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episodes in the juke box
song#02:Crazy Rendezvous
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side:B
その夜、シンジは眠れなかった。
先刻のミサトの言葉が頭の中を駆け巡る。
『そうやって他人を思いやっているつもりになっても、自分の本心に嘘をついて考えることなんか所詮、偽物だわ。
それは他人のことを思っているんじゃない、自分のことしか考えていないのと同じよ』
ミサトの顔が思い浮かぶ。
(ミサトさん……、真剣な顔つきだったな…。
……。
……自分の本心か…)
ベッドの上で寝返りを打つ。
カーテンから洩れる月明りが、身を刺すような痛みを与える。
……痛んでいるのは、心。
……傷つけているのは、自分。
(……どうしたらいい、どうすればいいんだ…)
自責、恐怖、困惑、苦痛、依存、そして、自己嫌悪。
様々な感情が渦巻いて、シンジは身動きすらできなかった。
『自分から可能性を捨てて、今の状態を守ることに必死になっているのね』
ミサトの声が響く。
『そうやって自分を守ってばかりいて、本当に大事なものを失ってから悔やんでも仕方ないのよ』
(本当に大事なものって何だ…?
……それは…、アスカ…。そうアスカを失うのだけは、いやだ)
目を開き、天井を見つめる。
(でも、どうしたらいい…?
……。
……。
ミサトさんは言った。『今を守ってばかり』だって。
アスカのことを考えてるつもりになって、自分を守ってただけだって。
……。
……そうかもしれない。自分の気持ちを隠して、守ってばかりだったのかもしれない。
嫌われないように、ただそれだけを考えて……。
……。
じゃあ、どうする?
今までと変わらない、このまま守っていくだけでいいのか?……違う!
このままじゃ、ダメだ。……そう、いつまでも、逃げちゃ、ダメだ)
空は次第にその輝きを取り戻し、一日の始まりを告げようとしていた。
* * *
翌日、シンジはいつもの時間になっても姿を見せなかった。
加持家の朝食は遅い。ミサトに言わせれば「仕事をする気があるのかないのか」という程に。
実際、加持の店は開店の時刻が他に比べても随分と遅かった。その意味でサービスが他店に劣ると言われても仕方はなかろう。
が、それでも馴染みの客が幾人もいるのである。
店主とその妻の人柄がなせる業と言えるのかもしれない。
その遅い朝食は、結局一人少ないまま終わってしまった。
食後の会話もなく、ただ静かに紅茶を飲む三人。
そして、軽い挨拶を残して、彼女は自室へと帰っていった。
残された夫婦がつぶやくように。
「……結局、シンちゃんはどうするつもりなんでしょうね」
「……さぁな」
「…さぁな、ってアンタ。気にならないの?」
「俺たちが気にしても仕方ないだろう。シンジ君が自分で考えることだ」
「それは、そうだけど……」
「……シンジ君を信じてやれよ。彼ならきっと…」
「…………そうね。
…さてと、さっさと片付けて、仕事に行きましょ。あんな店でも開くの待っててくれるお客さんがいるんだからね」
「おいおい、あんな店はないだろ」
どうやら彼ら二人の下にはいつもの喧騒が戻ってきたようだ。
* * *
自分の部屋に戻ってきたアスカ。
時間から言えばそろそろ支度をしないと二見との約束に間に合わなくなってしまう。
…が。彼女はベッドに倒れこむとしばらくの間枕に顔を埋め、吐き出すように一言、つぶやいた。
「……いくじなし……」
半時ほど経って、ようやくアスカは起き上がった。
顔を洗い、服を着替え、軽く化粧をすると部屋を出て行く。
先程まで彼女がいた場所に残された枕。
彼女の温もりがまだ残っている。
それは今なお、主の代わりに泣き続けていた。
* * *
太陽が、大地を照らす仕事を月に譲った頃、自分たちの仕事を終え、宅に帰ってくる二人の姿があった。
じゃれあうように軽口を言いながら、エレベーターを降りる。
「……今日の晩御飯、私が作ったげる」
「よしてくれよ、明日も仕事あるんだぜ」
「…どういう意味よ、それ」
「言葉の通りさ。…今日の晩飯は俺が作る」
「チョット!何か引っかかるんですけど!?だいたいね…
……あ!……」
妻の言葉が途切れ、夫は彼女の目線の先を追う。
そこには――自分たちの家の前には、一人の男が佇んでいた。
「……どうした、シンジ君?」
シンジが答える。
「……加持さん、車、貸してもらえませんか」
「いいよ、ほら、持ってきな」
玄関の扉を開け、すぐそばの棚からキーを取り出す加持。
「ありがとうございます」
「……もう、決まったのかい?」
数瞬の沈黙。
その後に答えが帰ってきた。しっかりとした口調で。
「はい」
「……そうか」
余計な言葉はなかった。ただ、それだけでよかったから。
「……がんばってね」と、ミサト。
その言葉に頷くシンジの姿を見ると、二人はドアの向こうに姿を消した。
* * *
二見に車で送ってもらい、帰宅するアスカ。
その顔に浮かんだ暗い表情は疲れの為だけではなかったのかもしれない。
(……今日、わたし何してたんだろ…。
……シンジは今日、何してたのかな…。土曜日だから加持さんのお店のお手伝いかな…)
エントランスを抜け、ホールでエレベーターが降りてくるのを待つ。
(……そうよね、アイツが紹介したんだもんね。
…きっとアイツはわたしのことなんかどうでもいいと思ってるのよ。
わたしのことなんか、アイツには関係ないことなのよ…。
……。
……なのに、わたしはアイツのことを気にしてる?……何でわたしが?このわたしが?)
エレベーターが来た。乗りこみ、ボタンを押す。
(……アイツはわたしの気持ちに気付いてくれない。デートに誘ってもくれない…。
……。
いいの。アタシだって、アイツのことなんかどうだっていいの。
……。
……。
……でも、ホントは気付いて欲しい。アタシの本当の気持ちに。
…どうすれば?
……。
………自分の気持ち、伝えたいよ?……シンジ…)
チン、と音をたてて止まるエレベーター。
扉の向こうの見慣れた風景は、何故か歪んで見えた。
指先で目尻を拭うと、そのまま足を進めるアスカ。
自分の部屋の前までやってきたとき、アスカはようやくその人影に気が付いた。
「…シンジ…」
* * *
さっきまで思い浮かべていた顔がそこにある。
それは本当なら喜びの源となるはずのもの。
が、今は。
自分の心をかき乱した元凶。
かき乱された気持ちのままに、彼を受け入れる事は到底無理だった。
だから……
「ちょっと、そこ、どいてよ!入れないじゃない」
しかしシンジはその場を動こうとせず、
「…アスカ、ちょっと一緒に来てよ」と、アスカの手を取った。
その手を振り解こうとアスカは自分の手をぶんぶんと振る。
「いやよ!わたしは疲れてるんだから。手、離しなさいよ!」
それでもシンジはその手を離そうとしなかった。
逆にその手の力を強め、エレベーターホールへと引っ張っていこうとする。
「……いやっ!離してっ!
…アンタなんか、アタシのこと、どうでもいいって思ってるんでしょ!?
アタシのことなんか、自分に関係ないって……。
……だから、離してよ!」
シンジの手が一瞬止まる。
そして。
「…違うよ。関係なくなんかない。
……。
……僕は、アスカのことが好きだから」
「…うそ……」
「嘘じゃない。本当に君のことが、好きなんだ」
ずっと聞きたかった言葉だった。
彼の口から聞きたかったその言葉。
自分のためだけに紡がれるその音。
しかし、それはあまりに唐突で、彼女にとって信じるには突然すぎた。
「…嘘つかないで!アンタ、アタシのことからかって……きゃっ!?」
シンジは彼女の言葉をすべて聞く前に、彼女のその華奢な身体を抱き上げた。
そしてそのまま、走り出す。
「ちょっと、な、何すんのよ。降ろしてよ!降ろしてってば!!」
シンジは止まらない。そのまま階段へと向かう。
「ちょっと!やめてよ!降ろしてよ!」
そんな抗議の声を無視して階段を駆け下りる。
その怖さはジェットコースターの比ではなかった。
アスカは思わずシンジの首にしがみつき、叫んでいた。
「キャァァァァァァッ!!や、やめて!止まって、おねがい!」
シンジはそのまま一度も止まることなく駐車場へと駆け込んだ。
* * *
青いルノーの助手席で小さく肩を揺らすアスカ。
見ればまだ膝が震えている。
どうやらさっきのがよほど効いたようだ。
シンジは彼女の様子を横目で見ると、何も言わずに車を出した。
スピードをどんどん上げていくシンジ。
いつもの安全運転はなりをひそめ、荒く、乱暴にステアリングを切る。
メーターは法定速度の倍の数字を指し示し、あまつさえ強引な車線変更を繰り返す。
タイヤが悲鳴を上げるたびにアスカの身体は右に左にもっていかれた。
じっと睨むように運転席の男を見るアスカ。
しかし彼女もまた、何も話さなかった。
高速に乗ると、シンジの運転も少々落ち着きを見せた。
ようやく、アスカが言葉を口にする。
「……何考えてんのよ、アンタ…」
「…アスカとどうしてもドライブに行きたくってね」
シンジは自分のしたことを些かも気にしていないように彼女に微笑みかける。
その優しい微笑みに思わず懐柔されそうになるのをグッと堪えて。
「……何がドライブよ。強引に車に連れこんで。
それに『あれ』、すっごく怖かったんですからね!絶対許さないんだから」
「…ふふっ、あの時のアスカ…」
「何笑ってんのよ!ホントに怒ってるんだからね!」
「……ごめん、…でもあの時のアスカ、なんだかすごくかわいくってさ…」
予期せぬ言葉に真っ赤になってしまうアスカ。
怒っているのか、嬉しいのか。
怖かったのか、期待していたのか。
頭の中は大パニックであった。
故に出てきた言葉はかろうじて一つだけ……。
「……バカシンジ……」
その言葉にシンジは感慨深げに一言だけを返した。
「……久しぶりだね、それ……」
そう、アスカがこの言葉を発したのは随分と久しぶりのことだった。
エヴァを降りてあの闘いの日々から解放されてから、アスカの勝気な性格は日毎に薄れていっていた。
ミサトのからかいの言葉に言い返してもそこに棘はなくなっていたし、シンジに素直に感謝の言葉を言うこともできるようになった。
……つまり、彼女は自分を知る事ができたのだ。
故に人に対して示威的に振舞う必要などないと彼女自身わかっていた。
数瞬の後、アスカは静かに応えた。
とても、優しい、口調で。
「……うん、久しぶりに言っちゃったね…」
シンジもそれに軽く応える。
「…ま、確かに今日はそう言われても仕方ないことをしたけどね」
「……そうよ、責任とってもらわなきゃ」
と、微笑を浮かべて。
「…う〜ん、そうだなぁ。とっておきの風景を見せてあげるから、それで勘弁してよ」
こちらも笑顔のまま。
その笑顔に後押しされるように、アスカは言った。
「それだけじゃダメ!
……。
……もう一回、ちゃんとあなたの気持ち、教えて…」
シンジは。
目の前で微かに震える少女を言葉で抱きしめるように、それを紡いだ。
「……アスカ、僕は君のことを愛してる。
…ずっと、ずっと好きだった」
アスカは。
その蒼い瞳にうっすらと涙を浮かべながら、ありったけの想いを込めて彼に伝えた。
「……わたしも。
ずっと、ずっとシンジのことが好きだったよ。
…本当に、愛してる……」
* * *
一台の青いルノーが深夜の高速を駆け抜けていく。
東の空が僅かに青みがかって、世界は新しい一日を迎えようとしていた。
それは彼ら二人にとっての新しい日々の始まりでもあった。
〜fin〜
Written by Arts
あとがき
Artsです。前・後編にわたる長い話を最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
今回の話はいかがでしたでしょうか。最後のシーンが最初に思い浮かんだため、このシーンを導き出すためだけに色々とシチュエーションを組み上げていったのですが、おかげで話が膨らみすぎました。
その割にまとまっていないような気がしますね、力不足ということでしょうか。…精進せねば。
今回のモチーフは“Crazy Rendezvous”というB'zの古い曲です。あと、あるジャズの名曲から着想を得ている部分もありますが、そちらはソース参照ということで。(笑)
ご意見、ご感想、「次はこの曲で、こんな話を」というリクエストなどお待ちしています。
ぐっひゃあひるるるるるる...。\(●> _ <●)ほげええ←脳味噌焼かれたらしい というわけでArtsさん、投稿2発目Bパートありがとうございますー。\( > 0 < )/あしゅくわ〜 うひひひ、成長しましたなあシンジ君。そう、逃げちゃダメなのよ!←狂った(笑) それにしても、名前だけで出番無しの二見君。 ついに目覚めてとち狂ったようにアスカ様をさらったシンジ君。(笑) さあ、見事アスカ様をゲットできたシンジ君。こんなLASにんまっしぐらなお話を書いてくれたArtsさんに、感想&応援を書きまくってまた何か書いて貰おー。\(
^ 0 ^ )かいてー |
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