かすいpresents.
〜優しすぎるあなたに〜
Another
第1話
A Part

 

 

 

 

「アスカちゃん、新しい子いれたんだ?美味いな、これ」

丸いテーブルに並べられた料理に舌鼓を打ちながら、男はにこやかに言った。

 

見た目には目立たない。僅かに、その整った顔立ちが人目をひく。

無精ひげがちらほらと。

力仕事でもしているのか、逞しい。

だが、それをまるで感じさせない飄々とした雰囲気が男を包み込んでいる。

性格のためなのだろうか。

人が持つものは知らずうちに表に出てくる、とも言う。

久し振りに食事をしている。

そんな風にも感じる。

 

男はグラスに入った酒を口に運んだ。

仕事帰りの一杯は、何処までも心に染み込むように、明日への活力を養うことが出来る。

美味い料理と同時に堪能できるのなら、尚更のことだ。

日常にまたひとつ、楽しみが増える。

ささやかな生活と言っても良い。

誰にでもあるひとときだった。

例え自分のような者だとしても、だ。

ちらり、とカウンターの後ろで動き回る少し細身の少年に眼を向ける。

微笑ましいくらいに良く働いている。

自分にもあんな時期があった。

そう、考える。

―――――――それにしても。

 

「でしょっ!?一週間くらい前からだけど、料理だけは結構なもんよ、あいつ。まぁ、他がボケボケっとしてるんだけど、ね?」

 

どちらかと言えば赤く見えそうな、栗色の長い髪を踊るように揺らし、少女は笑う。

青い瞳が何処か誇らしげに。

誰でも着ていそうな服も、この少女が身に着けると何故か違って見える。

これを魅力とでも言うのかもしれない。

 

「へぇ、知らなかったな?」

ひょい、と肩を竦めると、言った。

後ろで縛った髪が、勢いに流れる。

「だって加持さん、近頃ちっとも来てくれなんだもん」

アスカが軽くウインク。

「わるい。仕事でね。これからはもう少し、来れるさ」

「なんだかいつも言ってません、それ?」

「そうかな?嘘は言ってないさ。で?彼は?」

 

「うん。最初は宿を捜してきたんだけど、あたしの家、両親死んじゃってから、二階の宿の方はやってなかったでしょう?それで困ってたから、店の手伝いしたら一晩くらいおいてやっても良いって言ったのよ。そしたら、この腕前でしょう?評判も良くって、悪い奴にも見えないからそのまま雇っちゃったのよ、住み込みで。ちょうど、料理人が止めたとこだったし、ヒカリとあたしだけだとこの店やってけないもの。まぁ、何だか頼りなさそうな感じだけど用心棒も兼ねて、ね。剣も持ってたし」

 

「へぇ。良い拾い物って訳か」

 

確かに女の子ふたりで全てを切り盛りするのは無理だろう。

それでなくともアスカの両親が流行病にいってしまったのは半年程度前のことだった。

ヒカリとて、幼い頃に両親と死に別れている。

義姉妹であり、幼なじみでもあるふたり。

親の残した店を引き継いでいた。

明るく振る舞ってはいるが、辛いことも多々あるはずだ。

強い娘達だ。

そう、思った。

 

「そう。そんな感じね」

満面の笑顔を浮かべる。

加持は少しだけ驚いた。

何しろアスカが、人を誉めると言うことを聞いたことがない。

「ほう。拾い物で、腕の良い料理人ね〜」

相変わらずカウンターの後ろでは、細身の少年が所狭しと働いていた。

目を細めると苦笑する。

 

(まさか、こんなところで料理を作っているとは……………)

 

呆れもする。

何処かで納得する自分もいる。

彼らしい、と。

手慣れた手つきに、少年が心底作ることを楽しんでいるのがわかった。

 

「アスカ〜、今日のおすすめセット、もうふたつお願い。シンジ君に言って!」

張りのある声。

元気がそのまま動いているような、可愛らしさ。

ヒカリだ。

アスカと共にウエイトレスとして、店の看板娘となっている。

アスカは、また後でね、と告げると、小走りにカウンターの方へ戻って行った。

新たなオーダーを少年に。

忙しそうだった。

 

 

 

 

「シンジ、おすすめ、後ふたつ。急ぎなさいよ!」

アスカがカウンターに肘を突き、身を乗り出すように言った。

口調はきつく感じるが、本気ではないことは表情を見れば、すぐにわかる。

笑っていた。

「これ以上どうやって急げって言うの、アスカ?」

シンジと呼ばれた少年が苦笑を浮かべ、言う。

だが、それでも手は止まらない。

アスカ達から、料理人が着るのはこれっ、と渡された白い服。

僅かに、シンジの身体より大きいそれの捲り上げた袖が、ずり落ちそうになる。

引っ張り上げた。

「反論しな〜い!!雇い主は誰?」

「………あなた様です。アスカお嬢様」

「はい、よろしい。それじゃ、さっさと作りなさい」

腰に手をあてながら、軽く言った。

「はいはい」

シンジは微笑む。

見届けると満足したのか、アスカはくるりと背を向け歩いて行った。

バンダナに汗が滲む。

 

(なんだか、日に日に忙しくなってきているような気がする…………)

 

シンジの考えは正解だ。

美味しいものを作り、安く提供出来れば客は喜ぶ。

ましてや、ここにはアスカとヒカリと言うふたりの美少女が揃っていた。

ちなみに、アスカは同年齢前後の若者に圧倒的な憧れの視線を浴び、ヒカリはその性格と生まれ持つ優しい雰囲気のためか、少し年配の者に多大な人気を誇る。

ふたりが目当てで来る客も少なくはないが、確かに食事を目的にするとアスカの店ではなく別の場所に流れることが多かったのだろう。

それが、シンジの加入で変った。

両方が味わえる。

来ない方がおかしいのかもしれない。

 

”主様ってば、やっぱりこういうの良く似合う、です”

 

心の中で風が吹く。

優しい風。

楓だった。

 

(………ありがとう、誉めてくれて)

シンジは苦笑を返した。

”うふふっ。拗ねてんですか、主様?”

からかうように。

(どうして?)

”だって、主様、拗ねてる時って口を尖らすんだもん”

(うっ……………)

”ふふん、どうです”

ふんぞり返っているのが伝わってきた。

楓らしい。

そう、思った。

 

出来上がった料理をカウンターに並べ、置く。

いちはやく気がついたヒカリが、小走りに寄って来た。

「大丈夫、シンジ君?疲れたの?」

微笑みながら。

「まだ、大丈夫だよ。それよりヒカリちゃんは大丈夫なの?」

「平気。もう、慣れてるもの。ベテランよ?」

「ははっ」

笑いあう。

ヒカリが皿を手に取った。

「頑張ってね、シンジ君」

「ん。ありがとう」

微笑を浮かべ、ヒカリにシンは答えた。

 

瞬間。

テーブルでグラスを片手にこちらを向いている男。

視線が重なった。

気が付いていなかった。

迂闊。

 

(リョウさん?まさか…………)

 

ニヤリ。

男が細く笑うのを感じた。

見た訳ではない。そう、感じたのだ。

アスカに話し掛けている。

僅かな時間の後、アスカが肯く。笑い声が聞こえた。

席から離れると、カウンターの方に来る。グラスは忘れていない。

カウンターの半分はシンジの使っている厨房となっている。

後の半分は普通の酒飲み用だった。

こちら側で飲む者は、基本、後の半分を使う。

だが、男は違った。

シンジの目の前に座った。

 

「やぁ。美味しかったよ、シンジ君。………一年振りくらいかな?」

加持。

「リョウさん。何でこんなとこにいるんですか?」

小声で話した。

顔すら向けない。

緊張が広がる。

 

客足も落ち着いてきたのか、オーダーが止まった。

後は皆、軽く飲むだけなのだろう。

視界の端では、アスカとヒカリがトレイにグラスをのせ、軽やかに動いていた。

聞かれる心配はない様子だった。

シンジは汚れた食器を洗い始める。

 

「それは、こっちのセリフだろう?まさかこんな店の料理人を、誰が『風の想い人』のふたつ名で呼ばれた傭兵だ、なんて考える?」

「僕にとっても同じです、よ。リョウジ=加持。『赤いコウモリ』。あなたに隠し通せるものは何もない。そう言われるほど諜報技術に長けた人が………」

「ふむ。………おかわり、くれるかい?」

シンジは新しいグラスを取ると酒を注いだ。飲んでいたものは下げる。

「はい、どうぞ。………で?」

「おっ、ありがとう。……いや、なに、仕事がこっちの方であっただけで、ね。……おいおい、そんな眼で見ないでくれよ。君のことじゃないし、もう、終わったよ。俺だって殺されたくはないさ」

肩を竦めた。

何処か、わざとらしくも見える。

 

”う〜〜〜〜!!主様、私、リョウジ嫌いです”

 

「さっきから楓がうるさいんですよね」

「驚かさないでくれ。心臓に悪い。……謝っといてくれるかい。もう、しないって?」

「………嘘だって言ってます」

「信用ないんだな〜、俺って」

溜め息まで吐いた。

「それはそうですよ。何をしたのか覚えています?わざわざ人の事情を探って情報をどっかに売ろうとする。信用できると思いますか?」

「誰にも言わない。特にあのふたりには、ね。安心してくれ」

「当たり前です。言ったら怒りますよ?」

「ははっ、そりゃ、御免被りたい、な………」

顔が僅かに引き攣った。

本気で、だ。

怒らせればこれほどに恐ろしいと思う人間は、そう何人もいない。

普段が穏やかに見えるだけ尚更だった。

だが、それを悟らせないのは人生経験の賜物なのかもしれない。

「なら、僕を怒らせなければ良いだけですよ」

「それはそうだ」

軽い口調。真実そう思っているのかどうかは疑わしく見える。

だが、これが加持と言う男だ。

シンジには、言わないと言った言葉を信じるしかない。

 

世間話でもするかのように、話し合っていた。

 

しばらくすると、客も引け始め、アスカとヒカリが店の片づけに入った。

元々、昔から食堂だけでなく、宿屋も兼用でやっていたために夜もそれほど遅くまで営業している訳ではなかった。

宿を閉めてしまった今でもそれは続いている。

癖のようなものだろう。

客も納得している。

アスカが戸を閉じる。

ヒカリがそれに合せてシンジの方へ、残っていた食器が次々と。

加持が邪魔にならないように、と席を移動した。

 

「「ふんふんふんふ〜ん、ふんふんふ〜〜ん」」

 

アスカ達はモップを軽く掛けながら、鼻歌を歌う。

可愛いかもしれない。

 

”主様……………”

(大丈夫だって。元は悪い人じゃないからね、リョウさんも)

 

カウンターの端でグラスを傾ける加持。

 

シンジは心配そうな楓に微笑みを送る。

”はい”

その笑みに安心したのか、楓もにっこりと微笑した。

風の少女の淡い髪が揺れるのを、心の中でシンジは感じた。

イメージが伝わってくる。

 

「ほら、シ〜ンジッ!ちゃんと働かないと、お給料引くからね!」

 

「ちゃんと働いてますってば………」

 

楓が楽しそうに笑っている。

風が届く。

 

 

 

 

 


こんばんは、の方が多いのでしょうか?

かすいです。

何とかお部屋のカウンター一万ヒット及び、ドラえぽんさんとこのカウンター六万

ヒット記念と称した、Anotherの第1話 Partをここに…………。

へへへへへっ。

短いですな…………?

はぁ、短い。

だって、まさかもう、一万超えているとは考えもしなかった。

いや、喜んでいるんですけど、ね。ほんとに。

 

アスカ様、可哀相に両親がいません。ヒカリちゃんもです。

ううっ。何て健気な娘達。

それに引き換え、こんな鬼のようなかすい。

シンジ君も少し、どういう子なのかわかってきましたし、次はどうなるんでしょう?

 

次に書くのはいつになるんだろう?

一万五千か?それとも二万か?

それは、皆様次第。………………ふふっ。

 

こんなかすいに続きを読んでやっても良いぞ、と言う方。

メール下さいです。

待ってますです。

必ず、ですよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!

では、またの機会に。

第壱話Bパートへ続く


おお、いきなり同居だ!!\( > 0 < )/いえーい

というわけで、かすいさん新連載第壱話ありがとうございますー。\( ^ 0 ^ )

うーむ、加持さんはまたもや妖しい役所で登場ですな。そういえば、へぼい加持さんって見たことないな...。
それにしても、シンジ君。傭兵だったんですねー。『風の想い人』良いッスね。\( ^ 0 ^ )/ファンタジーだー

アスカ様とヒカリちゃん、健気ですねー。シンジ君、ちゃんと護ってやれよ。(特にアスカ様<ヲイ

ここからの3人の心の交流が楽しみですねー。アスカ様とシンジ君の関わりはどうなって行くんでしょうか。

さあ、連載3つ目でいっぱいいっぱいになってる(笑)かすいさんに感想&応援を書くのだー。\(●> _ <●)書くっちゃ

 

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