〜優しすぎるあなたに〜

           For Coming Back To You, Dear

                       第0章 Part,66

                                           By かすい

 

 

 

“主様、右手、イスラフェス来ますですっ!”

 

先程までのぶ〜たれも何処えやら、楓は鈴の音を転がすような声で、シンへと風を送った。

マヤのことは、ひとまず収まりをつけたらしい。

すぐさま前回のアスカとシンジとの戦闘データから、第七使徒 イスラフェルの情報を引っ張り出そうとする。

 

時間がないことくらい、楓だって知っている。

だとしても、いじわるをしてみたくなったのは、女の子特有の可愛いわがままだ。

意地の悪いだけのわがままならまだしも、それ以上に、大好きな人に甘えたい気持ちが少女の中から捨てきれない。

甘えた分だけ、そして、シンの力となろう。

くすり、と楓が笑う。

確固たる決意は、そのまま想いとなり、確かに二人を守るそよ風へと変わった。

 

―――ずっと、一緒です。

小さく、呟く。

 

思えることが幸せだった。

暖かかった。

この揺らめきを抱くためになら、全てを捨て去っても良い。

そう、信じた。

 

雲がふうわりと、空を漂う。

初号機は、まだ動かない。

 

そして、風。

 

エントリープラグのスクリーンには、望遠を使っているとは言え、確かに使徒の姿が見えていた。兵装ビルの合間から、焼け爛れた表皮をものともせず、こちらに向かって進行してくる。

本能に忠実なのか、それとも何かしらの理由でもあるのだろうか。

牽制を行い、速度を少しでも落とそうとしている兵装ビルからの攻撃をものともせず、真っ直ぐに進む。

自分達へと。

当たり前のことなのかもしれないが、向こうもシン達に気付いているらしかった。

僅か数パーセントの稼働率しかないビルの群れ。結果は目に見えている。

数発程度のミサイルで、使徒の動きを止められるものか。

発令所と繋がり続けているウインドウからは、ミサトの注意を促す叫びと、いつもながらに使徒の状況説明に終始するリツコの声が代わる代わる流れていた。

 

“リツコ達、うるさいです……………”

(それは、あまり言わない方が良いよ………)

“働いてるの、オペレーターの三人だけのような気がするです。ミサトとリツコ、喚いてるだけ、です”

(これこれ、言い過ぎ、楓?)

“は〜いです”

 

叫ぶ。

状況を把握する。

それ以外に、出来ることがないのかもしれない。

悲しいが、本人達がわかっているかいないかは別として、それも現実だ。

楓の言葉に、思わずシンは、ため息をひとつ吐いた。

戦闘中にあの二人の仕事は少ないんだよ、とは言ってしまえばそれまでだった。

二人、ミサトとリツコの能力は、基本的に戦いが始まるまでのものであり、始まってしまえばこうもなってしまおう。

シンに二人を責めるつもりは、まるでなかった。

 

がさごそがさごそ。

胸の内で、音がひっきりなしに響き渡る。

 

それにしても、と不謹慎なのかもしれないが、今更ながらにシンは考えてしまう。

どうして楓は、ちゃぶ台の上に置いてある紙の山を漁るのだろうか。

ふにゃ〜〜、と叫ばんばかりに格闘していた。

あっちを引っ張り出してきては、これじゃないですう、とほっては捨て去り、こっちの方を踏みつけては、こてんと滑って転んでいる。

もう少し、整理整頓しておけば良いのに。

何処となく、呆れるしかない。まさか、初号機のデータ処理がちゃぶ台ひっくり返しだとは、誰も夢にも思いはしないだろう。

 

ころん。

“ふにっ、鼻打った〜〜〜〜〜〜。ああぁ、お茶が〜〜〜〜〜〜〜〜”

転んだ。

“ふえふえ、濡れるです〜〜〜〜〜〜〜〜”

何処からか、手拭いを引っ張り出してくる。

滅茶苦茶だ。

慌てたまま、全てを同時に進めようとすれば、こうにもなろう。

完璧に子供だった。

 

しかし。

子猫のような動きに、頬が緩んだ。

 

(ううっ………、緊張感が足りない………)

 

とりあえず少年は、自覚だけはしているらしい。

耐え切れないと思ったほどの苦しみも、理不尽な悲しみも、こうしてゆるりとした時間の中で、思い出と呼ばれる過去へと変わっていく。

絶望に身を任せた時も。

何もかも捨て去りたかった時も。

包むかのように、微笑へと姿を移す。

しかし、それは。

(悪い気分じゃないよね?)

そう。

理由なぞ、シンにはどうでも良いことだった。

ただ、満ち足りた安心の中で、己の全てを信頼することが出来るのだから。

それ故に、今の自分を見つめることも可能となる。

それを、成長と呼ぶのだろうか。

今、自分は理解しきれない。

 

すてん。

楓がまた、こけた。

 

(おいおい…………)

だが、これで良いのだろうか。

一抹の不安が、胸を過ぎった。

 

“ふにっ!あった、これですこれ。………あっ、そうです、主様?”

楓が勢い良く振り返り、にんまりと笑みを浮かべ覗き込むように、言った。胸に両手で量のある紙の束を抱え込んでいた。

転んで打った鼻の頭が、赤くなっている。

ぽてぽて、と歩み寄るイメージが可愛いかった。

愛しい、とでも言えば良いのだろうか。

さらには、揺れる長い髪が口の中に入ってきたのか、うにうにと唇を動かし、頭を振った。

(ん?何かわかったの?)

シンは、意識を引き戻す。

使徒が、すぐ側まで迫ってきている。

 

“言い訳、後からたくさん、聞くですよ?”

(へ?)

“マヤ。………ヒカリのも”

 

頬が引きつった。

何故かこの時ばかりは、今攻めてきた使徒に感謝したくなってしまったのは、シンの気のせいだけではないはずだ。アスカやレイのことだけで拗ねられるならまだしも、マヤのことでまでむくれられては自分の方が、たまらない。

まだ、根に持っている様子。

(は、ははっ………………)

たまらなく、自分の身の危険を感じた。

 

“き・く・で・す・よっ!”

 

(は、はいっ!!)

あれだけ約束させておいて、まだ足りないと言いたいらしい。

 

泣きたくなった。

 

使徒が迫り来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「使徒の様子は?」

 

ミサトの張りのある声が、発令所を所狭しと響き渡る。

いつものことながら、使徒に負けてしまえばそれで全てが終わるのだ。周囲に漂う緊張は、常時のそれとはまるで違う。

この時ばかりは、誰も表情に笑みを浮かばせることはなかった。

「第三新東京市に入る手前で、速度を落としています。初号機にも気付いているものと思われます」

マヤが、答える。

手を止めることなく、コンソールを叩き続けていた。

使徒は進行途中、ネルフ本部へ直進する進路から、僅かにずれた初号機の方へと向きをずらしている。先に、邪魔なものを排除しようとでも言うのだろう。ある意味、戦闘によって少しでも時間が稼げることが、現状のネルフにおいて、もっとも喜ばしい事実だった。

 

アスカとシンジは、未だつかまらない。

 

「それにしても、まずったわね………………」

「ミサト?」

リツコは、苛立ちを抑えきれないのか歯軋りしている同窓の友人に、声をかけた。

「いくらユニゾンの特訓をして完璧になっても、本番に二人がいないんじゃ本末転倒もいいところよ」

「保安部の方は?」

「未だ、連絡なし。やる気あんのかしら、あの連中?」

実際のところ、保安部のお陰で助かったことなど、これまで何もない。

言うだけ時間の無駄だ、とリツコは考えていた。

「後一日の猶予がある。そう思い込んでいたこちらのミスでもあるのよ?」

「だからって…………」

「それに…………」

叫ぼうとしたミサトを制し、リツコが言葉を紡ぐ。

「うん?」

「それに、ね。彼は、シン君は、それ程気にしてないみたいよ?」

発令所に設置されている大きなスクリーン。その片隅のウインドウには、初号機のエントリープラグ内の様子が映し出されていた。

シンがいる。

穏やかな微笑とともに、鼻歌でも歌いだしそうなくらいに緩やかに。

「あの子…………」

ミサトは、呟いた。

「何とかなりそうだ。そんな風に思えてこないかしら、ミサト?」

「…………………」

「ロジックではないわね?」

白衣を翻し、ミサトの側から離れ、リツコはマヤの方へと歩み寄っていった。

 

おかしなものだ。リツコは自分自身の思考の渦に身を委ねながら、そのことだけがはっきりと理解することが出来た。

あの少年は、恐らく自分の、いや、ゲンドウの計画の妨げになるであろうことは、すでに予測している。シンジの双子となってはいるが、そのような事実がないこともリツコは知っていた。

だのに、何故。

得体の知れない不気味よりも、信頼が生まれようとしている。

 

―――リツコさんがいれば、何とかなりますよ。

 

初号機の修理を始めようとする自分に向けられた、あの笑みが忘れられない。

(彼は、何をしたいのかしら?)

初めてリツコは、シンが存在する理由ではなく、シンが目指すものに対して想いを向けた。

マヤが振り返り、こちらを見続けている。

余程今の自分は、変な表情でもしていたのかもしれない。

ミサトに見られなかったことが、幸いだった。

 

「何とかなる、か…………。ロジックロジック、言いながら感覚に身を任せちゃうのがあんたなのよね…………」

 

苦笑。

ミサトは、リツコの背に視線を向けて、呟いた。

リツコを良く知るだけに、その言葉の重みをミサトは知っていた。

少年に対する疑惑の目。それはリツコの中で消え去ってしまうものではない。しかし、それと同様に、いや、言葉からすればそれ以上に、何かを感じ始めているのも本当なのかもしれない。

考える。

それは、科学者としてではなく、リツコの持つ本来の性格なのだろう。

ふ、と気が付く。

シンを見た。

 

ふうわり。

気持ちが漂っている。

 

「そうね…………。そう思えることも悪いことじゃない」

ミサトの心の中で、先程もまでの焦りが、嘘のように消えていく。

無いものねだりをしても仕方が無い。出来ることをしていくしか、道はないのだから。

ミサトは、スクリーンに映し出されている使徒を、不適な笑みを浮かべながら睨みつけた。

少なくとも、初号機という力が自分達にはある。

ポジティブな思考へと、切り替わっていった。

 

風を想う。

何故かそこには、微かな笑みを流すシンがいた。

 

(強いのね、シンちゃんは。………私達よりもずっと)

心から、思った。

微笑は余裕を生む。余裕はそのまま気持ちの、考えの柔軟さを作り出す。ミサトは作戦本部長として、必要なものを手に入れようとしているのかもしれない。

 

ただ、誰もが知らぬ。

シン一人では、これだけの風を身に纏うことは出来ないことを。

痛みですら飲み込んでいく、想い。

その時こそ、シンは最愛の少女(初号機)とともに、神(シン)足り得る。

 

ただ、誰もが知らぬ。

 

ミサトは、今一度、思考を集中させ始めた。使徒に対する復讐心などではなく、シンの手助けをしたい。無意識の中で、感情が変わっていることに、気が付かなかった。

 

「第七使徒、初号機と接触しますっ!!」

マヤの叫びが、届いた。

二つの人外の獣が、異様な雰囲気を纏い、対峙する。

数知れぬデータが、発令所のMAGIへと流れ込んできた。

使徒のみならず、膨大な初号機の現状に置ける情報。パイロットの精神状態。

 

少年は、何も恐れた様子はなかった。

 

「いきます」

ウインドウから放たれる、決意。

 

落ち着きを感じさせる微笑に、誰もが瞬間、魅了された。

 

 

 

 

きっと。

道の先に、光明が見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かすいです。

 

なんだか、良い気分です。やっぱり、楓を書いているのは、楽しいです。

第0章も後少しで、ユニゾン編が終わり、第一部終了となります。

ここにきて、徐々にミサトとリツコの感情が動いているような気がしますが、

どう思います?

実際のところ、あまりかすい本人は考えずに書いているんですが、

かってにいいたい放題になってますし………。

かすいの思惑を無視して動くのが、楓だけでなくなってきた…………。

困ったもんです。

 

しばらくの間、日本への一時帰国もあり、更新がゆっくりとなっていましたが、

少しずつ時差ぼけもとれ、もう少し、速いペースで書こうと思っています。

読んでやって下さいね。

 

感想、たくさんたくさん、待ってます。

MSNのメールには相変わらず繋がらず、前にもしも送ってくださった方で、

返信が届いていないと言う方は多分、かすいが読めなかったのかもしれません。

出来れば、もう一度、yyasuoka@hotmail.com の今使っているメールの方に

送ってくだされば、幸いです。

 

では、またの機会に。

続きはかすいさんのHP〜楓桜〜でお楽しみ下さい

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アスカ様、また出番ナシ。ユニゾンはどーした。 (爆)<ヲイ

というわけで、かすいさん66話ありがとうございますー。\( > 0 < )どもっ

あれ?前回で第一部終了じゃ無かったのね。ユニゾン編までが第一部って事だったのか..。しまった(笑)

それにしても、ミサトって指揮官じゃなかったけ。そうか、ヤル事無いのか〜、可哀相に。<ヲイ
今後ミサトの逆襲はあるんでしょうか?...イヤ、無いカモ。(爆)

そして、次回。今回出番の無かったアスカ様の逆襲やいかに。(ニヤリ)
早速かすいさんに感想を書いて続きを書いて貰おー。\( ^ _ ^ )かくべさ

(注)2000年2月11日現在、49話以前に付いているメールアドレス及びフォームはまだ付け替えていません。
   50話以降は付け替えたので、そちらは使っても大丈夫です。
   全部付け替える時間がなかなか無いので、しばらくはスンマセンです。(;^_^ A

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