君が口にした、たった一つの言葉。
僕が聞きたかった、でも、聞けないと思っていた言葉。
その言葉を耳にした時。
それが、僕の永遠の旅の始まりだったのかもしれない。
永遠とも言える、時への旅の………
桜の花が散る。
桜色の吹雪が吹き抜ける。
桜の舞い降る、公園のベンチに彼女はいた。
彼女はただ、じっと舞い降る桜を見つめている。
ボケっと、そうしているわけではない、待っているのだ、待ち人が来るのを……
そう、彼女の大切な人が来るのを……
「にゃあ」
足元からかけられた声。
それに彼女は気がつくと、顔をほころばせる。
「月夜?」
問う間もなく、銀の毛並みの猫が彼女の膝に駆け上がる。
独特の雰囲気をその身に持った彼女の大好きな少年の愛猫が……
「ふにゃあああ」
彼女と同じ澄んだ蒼い瞳で月夜は彼女を見上げると、一声鳴いた。
「さてと、そろそろかな」
微かな予感に彼女は胸を高鳴らせ、呟く。
何となくだけれども感じたから、彼が、来るような予感を………
永遠の時の果てで
第四部
贖罪
第二十七話
願い
何を望むの?
あの時、少年が最初に答えた望みは、無への回帰。
でも、その願いは、すぐに取り消された。
だけれども、ほんの一瞬だけれども、その願いは叶ってしまった。
狂いし老人達は、それに狂喜した。
でも、少年は言った。
“もう一度、逢いたい”と………
それが彼の願いだったから。
現在
空を舞う、桜の花弁。
彼女は病室から、それを見つめていた。
「もう、あまり無茶はしないでよ、これ以上、誰かが……」
「いいじゃないですか、こうして無事だったんですし」
ベッドに横たわるサキが見舞いに来た、少年、シンジに向かって言う。
「とりあえず、こっちは僕一人でやるから、今はゆっくりと休むと良いよ」
言って、シンジは立ち上がると、少しサキに微笑みかけると扉の向こうに消えていった。
残ったのは、寂しそうな瞳で扉を見つめる、少女が一人………
同刻
「鈴が消えただと、どういう事だ」
入ってきた報告に、顔をしかめる老人が一人。
身体の部分の幾つかが武骨な機械に覆われたその姿は醜塊、と言って差し支えないであろう。
しかし、彼はそれに気がついていない。
彼にとってそれは至尊の目的を果たすための手段なのだから。
それに逆らうものなど、この世に存在する事すら許されないのだ。
その為に彼とその仲間達は行動している。
「くう、あの小娘が」
「あら、人間ごときに、そんな事言われる筋合いはないわ」
声がすぐ背後から聞こえた。
まだ、幼い少女の声だ。
その声は恐ろしいほど無邪気な響きを帯びている。
「き、貴様は」
「ふふ、直接、顔を合わせるのは始めてだったわね、ゼーレ評議員殿」
にい、と彼女の唇に浮かぶ笑み。
「なぜ、ここに」
「見くびらないでほしいわね、この私を………」
「何故だ、貴様は我らが至尊の目的を理解したのでは……」
狼狽に満ちた老人の言葉に、彼女は冷笑を持って返す。
「理解はしているわ、賛同はしていないけどね、ここで人を消されたら面白くないのよ、私としては、だから、消しちゃう事にしたの」
さらっと恐ろしい事を口にする、少女、その瞳に宿るのは暗き狂気の炎。
その瞬間彼は悟った、自分達が操っているつもりの者に逆に踊らされていた事を……
「じゃあね、おじいちゃん」
弾ける光、残ったのはかつて人だった、灰の塊が一つ。
空を舞う桜色の雪。
それを見上げ、春を感じながら彼は一人、桜並木の中を歩む。
自分の同居人を迎えに行くために。
彼女が何時もの公園にいるであろう事は予想できた、だから彼は迷わずに真っ直ぐに公園に向かった。
澄んだ蒼い蒼い空と、風と共に舞う桜の花弁の一片が、彼を祝福するように舞う。
ほんの少し先の、幸せに気がついているかのように……
程なくして、何時もの公園に着いた彼が見つけたのは自分の同居人と、彼が愛しく想う少女の姿、茜色の髪と、澄んだ蒼い色の瞳を持つ少女。
舞い降る桜の花弁の中に佇む彼女の姿は幻想的なまでに美しかった。
彼の視線に気がついた少女が彼の方を向く。
そして、顔にとても柔らかい笑みを浮かべる。
無意識のうちに彼の脚はかれを彼女の側へと誘う。
交錯する瞳、想い、でもそれは一瞬。
「ありがと」
沈黙を破ったのは、少女の言葉。
始めてだったかもしれない、少女の唇から漏れたその言葉を彼が耳にするのは。
彼は何も言わない、ただ首を縦に振るだけ。
「大した事、してないよ」
彼の言葉を聞き、少女は悪戯っぽく笑うと、そっと彼の胸に抱きついた。
「あ、アス……そ、惣流さん」
思わず少女の名前を口にしそうになり、慌てて言い直す、彼。
少女は、彼の顔を見上げクスリと微笑むと、そっと彼の耳に唇を寄せ、言う。
「何、他人行儀な口聞いてるのよ、ばかシンジ」
彼の聞きたかった言葉、それが紡がれた。
もっとも、愛しく想う少女の唇から。
一瞬の、驚愕。
「何時から……?」
「学校で、アンタに助けてもらった時からかな」
彼の手が、少女の背中のあたりを空しくさまよう。
迷う、このまま彼女を抱きしめて良いものか。
「逢いたかった、忘れていたけれども、ずっと心のどこかに違和感を感じていた、何か足りないって、逢いたかったよ」
彼女の蒼い瞳が、彼の心を貫く。
強い強い想いが、胸に湧き上がる。
もう限界だった、自分の想いを押さえるのは………
あまりの想いのため、少女の瞳から一粒涙が零れる。
その瞬間、彼の体は動いていた。
気がつけば、彼は彼女を強く抱きしめていた。
もう二度と離さない様に、ぎゅっと、大切な何かをその胸に抱きしめるように。
空を舞う桜の花弁。
病室の窓から、それを見つめる少女が一人。
「それで、貴方が微笑んでいられるのなら、私は……」
誰に言うのでもない、少女の独白。
少女の瞳から一瞬、零れて落ちる一滴の水滴。
「でも、今だけ」
止めようの無い、涙が零れて落ちる。
「僕は……僕は……」
想いが溢れる、言葉を出す事でさえもどかしい。
彼らを下から見上げる月夜は、何時もと違う優しい瞳で二人を見つめている。
「ん……」
そっと、少女は彼の胸に体を預ける、その体の温もりを確かめるように。
そこに少年がいるのを確かめるように……
愛しい人が、大切な人がそこにいる事を………
彼女は潤んだ瞳のまま、彼の顔を見上げる。
「ねえ、もう一度聞かせて、あの時シンジが最後に言った言葉」
「アスカ………」
交錯する、黒と蒼の瞳。
想いが、願いが交錯する。
何時に無く真剣な瞳で、彼を見上げながら彼女は言う。
「そうしたら、アタシの答え、聞かせてあげる」
それは一瞬、それとも永遠?
二つの想いはゆっくりと重なるべく動き出す、本来あるべき場所に向かって。
「アスカ、ありがとう、好きだよ、大好きだよ」
そして、想いは紡がれた。
「アタシもシンジの事、大好き、大好きだよ」
夢じゃないか、一瞬、彼の脳裏にそんな考えが過ぎる。
あまりにも、彼の望んだまま、事が進むのだ。
そう彼が思っても不思議はない、でも、そこに確かに彼女はいた。
彼の腕の中に、愛しい人が、命に代えても守りたいと思った人が……
「アスカ、僕は………」
何かを言いかけたシンジに対し、アスカはその指で彼の唇を塞ぐ。
「チャラにしておいてあげるわよ、二回見捨てて、二回助けてくれたんだから、でも、もう後はないわよ、ばかシンジ」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらアスカは言う、もう、何も言わずシンジはアスカのその身を抱き寄せる。
狂おしいまでに求めた人がそこにいる、ただそれだけで満足だった。
想いに答えてくれたその人が……
「シンジ……」
「アスカ……」
互いの視線が交錯し、そして二人の距離はゆっくりと近づいて行く。
二人の唇が重なり合うほんの数瞬前、二人の唇が紡いだ言葉は、奇しくも同じ言葉。
「「愛してる」」
それが、永遠とも言える時間への旅の始まり
そう、この一言を胸にシンジは生き続ける
千年の時を……
To Be Continued
後書き
ようやくここまで辿り着きました。
永遠の時の果てで、第二十七話です。
想いはついに結ばれました、はあ、普通だったらこの後エピローグの一つも書いてそこでお終いなんですが、このお話はまだまだ続きます。
よろしかったらお付き合い下さい。
では、恒例となりました次回予告を一つ
時は2017年
使徒との戦い、人類補完計画も頓挫した世界
しかし、悪夢は終わらない
自らのマリオネットに操られていた老人達
一人の科学者の狂信
それが生み出すのは悪夢の種
それは千年の後に花開き銀河に再び悪夢をもたらす
希望
紅き巨人に託される
一人の科学者の贖罪
それらは全て千年の後に待つ物語への布石なのか
次回
永遠の時の果てで
第二十八話
希望
(第弐拾八話へ続く)
(第弐拾六話へ戻る)
( T - T )イカス←(笑) というわけでJ−wingさん27話ありがとうございますー。\( > 0 < )/おまたせしやしたー ハッピーエンドか!?と思うような今回の展開。やっとここまで来ましたね〜。(● ̄▽ ̄●)うひひ<ヲイ サキちゃんはちょっと可哀相ですが、生きてたのでとりあえずオッケー。(爆) しかし、ここからが本当の始まりなんですね〜。一体どうなってしまうんでしょうか。 |
J−wingさんへの感想はここです。
または簡単感想用掲示板へどうぞ。
◎感想用フォームです。2,3行の感想でも作者さんは嬉しかったりするのだ。