-----------------------------------------

episodes in the juke box

song#02:Crazy Rendezvous

-----------------------------------------

 

side:A

 

時に、西暦2021年。

世界はサードインパクトからの帰還を果たし、以前と変わらないだけの復興を既に果たしていた。

街は喧騒にわきかえり、店の棚には物があふれんばかりに並んでいる。それは生産、流通、消費、経済が回復していることを如実に語っていた。

 

碇シンジ、惣流アスカの二人はそろって第三東京大学に通っている。

が、もう以前のように葛城ミサトの宅に住んではいない。

その理由は簡単である。住めなくなったから。

その理由も簡単である。ミサトが加持リョウジと結婚したから。

そこでやむなく二人は長らく暮らした葛城家(今では加持家となったが)を出て、それぞれ独り暮しをはじめたのであった。

 

……とはいえ。シンジの新しい住まいはミサトの部屋の直下。アスカにいたってはミサトの隣だというのだから、大して今までと変わりはない。

現にアスカの朝夕の食事は毎日シンジが作っているし、加持夫妻でさえ、週に4、5日はシンジの世話になっているのだ。

……一度身についてしまった習慣とは恐ろしい。シンジはこの状況を「異常」だとは微塵も感じていなかった……。

 

 

* * *

 

 

太平楽な生活の中でも、事件は起こる。それは学内でのちょっとした会話からだった。

 

「なぁ、シンジ。おまえさぁ、惣流さんと付き合ってんの?」

そう話を振ってきたのは大学で知り合った友人の二見。

「はぁ?……いや、そんなんじゃ…ない…と思う…けど?」

「はぁ?どういう意味だ、そりゃ?……ま、いっか。じゃ、俺が彼女をデートに誘ってもいいな?」

「何でそんなこと、僕に聞くんだよ」

「おまえ、いっつも惣流さんと一緒にいるじゃんよ。だから一応聞いといた方がいっかなって」

「…彼女とは中学からの知り合いで家がたまたま同じマンションなんだって教えただろ?」

「そりゃ聞いたさ。でもよ、な〜んか、ありそうなんだよなぁ、おまえら」

 

まさか「二人でエヴァのパイロットやってました」などと答えられるはずもない。慌ててその言葉を否定する。

「な、何にもないよ、ホント」

「…………ま、いっか。そのかわりあとで恨み言、言うんじゃねぇぞ」

「はは、なんだよ、それ……」

「そんじゃ、俺、そろそろ行くわ」

「ん…、じゃね」

 

 

二見の後ろ姿を見つつ、彼の言葉を繰り返す。

『彼女をデートに誘ってもいいな?』

(アスカをデートに…か。そんなこと僕に聞かれたって仕方ないじゃないか。

アスカがどう思ってるかが大事だろ、それがまず第一じゃないか)

自分の中で答えを出してみる。が、それでもすっきりとしないシンジであった。

 

 

* * *

 

 

今週最後の講義も終わり、さっと片付けて帰途に着くシンジ。

帰りがけに夕食の献立を考えるために、近くのスーパーに寄っていくのが彼の日課だ。

後でもう一度、今度は車でここにやってくる。

一人分の食材を買うことよりも四人分のものを買うことの方が多いため、大学に入学してすぐに車の免許を取った。

車自体はミサトのルノーを借りるしかないのだが、おかげで買い物はずいぶんと楽になっている。

今日も特売品の値段と鮮度を吟味しながらメニューを考えていく。

『主夫シンジ』の名は伊達ではない。

「……よし!」

……どうやら決まったらしい。

 

 

* * *

 

 

いったん自分の部屋に戻り荷物を置くと、1つ上の階の加持夫妻の部屋に行く。

加持はちょっとした喫茶店を経営しており、ミサトもそれを手伝っているため昼間は誰もいない。

シンジは『家政夫』としての立場上、鍵を預かっているので別段の断りもなく部屋に入る。

とはいえ、他人の家だ。長居は無用。

玄関先においてある小さな棚から車のキーを取り出すと、夕食の買出しに出かけるべく、駐車場へ急いだ。

 

 

* * *

 

 

加持の店は彼らのマンションからほど近いところにある。

買い物の後、ここに来て少し一服してから夕食の支度にとりかかるのもまた、シンジの習慣であった。

 

シンジはこの小さいが落ち着いた雰囲気の店に来るたびに、加持リョウジという男の度量を思い知らされる。

が、それはシンジにとって決して不快なものではなく、むしろそれが理解できるようになったことは自分の成長のメルクマールだと思うことができた。

 

 

今日もいつものように大学であったことなどを加持に話す……、という風にはいかなかった。

知らず知らず、無言になってしまう。

目の前のアイスコーヒーを静かに飲むだけで店の主と目を合わそうとしない。

そんなシンジに加持が軽く問う。

「どうした、シンジ君。何かあったか」

「いえ、別にそんなんじゃないんですけど……。

ただ、友達に言われたんです。『アスカをデートに誘っていいか』って……」

何か言いそうになる妻を目で制し、シンジに先をうながす加持。

「それでどう答えたんだい?」

「答えるも何も、そんなの僕が答えられることじゃないじゃないですか。

だってそういうことはアスカの気持ちが第一で、僕には…」

「何も関係ない、か?じゃ、君は何を悩んでるんだ?」

「それは……」

「アスカが言ってたよ。『明日は二見君とデートしなくちゃならくなった』って」

肩が揺れるシンジ。

「…え?アスカ、来たんですか、ここに?」

「ちょっと前にね」

「で、どんな様子だったんですか」

「気になるのかい?」

カラン、と氷が乾いた音をたてた。

「…………はい」

「……何だか、悲しそう、いや寂しそうというべきかな。そんな表情(かお)だった」

「そうですか……」

「シンジ君、君はそれを聞いてどうするんだい?」

「……わかりません。……自分がどう思っているのか。アスカがどう思っているのか。

……もう少し考えてみます」

「……」

「……すいません、加持さん。こんな話して。

そろそろ帰ります。夕食の支度して待ってますから」

「…ああ、いつもすまんな」

「いえ、構いませんよ。じゃ」

 

 

シンジが運転する青いルノーがゆっくりと遠ざかって行くのを見届けると、ミサトは夫に愚痴るでもなくつぶやいた。

「…ったく、シンちゃんは相変わらず鈍いわねぇ」

「まぁ、そう言ってやるなよ。だが彼も昔の彼のままじゃないさ」

「……あなたが昔のままじゃないのと同じように?」

「そう。時間の流れってのは人間を変えていくものさ。本人も気付かないところでな」

「…。

年年歳歳花相似(ねんねんさいさい はなあいにたり)

歳歳年年人不同(さいさいねんねん ひとおなじからず)

…ってこと?」

「そういうこと、だ。……ふっ、しかしお前らしくないぞ、そんな台詞」

「あらっ、ひっどいわねぇ〜。あんただっていっつも気取ってるくせに」

軽口を叩く。

だがその心中に去来する思いは妻も夫も同じく一つであった。

即ち、自分たちの弟妹のような二人に幸あることをただただ祈って……。

 

 

* * *

 

 

「さてと、始めますか」

一人つぶやくと夕食の支度にとりかかるシンジ。

ここは加持の部屋。シンジは自分の部屋には戻らず、直接ここにやって来ると料理を始めた。

そしてこれができあがると加持たちの帰りを待ち、アスカを呼んで来て四人で夕食にする。

これもいつものことだ。

 

手馴れた手つきで食材を切り、鍋に入れていく。

……が、今日は途中でふと手を止めて思いに耽ってしまうことがたびたびあった。

「アスカと僕……。

……二見とデートか…」

その言葉に文句を言うように、完全に忘れられた存在となっていた鍋がカタコトと自己主張をしてみせる。

「おっと、危ない、危ない」

今日の料理はちょっと心配かもしれなかった……。

 

 

* * *

 

 

「「ただいま〜」」

家の主たちが帰ってきた。

「おかえりなさい、御飯ちょうど今できたところですよ。アスカを呼んで来ますね」

「お願いね、シンちゃん」

ミサトの返事を聞きながら玄関を出ると、すぐ隣のインターホンを鳴らす。

程なくして返ってくる返事。

「はい?…あ、シンジ。御飯できたの?」

「うん。隣で加持さんたちも待ってるから」

「ん、わかった。すぐ行くから」

どこか翳のあるアスカの声。

気にはなったものの本人にそれを尋ねることもできず、シンジは隣室に戻った。

 

シンジが戻ると部屋着に着替えた加持とミサトが待っていた。

ミサトの手には既にえびちゅが握られている。

加持も諦めているのだろう、呆れたような顔をしながらも何も言わない。

無駄と知りつつも一言注意するシンジ。

「ミサトさん、飲みすぎには注意してくださいよ」

まさに無駄である。その言葉を聞きながらミサトは一缶、一気にあおっていた。

「んもう、シンちゃんは心配性なんだから。これくらい飲んだうちに入らないわよ」

「でもお腹の方にはきっちり反映されてるのよねぇ〜」

ミサトの言葉に応えたのはシンジではなく、アスカであった。

その声は普段と変わりなく、明るく弾むようだ。

(さっきの……、気のせいだったのかな?)

心の中で独り言ちるシンジ。

そんなシンジに気をかけることもなく、ミサトはアスカの言葉に多少の焦りをもって大声を上げた。

「な、何言ってんのよ、アスカ。あんた私の『ないすばでぃ』が羨ましいからってそんなこと言わないでよ」

「はっ、それはこっちの台詞よ。六年前ならいざ知らず、三十路も半ばの女にこのアタシが負ける訳ないでしょ。

こっちはハタチになったばっかのぴっちぴちなんですからね」

「な……、言ってはいけないことを言ってしまったようね、アスカ」

迫ってくるミサト。はっきり言ってかなり、怖い。さすがにアスカも少し引いてしまう。

「おいおい、せっかくのシンジ君の料理が冷めるじゃないか。二人ともはやく座れよ」

アスカに助け舟を出し、場を収める加持。

ここまでの『毎度の展開』にいささか呆れながらも配膳を進めるシンジ。

そんなこんなで加持家の夕食は今日も始まるのだった。

 

 

* * *

 

 

食後のひととき。

それは彼らにとって久しく味わうことのできなかった『家族の団欒』を感じさせる、もっとも幸せな時間であった。

常日頃考えていることについて真剣に語る日もあれば、他愛もない話で大笑いすることもある。

そんな時間。それは彼らにとって何物にも代え難い大切な一瞬の連続であった。

 

 

話題を提供するのは決まってアスカかミサトであった。今日もミサトがアスカに話を振る。

「アスカ、明日デートなんですって?」

「そ、二見君と」

気のない返事。

その中に先と同じ翳を、シンジは見つけた。

「どこに行くとか、決まってるの?」と再び問うミサト。

「う〜ん、出かけるのはお昼からだけど、あんまりきちっと予定は立ててないみたい。

とりあえず夜はR.Companyの舞台があるからそれを見に行こうって言ってたけど?

ま、わたしは別にどうでもいいんだけどね」

「ふ〜ん。なんだか乗り気じゃないみたいね。

もしかして他の誰かとデートしたかったのかな〜?」

「な、何よ、べ、別に誰ともデートなんかしたくないわよ」

その言葉に疑問を口に上すシンジ。

「…え?じゃあどうしてOKしたの?」

「…断る理由がなかったもの。

……それにシンジ、アンタが紹介したんでしょ?彼、そんなこと言ってたわよ」

「え?いや、そういう意味のことを言ったつもりじゃ……」

「なにごちゃごちゃ言ってんのよ」

その言葉に苛立ちが見え隠れする。

「……。わたしそろそろ帰るわ。加持さん、ミサト、おやすみなさい。

…シンジもおやすみっ!」

そう言い残すとアスカはバタバタと自分の部屋に帰ってしまった。

 

残された三人の間になんともいえない空気が広がる……。

 

そしてしばらくの後、加持が口を開いた。

「……シンジ君。もう一度聞こう。君はどうするんだい?」

「……僕は……」

言葉がそこで潰えてしまうシンジ。

加持は黙ってその続きを待つ。

「……」

「……」

その沈黙に割り込んだのは二人の様子を窺っていたミサトであった。

「シンジ君。あなたはアスカのこと、どう思ってるの?」

「え……?」

咄嗟のことに対応できないシンジ。

いらついた調子で再度問うミサト。

「もうはっきり聞くわ。アスカのこと、好きなの?それとも違うの?」

ストレートのパンチをモロにくらって立っているのがやっとのシンジであったが、それでも彼は意地を見せた。

言葉を、告いだ。

「……ぼ、ぼ、僕は……、あ、アスカのこと……、す、好き、です。

で、でもアスカが僕なんかのこと好きになってくれるはずがないし…」

「で、逃げてばかりいる訳ね。自分から可能性を捨てて、今の状態を守ることに必死になっているのね」

「……」

「アスカのことだけじゃない!二見君のことにしてもそう。あなたは友達が自分から遠ざかるんじゃないかって怖がってばかりで、自分の本心も伝えられなかったのよ!『アスカがどう思うか』。『二見君がどう思うか』。そうやって他人(ひと)を思いやっているつもりになっても、自分の本心に嘘をついて考えることなんか所詮、偽物だわ!それは他人のことを思っているんじゃない、自分のことしか考えていないのと同じよ!そうやって嫌われることを怖れて自分を守ってばかりいて、本当に大事なものを失ってから悔やんでも仕方ないのよ、シンジ君!」

「……」

一気にまくし立てるミサトに、シンジは何も言えなかった。

『守ってばかり』……その言葉が心に重く響いていた…。

「アスカがどんな思いをしたかあなたはわかってあげられないの、シンジ君!?アスカだってあなたのこと……」

「ミサト!」

加持がミサトの言葉を遮る。

はっとして加持を振りかえるミサト。

その彼女に一つ頷くと加持は静かにシンジに語りかけた。

「シンジ君。今ミサトが言ったことは俺も言おうと思っていたことだ。

……いいか、シンジ君。君は自分の気持ちを知ったはずだ。

そしてミサトの言ったことも今の君なら理解できるだろう。

その上でこれからどうするか、どうしたらいいか、自分で考え、自分で決めろ」

「……」

シンジはやはり何も話さない。が、今度は誰もその沈黙を破ろうとはしなかった。

シンジの言葉を待つ。

 

長い沈黙の後、シンジは絞り出すように声を発した。

「……すいません。加持さん、ミサトさん。

……もう少し、考えさせてください」

「ああ。自分が納得のいく答えをゆっくり探せばいい」

「……自分の部屋に帰ります。…おやすみなさい、加持さん、ミサトさん」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい、シンジ君」

挨拶を交わすと、シンジは部屋へと帰っていった。

 

 

* * *

 

 

その夜、シンジは遅くまで寝付けなかった。

 

 

* * *

... continued to side:B

Written by Arts

 

(Bパートへ進む)


あとがき

物語は後編、side:Bへと続きます。

表題となった曲のイメージが出てくるのは後編であり、実は前編はその前振りだけなんですよね。(苦笑)

ちょっと中途半端なところで区切った感もありますが、どうか後編もお付き合いくださいませ。

ご意見、ご感想、「次はこの曲で、こんな話を」というリクエストなどお待ちしています。



ミサトさんナイス!(爆)

というわけでArtsさん、投稿2発目ありがとうございますー。\( ^ 0 ^ )ありがとー

ぬおお、今回は恋愛小説の王道を走ってきましたな〜。(@_@)ほほう
伝えられない自分の想い、そして見えない相手のココロ。それに、友人関係が絡むと見事泥沼へと..。( ^_^;)ひええ

このシンジ君はドラえぽんの中のシンジ君にかなり近いですね〜。(笑)
そんなシンジ君は自分の本当のココロを掴む事が出来るのでしょうか。

さあ、早速Artsさんに感想&応援を書いて続きを書きまくって貰おー。\(●> _ <●)/あしゅかー
感想掲示板にも書いてね。(笑)

ちなみに、これにもArtsさんのウラ声あり。ソースを見よー。

Artsさんへの感想はここです。

または簡単感想用掲示板へどうぞ。

感想用フォームです。2,3行の感想でも作者さんは嬉しかったりするのだ。

ここから是非感想を送るのだー。\(●> _ <●)おーっ

名前(必須ナリ)

メールアドレス


お題を選択


ご意見その他はここへ

自動的には改行されませんので、適宜改行して下さい。
メールの場合、大体1行当たり半角72文字前後が目安です。

送信前に確認表示を表示する。