ネルフ本部施設内、第壱宴会場。

ここでその宴は開かれていた。

……え、何?……ホントにそんな部屋があったのかって?

……もういいの、あったの!……あったことにして!お願いだから……。

 

突然碇司令から「総員集まれ」の命令があったかと思うと、次は「飲め」の一言。

命令とはいえただ酒が飲めることには変わりがないと云うことで、皆わけが分らないながらも各々

思い思いに酒を楽しんでいた。

……一番喜んでいたのが葛城三佐であったことは語るまでもない、ですね、はい。

 

 

 

とはいえ、チルドレンたちはその名のとおりの子供たちである。

酒を飲めるでもなく、周りの大人たちに付き合いながらつまみをかじり、ジュースをすすっていた。

 

「あ〜あ、つまんないのっ」

アスカが声を上げる。

「どうしたのさ、アスカ」

律儀に応えるのはシンジ。

「だってぇ、みーんなお酒飲んでるのにアタシたちだけジュースなのよっ!

つまんないじゃな〜い!」

……そ、そうなのか…?

「だ、だけどさ。僕たちは未成年だからお酒は……」

「はんっ。ドイツじゃ子供だってワインくらい飲んでるわよっ?

あ〜ん、わたしもちょっとくらい飲みた〜い」

「あら、だったらちょっとだけ飲んでみる?

……保護者である私が許してあげるわよん」

会話に入ってきたのは件(くだん)の酒豪、葛城ミサト。

シンジとアスカの保護者である。

が、しかし。

「あ、ダメですよ、ミサトさん。未成年にお酒なんか飲ませたら」

「あら〜、シンちゃんって意外とお堅いのねぇ。

いいじゃん、この私が許すって言ってんだからぁ。

……それにほら、もうアスカ飲んじゃったわよ?」

その言葉に横を見てみれば、赤ワインの入ったグラスを傾けているアスカの姿が目に入った。

「ア、アスカ……ひょっとして一気に飲んじゃったの?

……だ、大丈夫、アスカ…?」

 

「……ふぅ…ミサトぉ?……これ、結構いけるじゃない……おいしかったぁ…」

顔を多少赤らめ、たおやかに言うその様子はいつものアスカとは打って変わってどことなく悩ましげだ。

シンジはそんなアスカの様子に何故か顔を赤くしてしまった。

アスカはミサトにもう一杯を注文しながらそのついでに尋ねてみた。

「ねぇ、ミサト?今日こうやって宴会開いてるのはなんでなの?

これって何のパーティーなわけぇ?」

そのアスカの問いにミサトは少々意外そうな顔をする。

シンジもずっと気になっていたことだ、興味深げにミサトの答えを待っていた。

「あれっ?あなたたち知らなかったの?

……今日はね、『ドラえぽんのLASですか?LASだってば!』っていうHPが35万ヒットを達成したお祝いを

してるのよ」

 

 

 

35万 Hit Over & 一周年 おめでとう特別企画SS

トリンク!トリンク!

〜Trink!Trink!〜

Written by Arts

 

 

 

「……それってア、アタシとバカシンジが…ラ、ラブラブなお話がいっぱい掲載されてるHPでしょ…?」

「ラブラブ」の部分はさすがに声が小さくなってしまう。

アスカの顔は既に夕焼け空のように真っ赤になっていた。

……ワインのせいだけではない、当然。

気が付けば隣りに立っているシンジまで真っ赤に染まっている。

真っ赤な二人を見比べるようにしていたミサトは、ニヤリと笑った。

「ねえねえ、シンジ君。

お話の中じゃアスカとあんなに仲がいいけどさぁ。

……ホントのところは、どうなの?」

 

その言葉にますます顔を赤らめるシンジ。

人の顔とはどこまで赤くなるものか調べてみるいい機会かもしれない。

そんな馬鹿げたことをミサトはふと思った。

「……い、いや……あ、そ、その……ぼ、僕は……」

突然のことに動揺しまくるシンジ。

どもってしまって一向に言葉は口から出てこない。

「あら〜、照れちゃってかっわいいの!

……やっぱりシンちゃんはアスカのことが好きなんだ」

「え!い、いや、あ、あの…その……」

真っ赤な顔で言い訳しようとするが、それすらも叶わないシンジ。

ミサトは意地悪い口調で更にからかってみる。

「え?それともシンジ君はアスカよりもレイの方が好みなのかしら?

……いつだったか、レイのことジーっと見てたもんねぇ…?」

 

「ミ、ミサトさん!」

シンジがたまらず大声を上げたその時だった。

「碇君……わたしと一つにならない…?

……ココロもカラダも一つにならない…?

……それはとてもとても気持ちのいいことなのよ…?」

突然レイがシンジたちの前に現れた。

赤くなった頬とフラフラとした足取り、加えて焦点が合わず辺りを彷徨う視点から察するに、どうやら

先にミサトに飲まされていたらしい。

酔っぱらっているからであろう、冷静で無表情な普段の彼女からは想像もつかない行動に出た。

つまり、シンジに抱きついたのである。

 

「!!……あ、綾波!?

ちょっと?どうしたの!?」

やっぱり動揺しているシンジ。

そして。

彼の横には赤鬼が、もとい、怒りに燃えた紅い少女が一人立っていた。

「ちょっと、アンタっ!

なにシンジにくっついてんのよっ!離れなさいよ、ほらっ!!」

アスカがレイをシンジから力任せに引き剥がす。

が、レイは再びシンジにしがみつくと、アスカに向かってこう言ったのだった。

「……何をするのよ。

……碇君はわたしと一緒になるの。

……あなたはもう用済み。さよなら」

「な……。

な……。

な……なに勝手なこと言ってんのよぉおおおおおおお!!!!」

――アスカ、爆発。

もう誰にも彼女を止められない。

先程とは違う理由で顔を真っ赤にしてアスカが怒鳴る。

「こらっ!!いい加減、離れなさいよっ!!

……バカシンジもボサボサっとしてないで早くコイツと離れなさいよっ!」

シンジにまで火の粉が降りかかってきた。

このままでは大変なことになると感じたシンジは慌ててレイを説得にかかる。

「あ、綾波、ちょっと離れてくれないかな……。

でないと、僕、大変なことになるような気がするんだ……」

……弱気だねぇ、シンジ君……。

が、レイの方はと言えば一向に気にかける様子はない。

ますますシンジの腕にしがみついてゴロゴロと喉を鳴らしている。

「きぃっ!いい加減にしなさいよ、この人形女がっ!!」

「……あなた……さみしいの?

でも、だめ……碇君はわたしのもの」

「ふ、ふ、ふざけんじゃないわよぉおおおおお!!!!」

今、シンジをはさんで戦争が勃発した。

 

「や、やめてよ、アスカ!

ほら、綾波もいい加減に離して!」

そうやってシンジが二人をなだめ、事態の沈静化を図っていた時、それは聞こえてきた。

♪フンフンフンフンフーーーンフフン〜♪

だ、第九……。

誰もがこめかみに大きな汗を一粒流した時、その声は聞こえてきた。

「歌はいいねぇ……ふふっ、歌は心を潤してくれる。

リリンの生み出した文化の極みだよ。

そう感じないか?碇シンジ君」

「カヲル君!」

「出たわね、ホモ男!」

シンジとアスカが同時に叫ぶ。

……それにしてもカヲル君、他に登場の仕方はないのか?

「やあ、シンジ君、なにやら楽しそうだね」

アスカの言葉は完全に無視。

……そうなると当然、こうなるわけで……。

バコッ!!

後頭部をアスカに強打されたカヲルは見事に顔面から地面に着地した。

「カ、カヲル君!?」

さすがに焦るシンジ。

が、事も無げにカヲルは立ちあがって乱れた髪をかきあげる。

「……何をするのかな?セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー君?」

「……このアタシを無視するとはいい度胸してんじゃないのよ。

って、こんなバカにつきあってる暇はないのよ。

今は何とかしてファーストを排除しないと……」

本来の目的を思い出して再びレイ排除にいそしむアスカ。

カヲルはそんな三人の様子を一瞥すると、シンジに向かってこう言ってのけた。

「ふむ……シンジ君、君は随分と女性にもてるみたいだね。

まったく君という人は……コウイに値するよ!」

ガバッ!

言葉とともにシンジにとびつくカヲル。

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

「きゃあっ!!」

どんがらがっしゃーん!!

三人、いや、とびかかったカヲルを含めて四人はその場に倒れこんでしまった。

 

 

 

「う、う〜ん…はっ!?」

いち早く気が付いたシンジはあたりの状況を確かめる。

右手にアスカ、左手にレイ、そして足下にはカヲルが倒れこんでいる。

ピクッ……。

カヲルの手が動く……。

「……シ、シンジ君……コ、コウイに…値する……コウイしなくては……」

まるで地獄の底から聞こえてくるような声。

シンジは身震いした。

……いや、ホントの話これは怖い。

(カ、カヲル君……コウイって……字が違ってるんじゃないか〜!!)

シンジは急いで立ちあがると扉に向かって全力疾走した。

 

 

 

* * *

 

 

 

「う〜ん……はっ!シ、シンジっ!?」

アスカが目覚めた時には既にシンジの姿はなかった。

レイが隣りでのびている。

あのホモ男は……いない。

アスカは事の重大性を一瞬にして理解した。

おそらくシンジはカヲルの魔の手から逃げているのだろう。

こうなればレイのことを四の五の言っている場合ではない。

何せ男のカヲルにシンジを奪られたとあっては笑い話にもなりはしないのだから。

レイの頬を軽く叩きながら怒鳴る。

「ほらっ、起きなさい、ファースト!

……シンジの一大事よっ!!」

「う、う…ん……あっ、碇君は!?」

「起きたわね、ファースト?

……シンジは今あのホモ男に追われているものと思われるわ。

ここは一時休戦して、シンジの救出に出かけるわよ?いいわね?」

「うん……わかった」

こうして、ここに最強のタッグが形成された。

 

 

 

「はぁ、はぁ…………」

息が荒いシンジ。

カヲルが起きあがる直前ではあったが何とか部屋を脱出することに成功した。

カヲルの追跡を振り切るために全力疾走を続けていて、さすがに息が切れてきた。

後ろを振り向くが、誰もいない。

何とか助かったかな……そう思って振り向いたとき誰かにぶつかってしまった。

「わっ!」

尻餅をついて倒れこむシンジ。

「あら、ごめんね、シンジ君」

ぶつかった相手はミサトであった。

よいしょ、と声をかけながらシンジの手を引き起こしてやる。

シンジはミサトにぶつかった非礼を詫びた。

「あ、すいません、よそ見してて……」

「ああ、べつにいいわよん。

それよりシンジ君はどうしたの?アスカやレイは?」

「ああ……実は逃げてきたんです、カヲル君から」

「フィフスの少年から?」

「ええ……あのままだと僕の身が危険だと思ったので……。

アスカたちはまだ寝てると思いますけど」

ふ〜んと気のない返事を返すミサト。

だが、その実彼女の頭脳は極めて活発に働いていた。

(ってことはぁ……邪魔な奴らはここにいないってことね……)

 

「ねぇ、シンジ君?」

ミョーに猫なで声のミサト。

思わず半歩後ずさりしてしまうシンジ。

それを追い詰めるようにしてミサトが近付いてきた。

「ねぇ、シンジ君?」

再び呼びかけるミサト。

「な、何ですか、ミサトさん?」

再び半歩下がるシンジ。

「……ねぇ、あの時のこと、覚えてる?」

「あ、あの時?」

「サードインパクトが起こる前、あなたを初号機のところに連れて行った時のことよ」

「あ……」

思い出して顔を赤らめるシンジ。

間違ってもアスカには言えないのだが、シンジはミサトとキスしたのだ。

……しかも「大人のキス」というやつを。

照れて赤くなるシンジにミサトは満足そうな笑みを浮かべた。

「へへ……んでね、あの時言ったじゃない……。

『帰って来たら続きをしましょう』って……。

……シンジ君…?今からあの続きをする…?」

シナを作ってシンジを誘惑するミサト。

そのままシンジの頬を両手で包み込むとゆっくりと唇を彼のそれに近づけていく。

シンジはこれ以上できないというほど顔を赤らめ、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。

そしてミサトとの距離がゼロになろうかというその時。

「……ちょっとぉおお!!ミサト!何やってんのよっ!!

それから『続き』って何よ、バカシンジ!?

そこで待ってなさいよ、キッツ〜イお仕置きが待ってるからねっ!」

「葛城三佐……必ず殲滅……。

碇君はわたしが守る……」

 

シンジの背後から怒号と足音が襲ってきた。

「げっ!」

その迫力に気圧されたのは決してミサトだけではなかった。

ミサトの一瞬の隙をついてその場を逃げ出すシンジ。

「コラ〜、待ちなさい、シンジっ!!……フンッ!」

「碇君……どうして逃げるの……?……ハッ!」

少女たちは通りすがりに一撃をくらわせてミサトを沈黙させると、そのままシンジの後を追った。

……カヲルからシンジを守る、というのは既に有名無実となっているようだ。

……要するに、シンジ君にちょっかい出すやつは全員殲滅されるってことね……。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

息があがっているシンジ。

しかしどうやらアスカたちを引き離したようだ。

……カヲル君から逃げてたんじゃなかったっけ?

…………いや、アスカたちも十分怖かったか……。

「ふぅ……」

と、一息ついたとき不意に彼の名を呼ぶ者がいた。

「あら、シンジ君じゃない」

「……マヤさん」

顔を上げた先には書類の束を胸元に抱えたマヤが立っていた。

 

「どうしたの?そんなに息を切らせて?大丈夫?」

気遣うようにシンジの肩に手を当て、顔を覗きこむマヤ。

(マヤさんって……優しくっていい人だな……)

そんなことを思って少し頬を赤らめるシンジ。

その間もマヤは心配そうにシンジの背を撫でたりしている。

「あ、もう大丈夫ですから……」

「あ、あら、そう?」

なぜか物足りなさそうな様子を見せるマヤ。

シンジの背中に伸ばした左手は今は彼の右腕に絡められている。

「あ、あの……マヤさん?」

シンジが不思議そうに。

慌てるマヤ、しかしその手はシンジの右手をとって離さない。

さすがにシンジも気になってきた。

……どうもマヤは自分の体にべたべたとよく触る。

……そして、なかなか離そうとしてくれない。

「あ、あの……マヤさん?」

シンジがもう一度マヤに呼びかけたその時。

「シンジぃーー!その女はショタよーー!!」

「碇君…逃げて!」

 

シンジの背後から怒号と足音が襲ってきた。

「げっ!」

その迫力に気圧されたのは決してマヤだけではなかった。

慌てて手を放すマヤ。

……が、時既に遅し。

シンジは一言呟くと一目散に走り出した。

「マヤさん……不潔……」

ガーーーン!!

シンジに嫌われたことに加え、自分の決め台詞を奪われたマヤはショックでその場で石化した。

「……ちょっとぉ!?シンジぃ、アタシから逃げることはないでしょう!?」

「碇君……どうして…?」

通りすぎるときに一撃を加えていこうかと思った少女たちであったが、完全に石化しているマヤを見て、

やめた。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」

肩で息をしているシンジ。

が、その甲斐あってアスカたちから逃げおおせたようだ。

壁にもたれかかり、そのままずるずると座り込んでしまう。

よほど体力を消耗したらしい。

「あら、シンジ君じゃない。こんなところで何してるの?」

ビクッ!

慌てて跳ね起きるシンジ。

……さっきまでのことがよほど効いているらしい。

……ある意味、憐れだな……。

「ど、どうしたのよ、シンジ君?」

驚いてそう声をかけるのは金髪黒眉毛の赤木リツコ博士。

……アブナイ研究で有名なお人だ。

「何か言った?」

……いえ、何でも……。

 

「どうしたの、シンジ君?

そんなに息を切らせて……おまけに汗だくじゃない?」

「いえ、何でもないです。

……ちょっと、走って疲れただけですから……」

リツコの言葉にそう曖昧に誤魔化しながら答えるシンジ。

リツコはシンジの様子をしばらく観察していたが、ふと何かを思い出したように白衣のポケットを探り

出した。

「ええと、確か……あ、あったわ。

……シンジ君?走って疲れたって言ったわね?」

「え、ええ……」

ずい、と一歩前に踏み出したリツコに押される形で後ずさるシンジ。

彼女の手に持たれた薬ビンが気になるところだ。

「ふふふふふ……そんな時のために『いいクスリ』があるのよ……。

さぁ、シンジ君?この薬を飲んでごらんなさい。

そうすれば、そんな疲れなんて吹っ飛んでしまうわよ……?」

ミョーに明るい蛍光ピンクの液体の入った薬ビンがちゃぷん、と音を立てた。

……こ、怖い……。

碇シンジはその時その言葉しか思い浮かばなかったと後に語っている。

 

「さぁ、シンジ君。さっさと飲みなさい?

……ああ、大丈夫よ、動物実験はちゃんとやってるから。

カエルとウサギとサルに与えてみて、カエルとウサギは無事だったから……」

「サ、サルは……?」

「……サルは元気になりすぎて狂暴化したから、殺っちゃったわ……。

でも、そんなこと瑣末なことに過ぎないわ。

ちゃんと改良も加えたし……更にパワーアップしたから……」

……さらっと恐ろしいことを口になさるお方だ。

……こ、怖い……。

碇シンジはその時その言葉しか思い浮かばなかったと後に語っている。

 

シンジの命ももはやこれまで、と思ったその時。

「リツコぉおお!!アンタ何シンジで人体実験しようとしてんのよぉおおお!!

シンジもいい加減、そこで待ってなさいよ!!

……でないと、本気でコロスわよ!!」

「赤木博士……あなたも敵なのね……」

 

シンジの背後から怒号と足音が襲ってきた。

「げっ!」

その迫力に気圧されたのは決してリツコだけではなかった。

慌ててリツコをはねのけて駆け出すシンジ。

「こらぁー、バカシンジ!まだ逃げるかぁーー!!」

「碇君……」

二人はそのままシンジを追って行こうとしたが、パッと止まってリツコの方を振り向いた。

「……な、何かしら…二人とも……?」

怯えるリツコ。

手に持った薬ビンがチャプチャプと音を立てている。

「……アンタ、さっきはよくもシンジで実験しようとしてくれたわね…?」

「赤木博士……許さない……」

二人の背後に怒りのオーラがきらめいて見える。

「ちょ、ちょっと待って、二人とも!!

ち、違うの、こ、これは……ぐふっ!!……ガハッ!……」

……ドサッ……。

言葉途中で倒れこむリツコ。

見下すように冷たい目で見ていたレイがぼそりと言った。

「……ばあさんは用済み……」

……ガクッ。

リツコ、再起不能。

二人はそれを見届けるとすぐさまシンジの後を追って駆け出した。

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…はぁっ…はぁっ……」

ほとんど走ることもできず、フラフラと廊下を歩くシンジ。

完全に下を向いてしまい、前方の二つの人影にはなかなか気が付かなかった。

自分の足下にその影が届いた時、ようやく気付いて顔を上げる。

そこには父、碇ゲンドウ・ネルフ総司令と冬月副指令が立っていた。

 

「どうした、シンジ」

相変わらず威圧的な喋り方をするおっさんだ。

シンジは応えない。

いや、疲れ果てて応える気も起こらないのだ。

「……シンジ…」

ゲンドウが何かを言いかけたその時。

「いたわね、シンジ!!いい加減にしなさ〜いっ!!!!」

「……もう逃げないで、碇君……」

 

シンジの背後から怒号と足音が襲ってきた。

「げっ!」

その迫力に気圧されたのは決してシンジだけではなかった。

アスカとレイのあまりの勢いに腰を抜かし、その場にへたりこむゲンドウと冬月。

それとは対照的にもつれそうになる足を必死に動かして逃げるシンジ。

紅と蒼の影は座り込んだおっさんとじーさんを一顧だにせず通り過ぎていった。

ひゅううぅぅぅぅーー……。

一陣のさむーい風が二人の間を抜けていく。

「待ちなさいよーー!……」

「碇君……」

既に遠くなった叫び声を耳に、ゲンドウは言った。

「ふっ……すべてシナリオどおりだ……」

傍らの冬月がため息まじりに言う、いや、言ってやるのだ、仕方なしに。

「碇……俺のシナリオにはないぞ?」

「ふっ……問題ない……」

ゲンドウの声はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ、…………」

もはや息も絶え絶えなシンジ。

走ることなど到底かなわず、今は重い足を引きずるようにして歩いている。

……も、もう、ダメだ……。

意識が薄らいでそのまま倒れこもうとした時、何者かに体を支えられた。

うっすらと目を開いてみる。

そこにいたのは……。

「……よっ。大丈夫かい、シンジ君」

「加持さん……」

シンジはようやく信頼できる人に巡り会った。

 

「そうか……それは災難だったな……」

シンジを壁にもたれさせて座らせながら、加持は事の顛末を聞いていた。

「はい……アスカも綾波も……怖いんです。

カヲル君も……ミサトさんもマヤさんも……。

違う意味でリツコさんは怖かったです……」

ちょっと思い出して涙目になるシンジ。

……一生のトラウマにならなければいいのだが。

「シンジ君……」

加持が何事か言いかけたその時。

「シンジーっ!もう逃げたら承知しないわよーー!!」

「碇君……もう逃がさない……」

 

シンジの背後から怒号と足音が襲ってきた。

「げっ!」

その迫力に気圧されたのは決して加持だけで…がしっ…って、あれ?

加持は立って逃げ出そうとするシンジの手をぐっと掴むと、そのまま取り押さえた。

……加持さん……気圧されてないよ……。

 

「か、加持さん!?どうして!?」

「すまないな、シンジ君……彼女たちに頼まれてしまってね……」

必死に抵抗して抜け出そうとするが、大人と子供の力の差は歴然である。

ましてや相手はあの加持である。

シンジごときが加持から逃れることは不可能であった。

「や〜っと捕まったわね、バカシンジ」

「碇君……どうして逃げたりしたの?」

気が付けばアスカとレイがシンジの前に仁王立ちしていた。

 

 

 

* * *

 

 

 

「さて、ようやくゆっくり話ができるわね、バカシンジ」

ギロッと睨みつけるようなアスカの目線。

相手を射殺すようなその視線にシンジはすくみあがった。

「……どうしてわたしたちから逃げたりしたの?」

静かにレイが問う。

どことなく殺気だっているような気がしてシンジは縮み上がった。

「だ、だって……二人ともものすごい形相で追いかけて来るんだもん……」

ぼそり、とシンジが零す。

「……そもそもアンタはどうして逃げてたのよ?」

そう問うたのはアスカだ。

「あれ……なんでだったっけ………?」

苦笑いで誤魔化すシンジ。

「アンタバカァ!?

……あのホモ男から逃げてたんじゃないのぉ?」

「あ、そうか、最初はカヲル君から逃げてたんだ……。

でも、そのうちアスカと綾波の方が怖くなって……」

「アンタね、こんな美少女をつかまえてどーして怖いなんて言えるのよっ!」

ぐぐっと顔を近づけてそう一喝する。

……十分怖いと思います。

「外野は黙ってなさいっ!!」

……はぅっ!

 

「そもそもアンタがはっきりしないのがいけないのよ」

アスカがそう断言する。

「……え?な、何をはっきりさせるの?」

わからないのはシンジの方だ。

「そ、そもそも事の発端は……ア、アンタが誰を好きかはっきり言わなかったからじゃないの。

……そ、それをはっきりさせてしまえば、何も問題は起こらなかったのよ」

顔を真っ赤にさせて、小さな声で、しかしはっきりというアスカ。

レイもその横で顔を赤らめながら頷いていた。

アスカの言葉を聞いたシンジは一瞬で顔を真っ赤にさせてしまう。

どうやら好きな人がいない、というわけではなさそうだ。

アスカもそれを察して言葉を続ける。

「さぁ……はっきり言いなさい。

……アンタは…誰のことが本当に好きなの……?」

若干言葉が震えているのがわかる。

強気な態度、キツイ口調をしたところでアスカも女の子なのだ。

 

「ぼ、僕は……」

ゴクっ……!

唾を飲む音が静かに響く。

「ぼ、僕は……」

次の言葉を聞き逃すまいと自然前のめりになるアスカとレイ。

「ぼ、僕は……あ…」

緊張がピークに達したその瞬間!

 

「シンジ君、こんなところにいたのかい?

……さあ、僕のコウイを受け入れておくれ!」

「か、カヲル君!?」

突然現れたカヲルはシンジに跳びついたのだった。

「や、やめてよ、カヲル君!」

気が付けばシンジのシャツは前がはだけられている。

「……さあ、僕のコウイを受け入れておくれ!」

「い、いやだーーー!!」

シンジが泣こうと叫ぼうと聞いちゃいないカヲル。

憐れシンジ、このままカヲルの魔の手に落ちてしまうのか!?

そう思ったその時。

 

「だめぇ!!」

アスカの声が辺り一帯に響き渡った。

次の瞬間にはカヲルを突き飛ばし、しっかりとシンジを抱きしめているアスカの姿があった。

「だめぇ!

……シンジはアタシのなの……!

……大好きなの…シンジのこと……絶対、誰にも譲れないのぉ……!」

その蒼い瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

アスカの想いの結晶は胸に抱かれたシンジの頬に降り注いだ。

 

シンジはゆっくりと身体を起こすと、アスカの涙を拭ってやる。

そして。

確かな声で彼は言ったのだった。

「僕は……アスカのことが好きだ。

……アスカを愛してる……」

目を大きく見開いて、その言葉をかみ締めるアスカ。

そして、彼女は彼に抱きつきながら大声で言った。

涙まじりの声で言った。

「シ、シンジぃ……アタシも大好きだよぉお……。

ありがとう、シンジぃ……」

 

パチパチパチパチ…………

その拍手の音に二人は驚いてまわりを見渡した。

加持とレイだけではない。

ミサト、マヤ、リツコ、それにゲンドウと冬月の二人まで。

いつの間に集まったのか、シンジとアスカを取り囲むようにして拍手を送っていた。

 

「おめでとう」

加持が二人に言葉を送る。

静かに、しかし力強く。

「おめでとう」

ミサトがその後に続いた。

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

リツコ、マヤ、冬月、そしてレイまでが二人を祝福していた。

そして最後に。

「……おめでとう」

静かにゲンドウが言った。

 

「「ありがとう」」

二人は同じ言葉を口にしていた。

やっとつかんだこの想いを逃すまいと、抱き合う二人。

幸せとはかくやあらん、という風景だ。 

 

……世はなべて平和である。

 

 

 

照れながらも抱き合ってお互いを離さない、幸せ絶頂の二人を見ながら碇ゲンドウはその横に立った男

にニヤリと笑って言ってみせた。

「ふっ……シナリオどおりだ」

冬月が苦笑しながら応える、いや、応えてやる。

「碇……『問題ない』か?」

台詞を先に言われてしまったゲンドウ。

が、それでも動揺を隠して……

「あ、ああ、も、問題ない……」

言葉が少し震えてしまった。

 

……世はなべて平和である。

 

 

〜おわり〜

 

 

……先程生まれたカップルを祝福しながらすべての人が去って行った後。

そこには床の上に倒れこんだカヲルが一人、取り残されていた。

見るとその首はふつーは曲がらんだろうという方向に曲がっている。

さすがの彼も沈黙を守っているようだ。

 

……世はなべて……へ、平和…なのかなぁ……?

 

 

〜ホントにおわり〜

 

 


おまけ

 

独房に一人の男が拘束されている。

椅子に腰掛け、深くうなだれて表情は見えない。

彼の背後でネルフのマークが壁に赤く光っていた。

と、ドアの開く音が聞こえる。

そして。

……カツン、カツン。

足音とともに一人の男が入ってきた。

――男の名は、碇ゲンドウ。言わずと知れた、ネルフ総司令である。

 

「……碇司令」

椅子に腰掛けた男は顔も上げず、呟くように彼の名を呼んだ。

「……35万ヒットを超えたんです、ドラえぽんさんとこのHPが。

30万の時にお祝いもしなかったのに、もう35万を越えたんです」

 

碇が低い声で静かに問う。

詰問する様子ではない、が、しかし、告げられた言葉はその場を圧倒した。

「――何故、こんな中途半端なSSを書いた?」

 

「……中途半端ではありません。

予定では「ほのぼの〜」としたちゃんとした話になるはずだったんです」

椅子に腰掛けた男がそう答える。

 

が、碇はその答えを無視して。

「今一度問う。何故だ」

 

男は小さなくぐもった声で答えた。

それは自らを嘲(わら)うかのように。

「無理にギャグに走っても嬉しくなくなったから」

 

意味不明の言葉にさすがの碇も沈黙するしかない。

だが、その男は碇の沈黙に逆らうように声を荒立てた。

「私のSSを好きにしたらどうです……あのときみたいに!」

 

碇はこめかみに一筋汗をたらしながら、それでも冷静を装って言葉を吐き出した。

「……君には失望した」

 

「失望!?」

皮肉な響きの声を上げ、ようやく顔を上げる男。

「最初から(私のギャグセンスには)期待も望みも持たなかったくせに!

私には何も!何も!何も!」

 

最後には絶叫するかのようになってしまった言葉から逃げるように、碇は黙ってその場を去った。

残された男は再び目を伏せ、うなだれる。

そして、零れ落ちる言葉は。

 

「……どうしたら、どうしたらいいの、ドラさん」

 


あとがき

ああ、中途半端。結構長いくせに。(苦笑)

こんなんでいいのかなぁ?ドラえぽんさん、こんなんで許して頂けますか?

ギャグのセンスがないというのは大阪人としてまったく情けない限りです。

タイトルの「トリンク!トリンク!」ですが、クライズラー&カンパニーに同名の曲があります。

最初はこれをイメージして「ほのぼの〜」な話を作るつもりだったのですが、どこをどう間違ったのか

こんなまとまりのない話になってしまいました、お許し下さい。

おまけに関してはノーコメント。書き終わった時の心境です。

ほんとにごめんね、中途半端で。

最後になりましたが、ドラえぽんさん、35万Hit&一周年、本当におめでとうございます。

これからもがんばってください。

……ご意見、ご感想をお待ちしています。


悩ましげなアスカ様......イカス。\(●> _ <●)たまらん<ヲイ

というわけで、ArtsさんHP1周年&35万HIT記念ありがとうございますー。\( ^ _ ^ )

いやー、それにしてもネルフに1周年を祝われるとは思いませんでした。
このHPもそろそろアレですな。<ドレダ(笑)

ところで、カヲルの登場タイミングが前編通して絶妙ですな。コウイが良いッスね、コウイが。(笑)

ミサトとマヤのショタっぷりも目に浮かぶようで、笑えるッス。うひひひ

それにしても次から次へと、シンジ君も節操なく襲われるなあ。.....まあシンジ君だからアリだな。<ヲイ

殺っちゃってるリツコさんもいい感じですな。(ニヤリ)

なんだかものすごくスピード感があっておもろかったッス。こんだけ短時間にたくさん障害を乗り越えると、やはり盛り上がりますね〜。

さあ、楽しい記念LASを書いてくれたArtsさんに感想を出しまくって、またゴロゴロさせてもらっちゃおー。\( ^ 0 ^ )だー

Artsさんへの感想はここです。

または簡単感想用掲示板へどうぞ。

感想用フォームです。2,3行の感想でも作者さんは嬉しかったりするのだ。

ここから是非感想を送るのだー。\(●> _ <●)おーっ

名前(必須ナリ)

メールアドレス


お題を選択


ご意見その他はここへ

自動的には改行されませんので、適宜改行して下さい。
メールの場合、大体1行当たり半角72文字前後が目安です。

送信前に確認表示を表示する。