。
「さあ、すべての武器を載せるんだ。そしておまえ達も車に乗り込め。」
光の中からゲンドウの声がする。
シンジとアスカは車に乗り込み、シートベルトをすると互いの手をしっかり握った。
「私、ジェットコースターって苦手だったかも。」
「僕は間違いなく苦手だ。」
瞬間、まばゆいばかりの光の渦が車ごとふたりを包んだ。
「ぼんやりしないでっ!ハンドルを握って!!」
綾波の声が頭の中に直接響き渡る!
ほんの1秒ほどふわっとした間隔があった後、SKYLINEは ドカンッ と
音を立てて、船の甲板上に落下した。すぐにアクセルを踏みこんだとたん、
どどどどどどっ !!
重機関銃が一瞬前まで車のあった場所をえぐった。
「な、なんなのっ!!」
「組織の貨物船の甲板らしいよっ!」
ものすごいスピードで、回避運動をしながらシンジが叫ぶ。
「なんですってえ!髭オヤジやったわねっ!!そうとわかればっ。」
アスカはピンを抜いた手榴弾とスモーク弾をばらばらと窓から撒き散らす。
グワアアン!ドカーン!!
次々と爆発が起きてそのたびに何人かが吹っ飛ぶ。
後部座席からロケットランチャーを引っ張り出し、船のブリッジに向かって
次々と擲弾をとばす。
「貨物の積み込み口は?!」
「弾幕の一番濃い所よっ!」
「なるほどっ!」
顔をを見合わせた二人は不敵ににやりと笑う。
「いつでも、いっしょだよなっ。」
「うんっ。いつまでもっ!」
ぱあああっと展開するピンクのST‐Field。
車が通りすぎた後、隠れていた悪人たちが苦しみに油汗を流す。
「シンジっ。サンルーフ開いてっ。」
天井から外に顔を出し機関銃を撃ちまくるアスカ。
こういう破壊行為になるともう独壇場だっ。
バリバリバリバリバリバリッ!!!!
機関銃の弾幕で頭を抑えられて伏せる悪人達。
車が猛スピードで通りすぎた直後に、サブマシンガンを撃ちまくろうと
立ち上がったところを、
がん!がんがん!きゅん!きゅん!がん!
ルーフに脚を引っかけて仰向けにひっくり返ったまま、アスカ得意のCz75マグナム
15連発が、的確に、立ち上がったメンバーの肩口をぶち抜いていく。
一人時間差の精密射撃。ほとんど狙撃手並みである。警察組織広しと言えども
走る車の上からこれができるのはアスカだけだ。
ドアカーン!!
おおきな爆発が、ふたりのスカイラインを横転させる。
誰かがバズーカをぶっ放したらしい。とっさによけたがロープの束に乗り上げて
横転したのだ。とっさに飛び出したふたりに銃弾が集中する。
ガガガガガガガガガッ!!!
BABABABABABABABABABA!!
敵の一角が崩される。
反対の方向に目線を移すとマストのはしごにぼうっと光る綾波さんの姿!
漆黒の闇の中に浮かび上がる銀の髪と紅の瞳は味方には例えようも無く美しく、
敵には恐ろしい死の女神のように見えた。
さらに両手の重い戦車装備用の12mmマシンガンを撃ちまくる綾波さん。
並みの男では、一丁を扱えるかどうかという代物だ。
「ひいいいいいっ。な、何者だあいつは!」
敵側は頭をを伏せたまま動く事ができない。
ことん。
何かが落ちてきた。見ると手榴弾である。
「パイナップルっ!!」
とっさにバラバラとそこにいた全員が飛びだす。
きゅいっ!ずどおおん!!
吹っ飛ばされて 気を失う男たち。
中空から手榴弾をばら撒いているのは、くわえ煙草のフラワーだ。
その向こうからは4歳時に戻ったトラスが、遠投の練習中。
「あー、とどいたぁ。」
どおおん!
その混乱の中、アスカは車を捨てて敵集団十数人の中に飛び出した。
ばきっ、どすっ、びしっ!
ふわっと空を蹴るようにアスカの小柄な身体が宙を舞うたびに数人の男が
血反吐を吐いて倒れる。
めくら滅法に銃を撃つ者、軍用ナイフを振り回す者もいるが、無意味だ。
低い体勢から逆さ蹴り上げで肩を砕かれるもの、掌底での顎からの突き上げで
顎を打ち抜かれるもの。正拳で肋骨を粉々にされる者。
誰一人として逃げられるものはいない。
「しゅううううううう……。」
吐き出されるアスカの呼吸。獲物を狙う猛禽類の目だ。
流れるような体さばきから、次々と繰り出される必殺の拳や蹴りにバタバタと
敵は倒されていく。
最後の一人の脛をローキックでへし折ったアスカは、長い金髪を、ばさっと頭を
振って整えると、短式自動拳銃を構えたシンジと一緒に船内に飛び込んでいった。
ばりばりばりばりばり!
シンジの機関銃が掃射する。隠れていた2,3人が転がり出してのた打ち回る。
それでも隙を見て、天井近くの隠し部屋から一斉に飛び掛かる数十人の男たち。
「うおおおおおっ!!!」
船長及び組織幹部達の部屋。
「だいぶ騒がしいな。殴り込みの相手は?」
「広域警察の連中ですね。数は…ふたりだけですが手強い連中のようです。」
綾波さん達はモニターには映らないのであった。
そのため、ただ部下達がバタバタと倒れていくように見える。
「あそこから撃っていて、なぜこちらの連中が倒れるんだ?」
「モニターをアップにしろ!」
激しい戦いを繰り広げるアスカとシンジが大写しになる。
「ほう。アスカ・ラングレーではないか…。とんだ大物が紛れ込んできたもんだな。」
長い髪をなびかせ、体をかわすたびに飛び散る汗が美しい。
「美しい…。この女を俺のものにしてやろう。」
「また変な病気が出たな…。」
「気の強い女が好きだというのも大概にしとけ。だがこの女、確かに高く売れる。」
「いいか!殺すな、連れてこい!捕らえて奴隷化して叩き売ってやる…。」
手下に大声で命令する。
「仕込むのはおまえ…という訳か?しょうの無い奴だ。」
変態だ…。
モニターが切れる。爆発で吹っ飛んだようだ。
「商品の様子はどうだ。」
「順調だ。臓器摘出用の冷凍睡眠プラグが500本。奴隷用の未処理が
LCL水槽に50人。すでにばらした1000人分の臓器。」
「なんといっても生き作りが一番高く売れる。魚も人間も同じだな…。」
どんどん!
ドアが叩かれた。
「女を捕らえました! 男は倉庫に落下! 確認中です!」
ドアを開けると血に染まった女の頬が見える。
舌なめずりをしながらさっきの変態幹部が言う。
「開けて、入れてやれ。」
どさっ。後ろ手に縛られたアスカが突き飛ばされて床に転がる。
キッと睨み付ける青碧の瞳が美しい。
「ふっ…、いいな。気の強い女というのは…。
この目つきをいつまで続けていられるか…。」
いいざま男はいきなりアスカの唇を奪った。
「んっ…んんんん!」
必死で撥ね退けようとするアスカ。
しかし、後ろ手に縛られていては男の力には抗いようも無かった。
「うっ、うううううっ!」
「ふっ…。」
思うさまアスカの唇を蹂躪し尽くした後、
にやにやと笑いながら顔を離す幹部。
唇と唇の間に細い唾液の糸。
震えるアスカの肩。
涙を、こらえているに違いない。
アスカの泣き顔を見ようと目線をあげる…。
アスカの顔が
ゲンドウに変わっていた。
変態幹部の顔が青緑色のムンクになった。一瞬で髪が真っ白になる。
「げっ!ば、ばけもの!!」
「ふっ、問題ない。 少なくともこちらにはな。」
ゲンドウは、顔色ひとつ変えず、両手にリボルバーを構えて言った。
アスカを連れてきた男もラングレーに顔が変わっている。
大型機銃を構えたラングレーが大声で叫ぶ。
「全員床にうつぶせに伏せろ! 両手両足を開け!」
勝負がついた。
「あ〜あ…。結局私たちの車がベコベコになっただけでしょ。」
「まあ、エンジンやシャシーは、無事だった訳だし、修理は警察技術部で
ただでやってくれるそうだし。よかったじゃない。」
「むー。もう少し活躍したかったな。」
あれだけ暴れて、まだ物足りないらしい。
要するにいいとこ全部オヤジさん組に持っていかれたのが悔しいのだ。
「手柄だけ私たちのとこに回ってくる訳で…気分悪いのよ。
その上、何よあいつ、私の顔を見るなり、ばけもの〜!なんて叫んじゃってさ。」
「よほど怖い目にあったんだろうね。ガタガタ震えていたもの。」
考えたくないな…とシンジは思った。
その時、うしろの座席に ぽわん、と フラワーが現れた。
「マツカネエ。」
「フラワー!どうしたの、いったい。」
「私たちさ、暫く旅行してくるから。
ラングレーさん達、日本をあちこち見てみたいんだって。」
「暫くってどのくらい?」
「さあ…でも子供が産まれる頃には戻ってくるよ。
孫の顔見たいだろうし。私とトラスも、いろいろデートしたいしさあ。」
「みんな…ぼくらに気を遣って?」
すまなそうに言うシンジ。
「まあ、いいってこと。私たちには時間の感覚なんて無いからね。
それからいい事教えてあげる。
この先、群馬から中禅寺湖の裏側へ抜ける道を入っていくとね、
子授けの霊験あらたかな神社があるのよ。金精神社っていうの。
そこで御札貰って、寝室の四隅に貼っておいて。
そうするとね、私たちはそこに入れなくなるから。」
フラワーは道路マップを広げて道を教えた。
「私たちは自分が思った所に勝手に異動しちゃう時があるのよ。
こうしとけば、あなたたちの事思い出しても異動できないから。
暫くはマンションの四隅にしておいた方がいいかな。」
「子授け神社なんて、なんで14歳のあんたが知ってるのよ…。
でも、ありがとうフラワー。あんた、やっぱり私の妹だわ。」
フラワーの頬にキスをするアスカ。
テレテレのフラワー。
「じゃね、マツカ姉ちゃん。」
じっとアスカを見つめるフラワー。
「わたし…、今度生まれてくる時はきっとマツカの妹に生まれてくるから。」
「むすめにでもいいよ。フラワーのお尻を、ペシペシ叩いてあげるっ。」
心の底から安心したように、にっこり笑うフラワー。
きらきらと砂金のような輝きを残し、蒸発するように、ゆらゆらとフラワーの姿は消えていった。
ふと不安になるアスカ。
「フラワー?」
その夜。
アスカとシンジは、ベッドの上にいた。
レースのカーテン越しに月の静かなひかりが部屋の中にあふれている。
アスカはパジャマの上着を脱いだ。
キャミソールの下にブラジャーが透けて見える。
思わず目をそらすシンジ。
「だめ、シンジ。わたしを見て。」
アスカは足を崩すとズボンも脱いだ。
キャミソールと揃いのフレアーショーツ。
月の光に薄ものがすっかり透けて、まるで妖精の羽のように見える。
シンジはそっと手をのばし、ミニキャミソールの裾から手を入れ、
ブラジャーのホックをはずした。
美しい二つの膨らみがシンジの目に映る。
見てといったくせに、恥ずかしさの余り俯いてしまうしまうアスカだった。
「きれいだ…、アスカ。」
「シンジも、服を脱いで…。」
パジャマを脱ぎ捨てるシンジ。
一年前と比べて、見違えるほどたくましくなった身体。
厚くなった胸。太くなった腕。そして…。
アスカは思わず目を固くつぶった。
シンジは手を伸ばしアスカを抱き寄せる。
手が触れた瞬間にアスカの身体がビクッと反応する。
「だいじょうぶ。アスカ…。」
膝立ちのままで、長い抱擁とくちづけを交すふたり。
「立って、アスカ。」
アスカのフレアーショーツとキャミソールを脱がせるシンジ。
生まれたままの姿でふたりは向かい合っていた。
「目を…開いて。アスカ。」
「はい…。」
震える声で返事をするアスカ。
「一年…かかったね。」
「うん。一年…。」
「でも、よかったのかもしれない。」
「パパやママ…お父様やお母様にも会えたし。」
「いろいろなことがあったね。」
「うん…。」
「今夜から、ほんとうに本当の夫婦になろう。」
「はい…。」
真っ直ぐに見つめる瞳と瞳。
そこには愛と、信頼があった。
どちらからともなく、腕をお互いの身体に巻きつけあう。
そして、もう一度くちづけを。
身体が、熱い。
吐息が火のようになっているのがわかる。
ふたりはゆっくりと、ベッドに倒れ込んでいった。
「シンジ、熱い。あなたの身体。」
「きみの身体も。アスカ。」
求め合う、こころ。
求め合う、からだ。
全てが満たされていく…。
「アスカ…………。」
「シンジ…………。」
10ヶ月後。
東京は再び満開の桜に包まれていた。
「やあ、冬月副総監。」
「元副総監だよ…、加持総監。」
「碇くんの所に?」
「ま、旧友の孫が生まれたんだ。わしの孫のようなもんだよ。」
「わたしも、女房にせっつかれましてね。」
「ミサト君か…君もとうとう逮捕されたんだっけな。」
「心外ですね。わたしが逮捕したんです。」
「そうか…?」
冬月は明るく笑った。加持は苦笑した。
東府中病院。この辺りでは有名な産科専門の病院である。
中はほとんどホテル形式になっている。
いかにもアスカが好みそうな、豪華な病院である。
「2階が新生児室か…」
階段を上り、大きなガラスの向こうにいる新生児を見られるようになっている。
「ああ、これが碇の…。イカリ・ベビー、か。」
豊かな、明るい栗いろの巻き毛を持つ、愛らしい赤ん坊。
冬月は、赤ん坊をよく見ようとして誰かにぶつかった。
「こりゃ、失敬。」
「いや…問題ありません。」
えっ。
「い、碇っ。」
にっこり笑うもう一人の連れ。
「ユ、ユイさんっ。」
「どうしました、冬月さん?」
遅れて登ってきた加持が尋ねる。
ふりかえると、二人は消えていた。
「いや、そんなはずはないか。」
「あなた。名前きめてきてくれた? あの子フラワーにそっくり。
本当に、うちに生まれてきたのかもしれないわね。」
「うん。日本名と、ミドルネームと両方ね。日本にはミドルネームの習慣が無いから
いろいろ考えちゃった。でもこうしたよ。」
碇 ツバサ / ツバサ=フィオ=イカリ
「FIO…イタリア語の花、ね…。」
「つばさ…飛鳥の子供だから翼。いい名前でしょ。」
「ええ…、とっても。ツバサ=フィオ。優しくて活発な娘になりそうね。」
看護婦さんが、赤ちゃんを抱えて入ってきた。
「さあ、赤ちゃんにおっぱいをあげて下さいね。」
アスカは赤ちゃんを受け取ると、胸元を広げ、ゆたかな乳房を含ませた。
ちょっと泣きそうになっていた赤ん坊は、母親の匂いが分かったのか、
一心にお乳を吸い始めた。
シンジはいつのまにか涙ぐんでいる自分に気づいた。
「あれ?へんだな。」
おたおたしている夫を見て、なり立ての母親は、ゆっくりと微笑んだ。
「ツバサ・フィオ・碇…、幸せになってね。」
窓の外には青空の下、満開の桜が咲き乱れ、暖かい日差しが降り注いでいた。
この幼子の幸せを約束するかのようだった。
第3桜マンションは、大変な騒ぎになっていた。
ベビーダンス、ベビーベッド、パンパース、ベビー服、おむつカバー、沐浴器、
がらがら、オルゴール、天井でくるくる回るモビール、安全柵、哺乳瓶、子供用食器だな、
着替え、おくるみ、SMAミルク1カートン、歩行器、チャイルドシート、お雛さま、etc.etc.……。
その他に山のようなおもちゃと絵本と教育セットと洋服と着物。
「こんな荷物どこへしまえって言うんです。後先考えずに買い込んで。」
「いや、どうせいつかは使うものだし・・・。問題ない…と。」
「こういうことは、女に任せておきなさい。男は邪魔です。」
「で、でもぼくらの初孫だよ…。何か買いたかったんだ。」
キョウコやユイにラングレー氏やゲンドウ氏は押しまくられている。
綾波に収束した二人が無情に言う。
「却下。」
「ああ、いつ退院なのかしら。」
「まだ一週間は先だ。」
「わかってますよ!分かってて言ってるんですから、黙ってて下さい!!」
噛み付かれそうだ。
「シンジ、これからおまえの、
真の戦いが始まるのだ。」
ゲンドウとラングレーは、手を握りしめ合うのだった。
その後の桜たち:終
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
お終いまで読んで頂きましてありがとうございました。
ギャグもシリアスもごった煮の、はちゃめちゃStory。桜シリーズ。
寛大なドラえぽんさんの励ましにより、ここまで書いてくる事ができました。
ありがとうございました。
今回は、本編終了の後、みんながどうなったかを書きました。
これで一応全部書いたと思います。
またお会いできる機会がある事を祈っています。
こめどころ
アスカさん&シンジ君、合体もとい(笑)ツバサちゃん出産おめでとー。\( > 0 < )/わーきょーうひょー というわけで、こめどころさん桜なその後ありがとうございますー。\( ^ 0 ^ ) いやー、今回も楽しいお話ですねー。何と綾波さんもゲンドウ達も成仏して無かったんですね。(笑) うーむ、しかしただでさえ強いアスカさんとシンジ君に守護霊軍団が付いてたら無敵だな。 そしてついに結ばれた二人。良かったねえ、二人とも。( T - T )くうーよかったよかった 二人の宝フラワーツバサちゃんも生まれた事だしめでたしめでたしですね。(
^ - ^ ) さあ、今回も楽しいお話を書いてくれたこめどころさんに、感想&応援を書いて次回作のリクエストをするのだー。\( ^ 0 ^ )するのだー |
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